奇跡の夢カード実現に世界中が熱狂 グレート・ムタVS中邑真輔に棚橋弘至もびっくり
武藤敬司、中邑真輔、棚橋弘至。日本だけでなく世界マット界を彩ってきた3人のスター選手の絡み合った糸に、深い感慨を覚える。来年のノア2・21東京ドーム大会で、リングから去る武藤。ラストランに突入しているが、中邑、棚橋も引退ロードに欠かせない。
柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.118】
武藤敬司、中邑真輔、棚橋弘至。日本だけでなく世界マット界を彩ってきた3人のスター選手の絡み合った糸に、深い感慨を覚える。来年のノア2・21東京ドーム大会で、リングから去る武藤。ラストランに突入しているが、中邑、棚橋も引退ロードに欠かせない。
元日の東京・日本武道館大会で、武藤の化身であるグレート・ムタと中邑が対戦することになった。ムタは全米マット界を席巻したレジェンドとして、その名はアメリカのファンにも浸透している。中邑は日本を飛び出し、米WWEに所属するスーパースター。日本の団体の興行に参戦することなど考えもつかなかった。
10・30東京・有明アリーナ決戦で発表されたが、当日、新日本プロレスから武藤との“師弟対決”のために駆け付けていた棚橋も「イスから転げ落ちそうになった」と苦笑いしたほど。サイバーファイト・ノアの武田有弘取締役は「半年前から交渉してきた。何度も諦めかけたけど、ついにOKがでた」と笑みをこらえきれなかった。
10月13、14日に営まれた猪木さんの葬儀に中邑も弾丸ツアーで来日しており、武田氏とも顔を合わせていた。殿堂入りを果たしていた猪木さんへのWWEの敬意も後押ししてくれたに違いない。
今回はムタとの対戦だが、中邑と武藤といえば、新日本プロレスそして中邑が「もう一歩」とあがいていたときに、IWGP王座をかけて激突している。新日本から全日本プロレスに移籍していた武藤が、2008年4月「チャンピオン・カーニバルにお借りした棚橋選手は、想像以上に良かった。新日本には他にも棚橋クラスがいるのか、確かめたい」と、当時のIWGP王者・中邑に挑戦の名乗りをあげたのだった。
果たして、武藤は中邑から栄光の王座を奪取した。新日本時代に戴冠しているベルトを、外敵として腰に巻いたのだ。両手を大きく広げてLOVEポーズを決める武藤は光り輝いていた。新日本ファンも拍手と歓声で、その勇姿を称えている。
時の菅林直樹社長の思い切ったショック療法でもあった武藤の新日本登場だったが、ファンも新日本育ちの武藤だったこともあり、すんなりと受け入れていた。武藤は中西学、後藤洋央紀、真壁刀義、中邑と4回の防衛を重ね、09年1・4東京ドーム決戦で、棚橋の挑戦を受けて立つ。
「これぞプロレス」という攻防の末に、棚橋がハイフライフロー2連発で、至宝を奪回した。棚橋、新日本ファンの喜びはこれまで以上に大きかった。
「タスキを棚橋に渡す」と悔しさを押し殺した武藤が、バトンタッチを宣言。新日本だけでなく日本プロレス界のエース交代だったのかも知れない。
ちなみに08年のプロレス大賞MVPは武藤、09年は棚橋が選出されている。武藤にしてみれば中邑からスタートした08年の快進撃であり、棚橋も打倒・武藤を成し遂げたことで、栄光の09年が始まったのだろう。
武藤は来年2月のラストマッチに向けて一戦一戦を大切に闘っている。かつて猪木さんは「プロレスは芸術」と口にしたが、武藤も「俺にとっては(試合は)作品だから」と漏らしたことがある。
来春1・1決戦のムタVS中邑も期待が高まる。思えば、今ではムタはノア、中邑は米WWEの選手。新日本から飛び出した2人である。
「魔界からの刺客」ムタとWWEで磨きをかけた中邑が対峙(たいじ)しただけで“絵になる”のは間違いない。どんな「名作」になるのか、我々の期待を超える名シーンの連続となるはず。
今からワクワクする。日本だけでなく世界中のファンが固唾を飲むのは間違いない。武藤、中邑、棚橋。過去から現在まで、3人が絡み合う物語は最後まで華麗でドラマチック。その“プロレス版大河ドラマ”は、もうすぐ幕を閉じるが、ファンの記憶の中にいつまでも鮮明に残ることだろう。