SNSでの不毛な炎上なぜ起こる? “髪留め洗濯バサミ”が物議 本質とかけ離れた議論も

洗濯バサミで髪を留める女性は実在するのか。先月、ある漫画の公式アカウントがツイッター上に1枚のイラストを投稿したところ、「こんな女いねーよ」「普通に洗濯バサミで髪まとめてるよ」と賛否両論が飛び交い、「洗濯バサミ」がトレンド入りした。架空の存在である漫画のキャラクターに、リアリティーを持ち込み、現実離れしていると批判する声には、お門違いとの指摘も。SNS上では、このような炎上騒ぎはたびたび起こってしまう傾向にある。いったい、なぜなのか? 株式会社エルテスのコンサルタントで炎上問題に詳しい佐々木有菜さんに聞いた。

女性は髪を結ぶとき洗濯バサミを使う?(写真はイメージ)【写真:写真AC】
女性は髪を結ぶとき洗濯バサミを使う?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

1枚の漫画から、現実と非現実の区別がつかない言い争いはなぜ起こるのか

 洗濯バサミで髪を留める女性は実在するのか。先月、ある漫画の公式アカウントがツイッター上に1枚のイラストを投稿したところ、「こんな女いねーよ」「普通に洗濯バサミで髪まとめてるよ」と賛否両論が飛び交い、「洗濯バサミ」がトレンド入りした。架空の存在である漫画のキャラクターに、リアリティーを持ち込み、現実離れしていると批判する声には、お門違いとの指摘も。SNS上では、このような炎上騒ぎはたびたび起こってしまう傾向にある。いったい、なぜなのか? 株式会社エルテスのコンサルタントで炎上問題に詳しい佐々木有菜さんに聞いた。(取材・文=水沼一夫)

 9月20日、「賞味期限が切れてない食材を探して深夜冷蔵庫を漁るアラサー女性教師の図」と題し、1枚の漫画の絵が投稿された。だらしない格好で冷蔵庫を開ける女性教師が描かれ、ずぼらな雰囲気を伝えている。ネットが注目したのは髪留めだった。洗濯バサミに似た形のヘアクリップで留められており、「こんな格好、女はしない」「リアリティーがない」と描写の内容を否定する声が挙がった。

 これに対し、漫画のファンや実際に洗濯バサミを使ったことのある女性は反論。さらに「洗濯バサミでも髪は留められる」とのつぶやきを添えて漫画と同じ姿をして写真を公開する女性も現れるなど、騒動はあらぬ方向に拡大した。ロン毛の男性が「俺も洗濯バサミ使ってるで」と参戦すれば、「アリエッティはやってるから」とジブリアニメを持ち出すユーザーも。ちなみに、アニメ「借りぐらしのアリエッティ」の主人公アリエッティは小人という設定で、人間の洗濯バサミを使っている理由はそもそも異なる。

 アリエッティと同じく、女性教師はあくまで架空の人物で、髪留めもキャラクター設定の一部だ。それに対して、本気で主張をぶつけ合い、局地的にけんかが起きているのは、的外れでどこか滑稽でもあると冷静な第三者は指摘していたが、ネット上ではこのようなことがたびたび起きている。議論が過熱すると、収拾がつかなくなり、最後は炎上してしまう。

 いったい、なぜなのか。

 佐々木さんは、洗濯バサミ騒動について、「良くも悪くもものすごくツイッターらしい炎上だなと個人的にも感じたところですね」と感想を明かすと、その原因にSNSが持つ二面性を挙げた。

「今回はツイッターでしたけど、今までその作品と触れていなかった新しい方とも出会える場所であるのと同時に、ターゲット層ではないユーザーの方の目にも留まりやすい傾向にあります。悪意のあるユーザーや、悪意がなかったとしても、否定的な意見を持たれているユーザーの方が集まってしまいますと、どうしても炎上というふうになってしまう。その作品の背景とか、今回であれば原作をあまり認知せずに、初めてこの投稿に触れた方というのはこの投稿をベースに考えてしまいますので、この場面のみを切り取った上で、自分の理解の範囲というところで感想を生み出していくといったところがあります」と解説した。

 文字通り、ソーシャルに公開するため、ファン以外の人の目にも触れる。それが新規のファン獲得につながる一方で、ターゲット層とは異なり、異なる価値観を持ったユーザーも呼び寄せてしまうというわけだ。

炎上のメカニズム 個々の体験や人生経験に基づく「感受性は十人十色」応酬の末に…

 原作を知らなければ、イラストから受ける印象もバラバラだ。佐々木さんはそれを「感受性は十人十色」という言葉で表現した。

「10人の方が同じ投稿を見たとき、同じものを感じるかというとなかなか難しい。あの作品に対して事前知識がなければないほど、その人が考えた際に比べるものってやっぱりその人の人生の中で比較したときにどうかという観点になりやすいと思います。今回は女性というところにピンポイントであてられており、かなり限定された主語であればそのかいわいの方しか入ってこないものではあるんですけれども、いろんな方が参入しやすかった。身近な女性像と、あとご自身の考える女性像みたいなところと照らし合わせてどうか、という意見がすごく言いやすい土壌が形成されていたところも、事例としては炎上してしまった要素にはあるんじゃないかなというふうには考えております」

 最初は小規模な言い争いがけんかに発展し、さらに過激な論争を引き起こす。中には日ごろのうっ憤を発散し、とにかく論破しようとしたいだけのユーザーもいる。コメントは荒れ出し、その騒ぎ自体が話題となって拡散され、さらに大規模なユーザーを呼び込み、やがて炎上という事態が起きてしまう。投稿の本質とはかけ離れていることも多い。

「SNSというプラットフォームで相手の顔が見えないという大前提をもとに、相手の生きてきた背景とか全く見えないんですよね。相手がその投稿した内容に賛同ができなかったときに、その相手の背景を知らないがゆえに自分の背景を踏まえた上でご回答している。それがまた相手からすると全然知らないこと、背景の上でなされたコメントなので、自分の価値観が違うのでさらに言い返してしまう」

 こうなると、なかなか鎮火させることは困難になるという。良くも悪くも投稿されていることの知名度は上がるが、企業発信の場合は注意が必要なこともある。誤った見解やよからぬうわさが独り歩きし、じわじわとダメージを受けてしまうからだ。

「事実と異なりますというところをしっかり発信していかないと、ネガティブなイメージがそのまま継続してしまう。逆にネガティブなものであっても、誰から見ても明らかに企業に非がないだろうということにおいては、投稿をした方がたたかれるケースも実際にあります」と佐々木さんはアドバイスした。

 今回もおそらく作者の意図しない形で炎上騒ぎとなったが、作者に落ち度があったわけではなく、結果的に注目され、フォロワーは増えた。

 SNSに投稿する際は、あくまでも互いの衆人環視下であるということを意識し、効果的な利用を心がけたい。

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