有村昆、“時短時代”の映画評論に求められるモノ「独自目線で紹介して価値を付ける」

2021年5月の写真週刊誌による報道で活動を自粛していた有村昆。復帰後は新たなキャラクターで芸能界を歩んでいるが、映画への思いは全くぶれていなかった。2022年の映画界。「ファスト映画」に「性加害報道」と転換期となっている現状や自身の映画評について有村に聞いた。

映画について思いを語った有村昆【写真:ENCOUNT編集部】
映画について思いを語った有村昆【写真:ENCOUNT編集部】

映画批評の信念「ライトユーザーに分かりやすく」

 2021年5月の写真週刊誌による報道で活動を自粛していた有村昆。復帰後は新たなキャラクターで芸能界を歩んでいるが、映画への思いは全くぶれていなかった。2022年の映画界。「ファスト映画」に「性加害報道」と転換期となっている現状や自身の映画評について有村に聞いた。(取材・文=島田将斗)

「日本人の半分が1年間に2本しか映画を見ていないんですよ」と統計を例に出し現状を嘆く。それでも映画鑑賞が呼吸をするのと同じだと話す有村の目には確かな光があった。

 YouTube、ツイッター、TikTok。SNSを駆使して映画に関する発信を熱心に行っている。ライトユーザーに分かりやすい解説をすることをモットーに中でも力を入れているのはTikTokだという。

「ショート動画は短くて分かりやすいよねっていうひとつのサンプルとしては今の時代最もやらなければいけないことだと思っています。TikTokは20、30代の若い世代が多く見ているので、映画の魅力をサッと伝えるのにめちゃくちゃ向いているんですよね」

 切り抜き動画やショート動画、倍速再生など映像が短い時間で消費される時代になってきている。映画もそのターゲットとなった。1時間以上ある作品が無料で10分程度で見られることにニーズがある。ファスト映画と呼ばれる動画の中には100万回再生を超えるものもあるほどだ。

「著作権を無視している。ファスト映画は絶対にダメ。著作権は守られるべき。ただその映画の見どころを、映画解説者が分かりやすく伝えて映画を見たくさせる3分ほどの映画紹介ショート動画はあり」

 大前提として著作権無視にNOを突きつけながらも現代の“時短”文化の気持ちは分かるとうなずく。

「2時間待てない……。そこを僕らのような映画のプロが独自目線で批評紹介というのはありだと思います。各自によって映画のレビューが違うので共感したり意見が違ったりするのが面白く、答え合わせをする楽しみが今のSNSにはある」

“時短”が求められている時代のなかで、短い時間で効率的に映画への批評や紹介し、タメになってもらうという価値を付ける。それをするのが評論家やコメンテーターたちの仕事だ。

「僕らができること『この人の感想が聞きたい』と思ってもらうこと。映画というのは“素材”で僕たちは“料理人”。1番面白いのはその人が何を見て何を考えたかっていう批評なんですよね」

 鑑賞して終わりではない。その後の料理人の味付けもセットで堪能することこそ醍醐味(だいごみ)であると笑った。

「トム・クルーズのミッションインポッシブル、それは面白いに決まっているんですよ。ただミッションインポッシブルを皮切りにその素材を“中華の鉄人”、“和食の鉄人”、“フレンチの鉄人”が味付けをして、その違いを楽しんでほしい。同じものを見た人の頭の中を垣間見る瞬間が1番楽しいんです」

 映画鑑賞後には喫茶店で帰り道で感想を言い合うことも多かった。現代はSNSの普及によってより多くの人の感想を目にできる。有村はこれを「1億総映画評論家時代」と表現した。

 誰もが評論家。それでも批評を仕事にしている有村には自信があった。「僕が信条としているのは決められた尺の中でいかに、視聴者の皆さまのニーズにあった分かりやすい解説を端的に伝えること。特にテレビやネット動画は尺が短い。それが自分に求められていることだと思います」。

「韓国映画は韓国の“匂い”があるからおもしろい」

 2017年に米国ではセクハラ被害をSNS上などで告発する「#MeToo運動」が始まった。告発の特性からも日本にも運動は波及。今年、映画監督や俳優の性加害が明るみになり、大きな波紋を呼んだ。性的な撮影を伴う場合には監督と役者の間に入りサポートするインティマシー・コーディネーターという新たな職業も話題になった。有村は日本にも転換期が訪れていると分析する。

「性にフィーチャーしがちなんですけれど、僕はもう少し大きく見ています。マイノリティー、ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)っていうことが社会全体でムーブメントとして起こっていると感じました」

 マイノリティーが少なくなっていく時代にも突入していると分析する。日本でもBL(ボーイズラブ)作品や百合(女性同士の恋愛など)作品が近年、増えてきている。

「LGBTのことを普通に描くっていうのは日本のドラマでもある。これまでセクシャルなことについて恥ずかしいとかフタをしていたんですけれど、それを言える良い時代になった。この波はどんどん加速すると思います」

 さらに「もっとハリウッド的な目線で言うと白人のイケメン美女が主役の時代は終わりとか。『007』でも黒人だとか『リトルマーメイド』『スパイダーマン』も黒人になったりしていますよね」と続けた。

 良い時代と言いつつもマイノリティーや人種に配慮することが必ずしも良いことではないとも強調した。

「中世の貴族を描く映画にも黒人が貴族として出てくる。それをやってしまうと時代考証がぐちゃぐちゃになってしまうんです。それをやっていいのかという問題もあります。他にもディズニーがポリコレを気にしすぎているという話もあります。『ミラベルと魔法だらけの家』(21年)が公開されたんですけれど、めがねをかけた正直あまり美人ではないヒロインが歌ったり踊ったりするんです。米国本国でもさすがに視聴者からあまり人気が出なかったんですよ。やりすぎも良くないのでは思いますよね」

 こう話す有村は眉間にしわを寄せる。「日本映画って日本人が出るから日本映画。そこに世界のいろんな国の人が出てしまうと日本映画の特色がなくなってしまいます。ファーストフードのチェーン店と同じになってしまう。韓国映画・ドラマは韓国の“匂い”があるから面白いんです。見る側のリテラシーも求められますよね。これは本当に難しい問題です」とうなった。

“どの評論家の方よりもできる”。映画をより身近にする裾野を広げることへの絶対的な自信が日本人の映画鑑賞の本数を増やすことにつながっているのかもしれない。

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