ロバートの“ストーカー”がテレビ局員に ファン歴15年の情熱、好きを仕事に変える方法
「ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~」。思わず目を疑ってしまう本のタイトルだ。主人公は名古屋のテレビ局「メ~テレ」入社4年目の26歳・篠田直哉氏。小学生から15年間、お笑いトリオ「ロバート」を追いかけ続け、テレビ局員にまでなってしまったという男だ。そんなホワイトストーカーの一風変わった“推し活”について話を聞いた。
15年間、「ロバート」へ愛を貫いてきた篠田直哉ディレクター
「ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~」。思わず目を疑ってしまう本のタイトルだ。主人公は名古屋のテレビ局「メ~テレ」入社4年目の26歳・篠田直哉氏。小学生から15年間、お笑いトリオ「ロバート」を追いかけ続け、テレビ局員にまでなってしまったという男だ。そんなホワイトストーカーの一風変わった“推し活”について話を聞いた。
小学生で「ロバート」に出会い、虜(とりこ)に。当時は配信などなく、録画も録音もできないライブを何度も楽しみたいと篠田少年はいつしかライブ中にメモを取るようになった。
篠田少年のメモを取る姿は「ロバート」の目にも止まる。彼らから「メモ少年」と呼ばれ、ロバート愛はより加速し、深まっていった。
そんな篠田氏が2021年にYouTubeにアップした動画「【ロバート秋山】元ストーカーがテレビ局員に。職権濫用で番組に呼ばれる」は投稿後、すぐに50万回再生、200万回再生を超えたころには本の出版の話が届いていた。
「動画の反響は正直怖かったです。これは自分の話。純粋に何がおもしろいのか全然分からなかった。うれしい反面、番組を作って配信していたのでその再生回数を上回ってちょっと焦りました。人間味あるものだから伸びたのだろうなって、地上波でいいとされているものと配信コンテンツの違いが勉強になりました」
「ロバート好きの篠田直哉」は社内外に定着しつつある。今でこそ有名テレビディレクターだが、あるときまでは「ロバート」のマネジャーを目指していた。
転機は学園祭だ。篠田氏は大学で学園祭実行委員会に所属。1年時から「ロバート」を大学に呼びたい一心から先輩のもとで仕事を学ぶだけでなく、草の根活動を行っていた。自身も「2年目のための関係値づくりの時間」と振り返る。
そして迎えた大学2年。お笑い芸人を呼ぶ責任者になった。最初のミッションは実行委員たちへの説得だった。
「ロバート1組を呼びたいって150人くらいいる実行委員を説得をしなければいけませんでした。各担当部署でロバートの鑑賞会を行って、おもしろさを説明して、ロバート一組で行けますよね?って雰囲気を作りました」
「ロバート」サイドへのアプローチも並行して進めていた。「学祭の日って決まっているのでそこをまず押さえなきゃと思って、ライブの出待ちとかでロバートさんに言い続けました」
通常、秋に行われることが多い学園祭。6月から7月に募集が始まるが、篠田氏は4月から所属事務所の応募フォームに記入。第20希望までを入れる必要があるなか、第1希望の「ロバート」一点張りで先手を打った。
「早すぎたんですよね(苦笑い)。なかなか返信が来ない間もライブの出待ちとかで秋山さんに言い続けました。それで6月くらいに秋山さんに『マネジャーに聞いとくわ』って言ってもらったんです」
結果として学祭に呼ぶことに成功した。「後から聞いた話ですけれど、秋山さんが裏で『あいつ(篠田)がずっと言っていたことだからやってあげたい。日付を押さえてくれ』って言ってくれたみたいです」と舞台裏を明かした。
本番前日、篠田氏はステージ上で約2時間のリハーサル。それだけでなく、1日中カンペのタイミングの確認や当日使う小道具を野外ライブ用にアレンジしたりと万全の状態で臨んでいた。当日は多摩にある大学に約3000人の観衆が押し掛け、大成功を収めた。
マネジャー志望からテレビ局員志望へ
学祭を終えて何かが変わった。将来の進路がマネジャーから制作者側へ。篠田氏は「ロバートさんの中では、一区切りしていました。自分はそれでもまだ一緒に仕事をしたかったんです」と振り返る。
きっかけの1つとしてあったのが山本博との会話だった。
「ライブハウスで博さんと30分くらい話す機会がありました。『実際にロバートと一緒に仕事したいんだよね? マネジャーじゃないんじゃないかな』と言われたんです。『作家さんとか一緒に作る方なんじゃない?』『マネジャーになったとしても担当はすぐ変わる』など僕のためのアドバイスをいただきました」
作家という夢も頭によぎったが短い出待ちの時間で「ロバート」と話を重ねるうちに夢はテレビ局員へと変わっていった。
推し活が仕事に。小学生からの「ロバート」一筋だったとはいえ簡単にできることではない。就職活動という壁が立ちはだかった。
「“ロバートが好き”で就活を戦っていたので、最初はことごとく落ちました。“ロバートが好き”だから番組を作りたいっていうエントリーシートと面接の受け答えだとただの自己満足に終わってしまうんですよね」
好きを仕事にするには、推しへの“愛”だけではやっていけない。大切なのは「利己的であるが故に他己的」であること。先輩から授かった言葉だというが、仕事の話になると口調は熱を帯びていく。
「自分のためなんだけれど他人のため。ロバートの番組を作ることは、自分のためであるけれど、誰かが笑ってくれたりとかその先があるんです。自分の本も自分のためにも書いたんですけれど、本経由でロバートさんを好きになったっていう声も届いています。それはロバートさんにとってもプラスになっているのかなと思いますね」
就職活動の後半戦で意識したのは「自分のために番組を作るんだけれど、人のために、会社のためにもなる」ということ。“ロバートが好き”が「本気度」となって伝わった。
「変わっていないな」。ふと思い出したかのように笑う。「中学生のときから人にロバートの話をしていました。それって自分が好きなロバートを聞いてほしいのではなくて、こんなにおもしろいロバートを知らないのはもったいないよっていう感覚でした。今もそれは変わらない。テレビで見る姿だけじゃなくて、実はロバートってこういうディープな笑いもやっているっていうのも知ってほしい」とさながら少年の目をしていた。
□篠田直哉(しのだ・なおや)。1996年5月12日、大阪府生まれ。メ~テレコンテンツビジネス局コンテンツプロデュース部兼イベントコンテンツ部所属。2019年に同社に入社。ディレクターとして映像番組、コンテンツ制作を担当。