共通テストに「情報I」新設 新科目設置で高まる“現役志向”、大手学習塾幹部が解説
現在の高校1年生から大学入試が大きく変わる。国立大学を受験する場合、大学入学共通テストの新科目「情報I」が必須となったのだ。受験生にとって負担が増えそうな新科目の導入。そもそも「情報I」とはいかなる科目なのか。また、どのような対策が必要なのか。個別指導学習塾・明光義塾を運営する明光ネットワークジャパン(東京・西新宿)の武藤麻紀子教務部課長(高校生指導担当)に聞いた。今回は後編。
現在の高1から科目増、大学が続々と情報学シフト
現在の高校1年生から大学入試が大きく変わる。国立大学を受験する場合、大学入学共通テストの新科目「情報I」が必須となったのだ。受験生にとって負担が増えそうな新科目の導入。そもそも「情報I」とはいかなる科目なのか。また、どのような対策が必要なのか。個別指導学習塾・明光義塾を運営する明光ネットワークジャパン(東京・西新宿)の武藤麻紀子教務部課長(高校生指導担当)に聞いた。今回は後編。(取材・文=鄭孝俊)
――過去問題や参考書が出そろっていない中、どのような対策が必要ですか。
「実際、『情報I』の定期テストや、過去問がない『情報I』の大学入学共通テストに不安を感じている高校生、保護者の方からのご不安の声も多くいただいております。明光義塾が7月1日から開始した【「情報I」対策コース】は株式会社メイツが提供する教育ICTプラットフォーム『aim@』を利用した授業です。共通テスト対策としては『情報I』の教科書をしっかり学ぶことが必要ですし、繰り返しになりますが、心配するほど難しい科目でもありません。
ただ、共通テストが6教科8科目になりますから高校に入学してから早い段階で入学試験対策に取り組むべきです。入試直前に詰め込んでも高得点は望めません。ポイントは設問の意味をしっかり考える読解力。出題者が受験生に何を求めているのかを知るためには社会に対する関心を普段から持っておくべきでしょう。また、基礎を固めていれば8割は得点できる科目となりそうなので全体の得点率が高くなり、単純ミスによる失点が命取りとなりかねません。教科書だけで理解できればそれに越したことはありませんが、理解の助けが必要なら塾の授業や補助教材を使う選択もあるでしょう」
――現在の高校1年生が「情報I」入試元年となりますが、そうなると高校2年生の現役志向はますます強まりそうですか?
「特に国立大を目指す受験生の場合、入学試験のスタイルがガラリと変わってしまうので何とか現役で大学に合格したいと思うのは当然でしょう。現在でも医学部をのぞいて難関国立大、私立大の現役進学率はおおよそ8割以上に達しています。浪人して第1志望の大学に再チャレンジするという受験生は減りつつあります。
その主な理由として考えられるのは『今の高校生は大学入試に取り組もうと思えばいつでもできる環境だ』ということです。無料の勉強動画や、学習法を知ることができるサイト、大学入試の情報サイトなどもたくさんあり、大手集団予備校以外にも、映像授業、個別指導などさまざまな形態の塾で身近に勉強できるようになっています。かつては、高3になって塾に通ってみて初めて『こんなことをしないと合格できないんだ……』と知るような時代もありました。今は情報があふれていて、やる気がある生徒さんは高校入学以前から大学入試に向けた勉強をスタートしています。これまで十分な環境があった中で勉強できなかった生徒が、浪人したからといって第1志望校に合格するか、というと意外と難しいですし、その事実も高校生はネットで知ることができます。
もう一つの理由は、就職や雇用の変化です。新卒で大手企業に入って終身雇用されれば将来安泰だ、という考え方から、成果主義や労働生産性の向上の重視、転職・中途入社の一般化へと、働き方は少しずつ変化しています。偏差値の高い大学に入ったからといって、良い会社に就職できるとは限らず、インターンなどを通して『大学時代に何をするか』が将来のためには重要である、ということも、高校生はさまざまな情報を通して知っています。このようなことが理由となって、今の高校生の『現役志向』は強くなっています」
――「情報学部」を新設する大学が一気に増えています。
「近畿大学は今年4月に先端IT人材育成を目指す新学部の情報学部を開設しましたし、一橋大学も23年4月にソーシャル・データサイエンス学部を新設します。大学教育の現場で情報学の存在感が一気に高まっています。共通テストに『情報I』が加わることで、結果的には受験生にとって将来の職業選択の幅が広がるのではないか、と期待しています」
□武藤麻紀子(むとう・まきこ)明光ネットワークジャパン教務部課長高校生指導担当。千葉県出身。桜蔭中学校・高等学校卒業後、東京大学理科I類に進学。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。在学中から教育に関心を持ち、研究職のかたわら、小学生から社会人までの授業、ゼミナール、教材作成などを行う。大手映像系予備校で2000人以上の高校生指導を行いながら、本部にて高校生指導の方針策定などに関わる。2019年より現職。