戸次重幸、益岡徹と二人劇で対峙 難解テーマも稽古は「とてもぜいたくな時間」

クローン技術が進んだ近未来を描いた舞台「A・NUMBER」が10月7日に、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで幕開けした。俳優の戸次重幸(48)と俳優の益岡徹(66)が対話を重ねる舞台は、自分がクローンであることを知った息子(戸次)と、父(益岡)が人間の尊厳について考える物語。二人芝居に初挑戦する戸次は「益岡さんの胸を借りるつもりで頑張りたい」と意気込んでいる。戸次と益岡に舞台の見どころを聞いた。

舞台「A・NUMBER」で親子を演じる戸次重幸(右)と益岡徹【写真:(C)岡千里】
舞台「A・NUMBER」で親子を演じる戸次重幸(右)と益岡徹【写真:(C)岡千里】

「存在意義を考えてしまう」と益岡 戸次は持病の「ぎっくり腰が心配」

 クローン技術が進んだ近未来を描いた舞台「A・NUMBER」が10月7日に、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで幕開けした。俳優の戸次重幸(48)と俳優の益岡徹(66)が対話を重ねる舞台は、自分がクローンであることを知った息子(戸次)と、父(益岡)が人間の尊厳について考える物語。二人芝居に初挑戦する戸次は「益岡さんの胸を借りるつもりで頑張りたい」と意気込んでいる。戸次と益岡に舞台の見どころを聞いた。(取材・文:西村綾乃)

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 物語はイギリスの劇作家、キャリル・チャーチルが、クローン技術が進んだ近未来を舞台にした戯曲。2002年にロンドンで初演され、22年にはローレンス・オリヴィエ賞のリバイバル部門にノミネートされた話題作だ。息子のバーナードを戸次、父のソルターを益岡が務める。

益岡「最先端の遺伝子化学、命を生み出す新しい分野の話が大きなモチーフになっていて、クローン技術は『羊のドリー』のように、実用化もされていますが、『人間だったらどうする?』ということが描かれているので、最初はそちらに引っ張られていました。戸次さんは全く見た目が同じ三人の人物を演じるのですが、育ち方など環境の違いで、全然違う性格の人物になっているし、父親も問題を抱えているので、これは家族の話なんだと気づきました。全く同じ複製が出来上がると思いがちなクローン技術ですが、実はそうではないということが描かれています」

戸次「益岡さんとの二人芝居ですが、登場人物が二人とは限らない。僕が演じる三人の男たちは、それぞれが全く異なるキャラクターなので、とても面白い作品になると思います。膨大なセリフ量ということもあり、1度本を読んだだけでは頭に入ってこない。立ち稽古を始める前は本読みを繰り返し、理解を深めました。稽古を重ねている今は、内容が分かっていても難解という印象です」

 人間のクローンを作ることが技術的に可能になった近未来。法的にはグレーゾーンにあたるが、愛する息子を亡くした父は、クローンの作成を依頼する。成長を遂げた息子は、自分がクローンだったと知り驚がく。父と対話を重ねていく。

益岡「息子と対話を続ける中で、僕が演じる父親も問題を抱えていることがつまびらかになっていきます。息子たちと1対1で向き合う時間は、どこにでもある親子の物語。相手の出方を見て、はぐらかしたり。結局は親子の話、家族の話なのだなと気が付きました。クローンとして生まれることも、通常の出産で生まれることも、そこには大きな違いがないように感じています」

戸次「稽古をしていて、舞台の裏テーマと言っても良いんじゃないかと思うんですが、『うそをつくこと』が物語のテーマになっているんです。やり取りを重ねている中で、『ここの段階ではまだうそをついていない』。『ここからは、はぐらかしているな』など、そのさじ加減が難しい。大変な稽古ではありますが、毎日益岡さんの胸を借りてやらせていただいている。芝居を作る作業を共にできていることが幸せ。僕はとてもぜいたくな時間を過ごさせていただいています」

途中休憩はなし。約70分を二人で走り切る。乗り切るためには「新鮮味を忘れないこと」と口をそろえた。

益岡「本番で何か起きても大丈夫なように。健康管理に努めたいです。何てことないことでけがとかもありますから」

戸次「実は僕、ぎっくり腰が持病なんです。慢性で。必ず公演中1回はなるんです。多い時は2回。本番の前には、柔軟をたっぷりやって腰も伸ばして。でも、気を付けていてもなってしまう。『奇人たちの晩餐会』(6~7月に上演)は、ぎっくり腰になる役だったんですが、最終日に本当に腰を痛めてしまって。ものすごくリアルなお芝居ができました(笑)」

益岡「それは、良かったっていうのもあれだけど。何でなったの?」

戸次「シャワー中に、スネを洗おうとかがんだ瞬間、『グギッ』となって、『うわぁ』と。何度もなったことがあるので前傾姿勢をする時はいつも気を付けているんですけどね」

益岡「そういう人生なんだね」

戸次「そう……。諦めました。むかし、初見で会った占い師さんに『腰は一生だから』と会った途端に言われたことがあるので、諦めています」

 舞台では愛する息子をクローンとして残したいと願った父親。二人が次世代に残したいと思うものはどのようなものだろう。

戸次「面白い芝居を残したいですね。名作を作りたいというわけではないんですけど。我々の商売って、目に見えるものではない。特に舞台はその公演を観に来た方しか分からないからこそ、ブルーレイやDVDなど、記録ができるものの力を使って、次の舞台を観に来たいと思ってもらえるものを作りたいと思っています」

益岡「僕は思いを残したいですね。戸次さんから僕がずいぶん昔にやった芝居(三谷幸喜作『巌流島』1996年)を『神演技』と称えてくださったのですが、せりふがないような役だとしても、強烈な印象を残せることが舞台というジャンルにはあるんです。そういう強烈な演劇的な思い。感動を残したいです」

 思わぬ告白から、自分の存在が揺らいでいく物語。もし自分が「クローンだ」と告げられたらどう思うのか。

戸次「稽古場でも話したのですが、僕はオリジナルに会いたいです。そんな楽しいことはないから。『ほかにもクローンはいないのかな?』と思うし、できれば仲良くしたい。もし、子どもがいたら、子どもにも会いたいですね。自分の息子と何がどのくらい違うのか知りたいです。だって、自分の遺伝子が半分入っている訳ですから」

益岡「僕も会いたい。どんな人生だったのか、どんな人なのか知りたい。でも兄弟だって
ややこしいのに、生き写しの人間がいるって複雑ですよね。今回の場合は、幼少期にクローンになり、成長した男の話だけど、今の僕と同じものが急にできたら……。思考回路も一緒だったら……。自分の存在意義を考えてしまいそうですね」

舞台は同地で16日まで。以降、名古屋・仙台・札幌・兵庫と、全国5か所を巡回する。

■戸次重幸(とつぎ・しげゆき)1973年11月7日、北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。近年の主な出演作に、ドラマ「監察医 朝顔」(2019、20年)、「ファイトソング」(22年)、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(22年)など。NHK総合「SONGS」(ナレーション)にレギュラー出演中。173センチ、O型。

■益岡徹(ますおか・とおる)1956年8月23日、山口県出身。1980年に早稲田大学商学部卒業と同時に、仲代達矢が主宰する無名塾に入塾。近年の主な出演作は、ミュージカル「奇跡の人」(2019年)、ドラマ「半沢直樹」(20年)、映画「シン・ウルトラマン」(22年)など。181センチ、AB型。

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