覆面作家・雨穴の“変な魅力” 発売前小説に6万部の予約 “出版界のAdo”なのか

ホラー作家でユーチューバーの雨穴(うけつ)が、自身初となる書き下ろし長編小説「変な絵」(双葉社)を20日に出版する。不穏なブログ、消えた男児、惨殺死体、補導少女などよくよく見れば“何かがおかしい?”と思える9枚の奇妙な図絵がからみあうスケッチ・ミステリー。デビュー作「変な家」は30万部を超える大ヒットを記録し、YouTubeの総動画再生回数は7500万回を突破するなど人気が急上昇中だが、いつも白い仮面と黒い全身タイツに身を包んでおり、この度、刊行される「変な絵」の出版担当編集者さえも「正体不明」と首をひねる謎の覆面ユーチューバーだ。そんな雨穴がいまウケている理由とは?

初の書き下ろし小説を発表する覆面作家の雨穴と小説「変な絵」【写真:(C)雨穴/双葉社】
初の書き下ろし小説を発表する覆面作家の雨穴と小説「変な絵」【写真:(C)雨穴/双葉社】

YouTubeの総動画再生回数は7500万回を突破

 ホラー作家でユーチューバーの雨穴(うけつ)が、自身初となる書き下ろし長編小説「変な絵」(双葉社)を20日に出版する。不穏なブログ、消えた男児、惨殺死体、補導少女などよくよく見れば“何かがおかしい?”と思える9枚の奇妙な図絵がからみあうスケッチ・ミステリー。デビュー作「変な家」は30万部を超える大ヒットを記録し、YouTubeの総動画再生回数は7500万回を突破するなど人気が急上昇中だが、いつも白い仮面と黒い全身タイツに身を包んでおり、この度、刊行される「変な絵」の出版担当編集者さえも「正体不明」と首をひねる謎の覆面ユーチューバーだ。そんな雨穴がいまウケている理由とは?

 もともと雨穴はゆるく笑えるコンテンツに特化したウェブメディア「オモコロ」で18年に活動を開始したウェブライター。初期の頃は「【動画あり】友達がいないので一人でバンドを組んで演奏してみた」「肉をベランダに干す」「【サッポロ一番】食品のパッケージ写真をそのまま再現してみた【S&Bおでんの素】」「【自家製トーマス】プラレールに顔面をつけて演劇をやってみた」などの記事を発表していたが、20年以降、「【実録】異形の牢獄」「【不動産ミステリー】変な家」「中古住宅で発見された、不気味なビデオテープの正体」「人形に録音された、知らない子供の声の謎」などホラー色の強い記事を次々と発表。この9月末には「差出人不明の仕送り」で多くの読者に恐怖を届けている。

 雨穴の特徴は記事作品とYouTube動画を連動させているところ。「【不動産ミステリー】変な家」は動画と記事両方の人気を背景に書籍デビュー作「変な家」(飛鳥新社)として20年7月に出版され30万部を超える大ヒットを記録。タイトル動画のYouTube再生回数は1100万回を超えるなど圧倒的な人気を集めている。「変な家」は映画化が決まっており、雨穴が原案を務めているドラマ「何かおかしい」(テレビ東京)シリーズも話題を呼んでいる。現在67万人を数えるチャンネル登録者数は今後さらに増加する見込みだ。現在、出版界では1番数字を持っている小説家の1人だと言われている。

 そして今回、満を持して自身初となる書き下ろし長編ミステリー小説「変な絵」を20日に出版することになった。文字数は前作「変な家」の7万字を超える11万字、絵イラストも雨穴本人が書き下ろした。同書には、91枚のイラスト絵が収められている。中でもブログに投稿された「風に立つ女の絵」、消えた男児が描いた「灰色に塗りつぶされたマンションの絵」、山奥で発見された惨殺遺体が残した「震えた線で描かれた山並みの絵」など計9枚の絵イラストに秘められた衝撃の真実を丹念に解き明かしていく“スケッチ・ミステリー”となっている。前作「変な家」に登場する「栗原」もキーマンとして登場するなど前作のファンにとっても見逃せない作品だ。

 それにしても、謎を呼んでいるのは雨穴の正体。YouTube動画に登場する雨穴は白い仮面と黒い全身タイツに身を包んでいるため性別、年齢、国籍などが一切不明。音楽界で音楽チャートを席巻している「覆面シンガー」Adoのようだ。そんな人物が人気となっている理由とは何か。「変な絵」の出版元で同書を企画担当した双葉社編集局次長・統括編集長の出版プロデューサー・渡辺拓滋氏は「私が雨穴さんに興味を持ち始めたのは昨年12月ごろ。YouTubeの動画を拝見して、小説を書けるだけでなく、オモしろコワいオブジェやイラストの創作もでき、そして音楽もできる新時代の小説家が生まれてきたと思いました。YouTube動画では雨穴さんがコミカルにダンスする場面もあります。恐怖のミステリーを書きつつも愛嬌タップリの一面もあります。ですから子どもにもモノマネされたり、女性からも支持されるのでしょう。作風がミステリー小説なのにゲーム感覚で、文章とイラストで同時にオモコワ的に読ませるところも時代にマッチしていて魅力的です」と語る。

 新しいタイプの小説家だけに出版元も前例のない対応を経験した。「書き下ろし小説をお願いしたところ、素性をまったく明かしていない関係上、小説ができるまでの作品作りも黒い画面のままのオンラインミーティングで10回以上行われ、私もスタッフも一切、雨穴さんの素性が分からないまま本の完成に至りました。直接会ったことは1度もありません。しかし、編集者として会えない中でも、作家との信頼関係を結ぶ取り組みをスタッフ皆でし、雨穴さんに今までにない小説とイラストでストーリーが進む、9枚の図絵がからみあうスケッチ・ミステリーを完成していただきました。こんな経験は編集者人生で初めてです。しかし、これが新時代の幕開けだと思い、私のプロデュース作品として自信作となっております」(渡辺氏)。

 渡辺氏によると、小説「変な絵」は、①雨穴が作る“まえがき”にあたるYouTube動画、②実際に出版された小説(全4章)、③雨穴が作る“あとがき”にあたる音楽(出版後の11月初旬に公開)、この3つのパートで構成されており、“まえがき= YouTube動画”と“あとがき=音楽”が小説のミステリーをさらに深く読み解くうえでのカギとなっている。「この『変な絵』はYouTube動画×小説×音楽とが3つで1つの作品としてつながっている世界初となるであろう次世代型小説作品になります。雨穴さんとは今までの出版界にない初の試みですが、動画で見て、文章で読んで、音楽で聴いて、それぞれが融合し合う次世代型の小説作品を世に出しましょう、と話し合いチャレンジを一緒にしました。もちろん、雨穴さんにしか絶対に作り出せない新しい形のメディアミックス作品です。まずは“まえがき”にあたるYouTube動画に出てくる“レシートに書かれた震える線の山並みの絵”が何を意味するのか? 次世代型の小説のはじまりを見て没入していただきたい」と渡辺氏。小説「変な絵」の巻末には「第一章 風に立つ女」の特典朗読動画(1時間)のQRコードが表示されておりそれをスマートフォンで読み込むことでオモしろコワい映像が楽しめる。

 双葉社によると、すでに予約段階でAmazon「総合ランキング」1位と、楽天ブックス「総合ランキング」1位を獲得。ネット書店だけでなく、全国書店にも予約が殺到しているため初版部数は異例の6万部に上る。予約者の多くは小説を読んだことがない10代から30代の若い世代で、女性や子どもも多く含まれているという。雨穴は「どこまでも怖く。面白く。この本を手に取った方に最高の時間を過ごしていただけるよう全身全霊を込めました。ぜひ、読んでください」と出版元を通してPRしている。謎多き覆面作家の“変な魅力”が不況の出版業界に大きな活力を注入しそうだ。

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