【週末は女子プロレス♯72】輝けなかったグラビアアイドルからの転身、白川未奈はプロレスで「人生が楽しくなった」

今年の10月は、スターダムの白川未奈がプロレスを知ってからちょうど10年にあたる。節目となるこの時期、11・3広島サンプラザ大会で、白川はワンダー・オブ・スターダム王座に2度目の挑戦。前回はコズミックエンジェルズのリーダー中野たむとの同門対決で、チャレンジマッチ的な要素が濃かったが、今回はここまで9度の防衛に成功している上谷沙弥に挑むことになる。前回とはまったく異なるシチュエーションで、白川は今度こそと、本気でシングルのベルトを取りにいく。

自身の過去について語った白川未奈【写真:新井宏】
自身の過去について語った白川未奈【写真:新井宏】

上谷沙弥のベルトに挑戦

 今年の10月は、スターダムの白川未奈がプロレスを知ってからちょうど10年にあたる。節目となるこの時期、11・3広島サンプラザ大会で、白川はワンダー・オブ・スターダム王座に2度目の挑戦。前回はコズミックエンジェルズのリーダー中野たむとの同門対決で、チャレンジマッチ的な要素が濃かったが、今回はここまで9度の防衛に成功している上谷沙弥に挑むことになる。前回とはまったく異なるシチュエーションで、白川は今度こそと、本気でシングルのベルトを取りにいく。

 白川は芸能界からプロレス入り。青山学院大学卒業後、ブライダル企業に就職も芸能界への夢が捨てきれず、グラビアアイドルとしてデビューを果たした。しかし、芸能の現場は想像以上に過酷で仕事が得られない時期も続いた。「ミュージカルやりたいとか歌いたいとかあったんですけど、最初がグラビアの事務所だったのでそこから始めました。でも、人前で水着になるのはやっぱり恥ずかしいし……」。

 夢の場所なのに輝けない、いまひとつ弾けきれない。そんな頃、友人からプロレス観戦に誘われた。2012年10・8両国国技館、新日本の40周年記念大会だった。気晴らしのために見てみたプロレス。白川はここで繰り広げられた激闘の数々に衝撃を受けた。

「プロレスラーになった人ってそれだけでも普通じゃないし、夢を追いかけて実現させたと思うんですね。その場所で命を懸けて闘ってる。内藤(哲也)さんなんてヒザを壊されても目は死んでなかったし、やりたいことにすべてを懸ける姿を見てレスラーってすごいと思ったんです。芸能界で売れたいんだったら水着がイヤとか言ってる場合じゃないなと、元気をもらったんですよ。自分も奮い立たされましたね」

 以来、プロレスにどっぷりハマった白川は年間で50大会以上生観戦するような筋金入りのファンになった。また、過去の雑誌や映像も熱心に見るようになり、グレート・ムタや獣神サンダー・ライガーら、姿を変えて闘うレスラーの存在も知った。素顔の自分以上の存在に変身できるプロレスラーに魅了された。

 とはいえ、30歳の足音が近づいてくると周囲からの雑音が入ってくるようになった。「いつやめるの? とか、いつまで夢を追ってるの? とか言ってくる人がいるんですよ。そうなると、いくら自分を信じてやっていても、心が折れそうになるときってあるじゃないですか。実際なにも残せてないし、このままやめるのは不完全燃焼すぎる。なので、自分はなにをしたいのか、なにをするべきなのかもう一回考えてみようとなったんです」

 そのとき、彼女の心のなかに浮かんだのはプロレスだった。が、尊敬の念が大きすぎるあまり踏み出せない。チャレンジしてみたい気持ちと葛藤したが、思いきってレスラーに転向しようと決意した。が、これといったバックボーンがあるわけでもなく最初は当然のようになにもできず、苦しみもがいた。

「倒立もできなかったし、鼻を打撲したり背中もケガしたし、ホントになにもできなかったですね。でも、できないくせにデビューをあきらめるなんて1ミリも考えなかったです」

 そして、18年8月5日、ベストボディ・ジャパンプロレス旗揚げ戦でのタッグマッチでデビューにこぎ着け、11月の初参戦を皮切りに東京女子プロレスを主戦場とした。ひとつの夢をかなえた白川だが、レスラーデビューはゴールではない。むしろここがスタート地点。上に行けるかは本人しだい。それは芸能界でも同じだが……。

「プロレスラーになってつらいとか思わなかったですね。芸能生活のときってなにをしたら売れるのかまったくわからなかったんですよ。でもプロレスでは技を受けられるようになるとか、あの技ができるようになるとか、その先にベルトがほしいとか目標が明確に設定できたので、進んでいきやすかったですね。芸能のときより人生が楽しくなりました(笑)」

 大好きなプロレスに集中できたという白川。20年9月に東京女子へのレギュラー参戦を終え、10月には新天地を求めてスターダムのリングにやってきた。ここで白川は、中野率いるコズエン入り。6人タッグの王座も獲得し、人気ユニットの一員として華々しく活躍するようになる。

 ただ、個性豊かなレスラーに囲まれ、普通に試合をこなすだけではすぐに埋没してしまう。白川はスターダムではあまり見られないスタイルをこのリングに持ち込んできた。それはクラシックな技の数々。空中胴締め落とし(ルー・テーズ・プレス)や吊り天井(ロメロ・スペシャル)など。過去の資料から研究した成果の賜物だ。しかしながら、ユニットでの闘いでは多人数タッグが中心だけに、こういった技で試合を組み立てていくのは難しい部分がある。そのためか単発に終始するケースが多く、際立った個性と認められるには至らなかった。それでも、今年の5★STAR GPでは彼女が持つスタイルが脚光を浴びた。それはシングルだからこそカットされない一点集中攻撃。たとえば、執拗な脚攻めから最後は足4の字固めにもっていく、理にかなった必勝パターンである。

「白いベルト」について語った白川未奈【写真:新井宏】
「白いベルト」について語った白川未奈【写真:新井宏】

海外の大物レスラーの試合運びから受けた刺激

 そこには海外プロレスの要素も多く含まれている。リック・フレアー、ショーン・マイケルズ、オーエン・ハートら、たとえリアルタイムではないとしても海外の大物レスラーの試合運びに大きな刺激を受けた。そこで気づいたのが、一点集中のスタイルが現在の女子プロレスにおいて“空き家”という事実である。そこにはもちろん、「強くなりたい」というレスラーとしての本能がある。キックを取り入れ出したのも、より強くなるためだ

「コズエンでキラキラした試合も好きなんですけど、泥臭い試合もしたい。今年の5★STARくらいからちょっとスタイルを変えたいなと思って(クラシックなスタイルを前面に出した)」

 優勝争いには加われなかったものの、現王者・上谷からこだわりのスタイルで白星をゲットした。これが決め手となり、11・3広島のビッグマッチで白いベルトに挑戦。白川はたとえ場の空気が違っていても「白いベルトがほしい」と訴え続けてきた。それが上谷からの直接勝利によって、認められたのである。

 では、白川にとって白いベルトとは、いったいどんな意味を持つのだろうか。

「中野たむの影響がものすごく大きいです。命を張ってベルトを取って、命を張って守ってきたのを横から見てました。そんなたむには言葉で表せないくらいの感謝の気持ちがあって、恩返ししたい気持ちがあるんですよね。たむが持ってた白いベルトって、持つ人によってホントに色が変わる。私はそこに魅力を感じています。たむが(嫉妬から生まれる)呪いのベルト、上谷が全力のベルトなら、私は希望のベルトにしたい。これって私が弱いからだけど、スターダムに来てからトントン拍子にはいかなかった。参戦して2年が経ち、たむが持ってたあの白いベルトが私の大きな夢になってます。あれを取るってことが、気持ちの支えになってるんです」

 白川は、中野のタイトル戦でセコンドとして何度も人目をはばからず号泣した。命を削るようなファイトに共感したためだ。考えてみれば、これは白川が初めてプロレスを見たときの気持ちと同じ。好きなことに命を懸ける姿から、自分も強くなりたいと思ったのだ。
 昨年の11・27代々木で初挑戦したとき、白川はサイコ化し中野と向かい合った。これは分身を持つレスラーからのインスパイアであり、マイナスの部分では自身の心に不安があったことの表れでもあった。しかし今回は、素の自分で堂々挑めると白川は言う。

「私とウナギ(・サヤカ)がなにもできないなか、たむはリーダーとして引っ張ってきてくれたんですよ。でも、いまの私はコズエンのすべてを背負う覚悟があります。そのためにも(シングルの)ベルトを巻きたい」

 そこにはまた、コズエンに加入したなつぽいへの対抗心もある。本来なら中野の正パートナーになりたかった。が、なつぽいがユニットを移籍し、いきなり中野とタッグのベルトを巻いた。ならば自分はシングルを取る。しかも、同じく白いベルトをターゲットとするなつぽいより先に奪ってやる。

「なつぽいには仲間意識もあるけど、ずっとライバルですよ。やっぱりこの人には負けたくないって気持ちが大きいです。いま“白川維新”って言ってるんですけど、なつぽいが言ってる“なつぽい革命”にちょっと対抗しようかなって(笑)」

 笑顔の裏には「なめんなよ!」との強い思いが隠されている。「自分がいけなかったのかもしれないけど、いつか見てろよ、大逆転の日がくるとずっと信じてます」と白川。10・23立川からはタッグリーグ戦もスタート。ここで白川はコズエンと連合軍を組んだカラーズのリーダー、SAKIとのチームでエントリーされている。タッグリーグではコズエンリーダーのつもりで闘うとのこと。白いベルトを持ってリーグ戦も制覇できれば最高だ。
プロレスに魅了されてジャスト10年、「白川維新、やってやるって!!」

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