東京・秋葉原に一風変わった歯科医院が存在する。その名は「アキバ歯科」。歯科衛生士・歯科助手がメイド服で接客する「萌え歯医者」として今年7月にオープンし、内装も“メイド喫茶”を彷彿（ほうふつ）させる作りとなっている。歯科医院×コンセプトカフェという斬新な業態がSNSを中心に話題となったが、どのようなスタッフが働いているのだろうか。同院で歯科衛生士として働くななさんに、応募した理由や業務内容について聞いた。（取材・文＝石井宗一朗）

　採用開始時、誰よりも早く「アキバ歯科」に応募したななさん。一般的な歯科ではなく、同院で働きたいと思った一番の理由は“メイド”への憧れだった。

「アイドルかメイドをやりたかったんです。アイドルの方に受かったのでアイドルをやっていましたが、やっぱりメイドも好き。メイドカフェで働きたかったんですけど、そちらは中々うまくいかなくて……。諦めていたときにこの歯医者を見つけました。もともと歯科衛生士だったのでその能力も生かせますし、メイドにもなれると思って応募しました」

　メイド服が決め手の1つではあったが、同院の院長・湯川譲治氏の面接時の印象も影響した。「働きたいと思っていても、やっぱり面接で感じが悪かったりするとその意欲もなくなってしまう。でも湯川院長と話して、ここだったら大丈夫だと思いました」。

　湯川院長の第1印象は「親しみやすい方」。説明された業務内容については「『歯磨き練習』といった通常の歯医者にはないものも多く含まれていたので、意味が分かりませんでした」とぶっちゃけたが、「実際に業務が始まると、褒めてくれたり、モチベーションになることも言ってくれて優しいです。ちょっと忘れっぽいとこもあるんですけど」と笑顔で評価した。

　開院から約4か月。当初はチェキ撮影など、コンカフェ要素の強いオーダーが多いと予想していたが、まったく違う結果となった。

「想像していたより検診したい、虫歯を治したいといったお客さまが多くてびっくりしています。自分が施術などを行うことは少ないだろうと思っていましたがその逆。毎日クリーニングや治療しかしていない状況です（笑）。なのでチェキ撮影とか、そういった楽しみを期待して来られるお客さまがもっと増えればいいなと思っています」

　同院の診察時間は午後2時から午後11時まで。一般的な歯科医院と比べ、かなり遅い時間まで営業している。土日も開診していることに加え、JR秋葉原駅から徒歩数分の好立地。こうした利便性の高さから、想定と異なる客層を多く獲得することとなった。

「“コンセプト”と言われるとちょっと恥ずかしいと思う気持ちも分かります。でもやっていることは普通の歯医者と一緒。たまたま若い女の子たちがいっぱいいて、かわいい制服を着ていると思ってもらって、気軽に来てもらえるとうれしいです（笑）」

　同院の歯科衛生士・歯科助手には、“自分を見せる”ことを得意とする人材がそろっている。「私はアイドルをやっていたんですけど、コスプレイヤーに配信者など、何かしら兼業をしている子が多い。そういうのがあるから、みんな自分を見せることに抵抗がなく“かわいい”が好きだと思います」。

　歯科恐怖症の人へのケアが強みの1つでもある同院。“歯医者嫌い”な患者も多いため、あえて歯に関係のない世間話や趣味の話を「少しでも楽しいと思ってもらえるように」と意識することもある。

「歯医者に来たら『痛い思いをするんじゃないか』『怖い思いをするんじゃないか』というイメージを持っている方も多くいらっしゃると思うんですけど、本当にここはそんなことなくて、まず最初にしっかりお話もしますし、私たちも気を紛らわすお手伝いをします。仮に途中で施術が嫌になったら止めますし、その人に合わせて治療計画なども立てていく。急に何かすることはないので相談だけでも来てほしいです」

　歯のクリーニングだけでも大歓迎だというななさん。例え虫歯などの異常がなくても、定期健診として同院を利用することができる。

「かわいい女の子たちに会いたいとかでも良いので気軽に来てくれるとうれしい。『怖いイメージあったけど来てよかった』『居心地いいね』と言ってくれるお客さまも多いので、来れば分かると思います（笑）」

　歯科医院とコンセプトカフェが融合した「萌え歯医者」。斬新な業態の「アキバ歯科」だが、“通いやすさ”に特化した歯科医院でもある。「来れば分かる」という魅力を確かめに、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。