キャスター・岸大河が感じる日本eスポーツ界の盛り上がり「今は一つの部分がグッと伸びている」

eスポーツエンターテインメント「RAGE(レイジ)」によるタクティカルFPSゲーム「VALORANT」の有観客イベント「RAGE VALORANT 2022 Autumn」が、8日と9日の2日間にわたって有明ガーデンシアターで開催され、DAY1では有名ストリーマーによるオールスターマッチ、DAY2では日本を代表するプロのトッププレイヤーと韓国の強豪DRXが参戦してのオールスターエキシビジョンが実現した。Day1終了後、キャスターとして参加した岸大河氏に、イベントの感想からeスポーツの現在まで、さまざまな話を聞いた。

「RAGE VALORANT 2022 Autumn」に参加した岸大河氏【写真:ENCOUNT編集部】
「RAGE VALORANT 2022 Autumn」に参加した岸大河氏【写真:ENCOUNT編集部】

「RAGE VALORANT 2022 Autumn」にキャスターとして参加

 eスポーツエンターテインメント「RAGE(レイジ)」によるタクティカルFPSゲーム「VALORANT」の有観客イベント「RAGE VALORANT 2022 Autumn」が、8日と9日の2日間にわたって有明ガーデンシアターで開催され、DAY1では有名ストリーマーによるオールスターマッチ、DAY2では日本を代表するプロのトッププレイヤーと韓国の強豪DRXが参戦してのオールスターエキシビジョンが実現した。Day1終了後、キャスターとして参加した岸大河氏に、イベントの感想からeスポーツの現在まで、さまざまな話を聞いた。(取材・構成=片村光博)

    ◇ ◇ ◇

――まず、今回の「RAGE VALORANT」を振り返っていかがですか。
「前回同様、たくさんの方々に来ていただきました。前回より少し価格も上がったりしていて、『大丈夫かな?』と不安もあったんです。VCT Championsが終わって一段落した後なので、熱量は保たれていても本当に来てくれるのかという不安があったんですが、たくさんのストリーマーのファンの方々やVALORANTが大好きな方が地方からも出てきてくださった。今年最後の連休ということもあり、大切な時間をわれわれに割いてくれたのは感謝の気持ちでいっぱいです」

――5分で両日のチケットが完売していました。
「地方から来るには多くのお金もかかりますし、東京は連休だとホテル代も高くなります。チケット代、交通費も合わせると、社会人なら小旅行気分で出せても、学生や若い方には決して安い額ではないですよね。普段の配信でサブスクライブしてくれたり、チアーをくれたりも含め、そういうふうにわれわれの仕事が成り立っているんだなと感じたイベントでした」

――Day1ではMCを務めました。どのような進行を意識していましたか?
「とにかく楽しんでほしいというのがありましたが、一番の心配事は時間でした(笑)。試合の中身が詰まっていて面白かった反面、ちょっと押してしまいました。遅くなると営業しているお店もなくなってしまったり、早めに帰ろうという方も出てきてしまう。立地が悪いわけではなく、どうしても少し遠方から来てくださる方は帰りが12時を回ってしまうかもしれないので、少し巻き気味の進行は心がけていました。でも、全ストリーマーを知っているので、彼らの良さを引き立てる一つの存在でありたいなとは思っていました」

――古くからの仲間たちであるストリーマーの方々と大きなイベントで共演することについて、どのような思いですか?
「今はeスポーツの業界で主に活動していますが、ストリーマーは非常に近しいジャンルで皆さん活動していて、接点もたくさんあります。皆さんのおかげで僕の配信に来ていただいたり、仕事になったりすることもよくあります。お互いに相乗効果があるのかなと思っています」

――主にeスポーツキャスターとして競技シーンを伝えていますが、どんなことを意識していますか?
「選手が活動する状況というのは、皆さん人生を懸けてゲームに没入しています。FPS業界では選手寿命が長い選手もいますが、平均では相当短いと言われていて、僕も実感しています。そういう方々が地域や大陸を背負って選手としている。僕は元選手として、プレイヤー、ゲーム好きとしても、リスペクトしなきゃいけない存在だと感じています。そういった選手を皆さんに知ってもらって、1日でも長く選手活動を続けられるように、僕らもサポートしていかないといけないと思っています。○○選手という存在を知ってもらったり、どういうふうにプロになったのか、どういう特徴を持っているのか、視聴者に覚えてもらうために分かりやすく伝えるということ。これはVALORANT以前からそうですし、今も意識しています。欧州や北米は5対5のタクティカルシューターが非常にホットな地域ですが、東南アジアやブラジルを含めた南米など、そういった地域からいい選手をピックアップしたりしています。スカウトのような感じになっていますが(笑)、そうやっていい選手を見つけては応援して、皆さんに覚えてもらう。日本の放送でも選手の名前がコメント欄で多く出てきて、『いい選手じゃないか』とファンが付いていってほしいし、全地域のいろいろな選手を覚えてほしいと思っています」

――会場ではPaper Rexのユニホームを着ている方もいらっしゃいました。
「日本から海外チームの選手を覚えてくれて、応援してくれるというのは、文化が根付いてきたんだなと感じます。サッカーだと当たり前じゃないですか。『あのときに活躍した、この背番号の誰々』という。移籍して活躍したときに『昔ここにいたんだよ』『あのときのユニホーム持ってるよ』っていうのが、歴史の短いFPSやeスポーツでも起きてほしいなと思います。これからいろいろな選手が移籍すると思いますが、過去は消えない。2020年から22年にかけて、こういう経歴があった。では新しくなるVCTでは? その辺はキャスターとして紡いでいかないといけないなと思います。僕らは言葉でしか紡げないので、文字や映像で形になって残してほしいとも思いますね」

「VALORANT」のエージェント・ヨルと同じポーズを披露【写真:ENCOUNT編集部】
「VALORANT」のエージェント・ヨルと同じポーズを披露【写真:ENCOUNT編集部】

eスポーツの盛り上がりは「ピラミッドの裾野を広げていかないといけない」

――日本でのFPS、eスポーツの盛り上がりをどう感じていますか?
「女性のファンや配信者が増えたなと感じます。われわれがプレイしていたときは98%が男性という時代があって、女性は2%もいなかったんじゃないかという環境でした。今は視聴者も増えましたし、来場された方も女性の比率が高くなったなという感じがします。あとは女性がどういうふうに選手や競技を見ているのかというところで、熱狂的な競技ファンもいれば、この選手が好き、ストリーマーが好きというファンもいる。いろいろな形でファンのカテゴリ分かれていて、いい環境だなと思いますね。VALORANTが好きな人、VALORANTを知らないけど見る人もいて、それがトリガーになってVALORANTに触れてみたいというきっかけでPCを購入する。PC業界の経済も回っているので、すごくいい循環になってきたのかなと思います。僕らはそこをどれだけ定着させるか、より楽しんで見てもらえるかというところで、実況もストリームも仕掛けていかないといけないと思っています。これからは女性プレイヤーもそうですし、もう少し年齢層の高い方々にもアプローチして、そういう時代が来たということを広めていかないといけない。今の環境というのは、本当に一歩どころか十歩くらい進んでいると思います」

――20歳前後の男性が大半だった時代から、層は大きく変わりましたね。
「今ではグラビアアイドルの方や俳優さん、モデルさん、アーティストの方も含めて、男性も女性も幅広い方がゲームを好きですよね。『ゲームが好きです』と公にしなかった時代もあったと思いますが、今は何なら自分で配信してストリーマーとコラボしたりしている。われわれからするとストリーマーも僕も一般人に近い認識なんですが、それでも芸能人の方が僕らをリスペクトしてくれて、僕らもリスペクトしている。違うジャンルでもマッチする、ゲームが好きというところで共感が得られる。面白い環境になったなと思いますね。『こんな時代って来るんだ』という感覚です。それこそ来場者の方は僕らをある意味で芸能人扱いをしてくれています。それを僕らも認識して、成長して、恩返ししていかないといけないと感じますね」

――RAGEとして定期的にビッグイベントを開催する意義も大きいと感じます。
「VALORANTもそうですし、Apex Legendsも、そしてもちろんShadowverseもやっていますよね。各ジャンルでeスポーツの認識が上がっていて、競技レベルも上がっています。ちょっと一瞬で上がりすぎて怖い部分もありますが、それが横に馴染んでいけばいいかなと。今は一つの部分がグッと伸びている感じなんです。まだ狭いエリア。そこからより広いエリアに、ピラミッドの裾野を広げていかないといけないなと思います。この記事やRAGEの盛り上がりを見て、企業さんや政府の方も含めて、『今はゲームでこんなに熱狂しているんだ』と思ってもらえるような、そんな方にリーチできればいいなと思います」

――そこから裾野の広がりが生まれればベストですね。
「一気にというよりは、自然に広がっていけばいいなと。eスポーツというよりは、ゲームが好きな人が増えればいいと思っています。見るのが好き、やるのが好き、いいゲームだよね、楽しいよね……そうして一緒にゲームをする人が増えたらいいですね」

――余談になりますが、個人的に「FINAL FANTASY XIV」の4対4PVPコンテンツ「フィースト」の実況が印象に残っています。
「(フィーストが)よくできたゲームシステムだということは理解していて、プレイしている皆さんが上手いことも理解していました。今でこそFFXIVは『クリスタルコンフリクト』でPVPの裾野が広がっていますが、当時は大規模戦の『フロントライン』がメインでしたよね。そこからどんどんPVPコンテンツが増えて、プレイする方も増えていきましたが、フィーストのときから実際にランクマッチで当たったり、教えてもらったりして、彼らの努力を知っていたからこそ、(注目度が低く)悔しいなという思いがあったんです。高難易度コンテンツのクリアスピードレースが注目される一方、フィーストを少人数で超真剣にやっているプレイヤーがなかなか注目されない。PVP好きとして、そういう環境を変えたいと思っていたんです。リスペクトも込めて真剣に実況して、フィースト、ひいてはFFXIVにおけるPVPの見方を変えなきゃいけないと思っていました。(当時のFFXIVは)PVPアレルギーの方が多く、すごく“アウェイ”だったので、『見てもらいたい』という気持ちは人一倍強かったですね。何かに特化した人は、どんなジャンルでもすごいと思っているんです。人にはできないことを成し遂げる能力を持っている。僕にはない能力ですし、すごいなと思っています」

――最後に日本のeスポーツシーンのファンの方へのメッセージをお願いします。
「イベントがあったらとにかく見てほしいなと思いますし、来場できるなら来場してほしい。面白いイベントだったか、面白くないイベントだったかは、終わってみないと分からないですが、面白かったらまた来てほしいし、面白くなかったら別のジャンルのイベントに来てほしい。そして、自分の好きなプレイスタイルでゲームを楽しんでほしいなと思います。競技シーンを見ていて、競技シーンを意識して練習したいというのもいいし、それは無理だから友達同士で楽しんで遊ぼうというのでも、見ているだけで楽しむのも、シングルゲームで楽しむのもいい。eスポーツも大事ですが、ゲーム自体を楽しんで、自分のライフスタイルに合わせてプレイしてほしいなと思います。見てもいいし、やるのもいいし、自分に合わなかったら全然違うジャンルに行けばいい。戻りたくなれば戻ってくればいい。『自由にゲームをしてください』と伝えたいですね」

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