入試一部無料で志願者数は260%増 麗澤大学の多彩な取り組み “課題プレゼン型”入試とは

少子化が深刻化する中、大学教育の現場では優秀な学生の獲得のためさまざまな取り組みが行われている。千葉県の私立麗澤大学(柏市)はグローバル教育や国際性の向上のほか、共通テスト利用型入試の無料化、課題プレゼン型入試の導入、さらには工学部新設による総合大学化など多彩でユニークな試みを次々と進めている。徳永澄憲学長に改革の理由と手ごたえを聞いた。3回連載で今回が最終回。

「偏差値で輪切りにしない受験」について語る徳永澄憲学長【写真:麗澤大学提供】
「偏差値で輪切りにしない受験」について語る徳永澄憲学長【写真:麗澤大学提供】

授業時間を90分から100分に ディスカッションの時間が増加

 少子化が深刻化する中、大学教育の現場では優秀な学生の獲得のためさまざまな取り組みが行われている。千葉県の私立麗澤大学(柏市)はグローバル教育や国際性の向上のほか、共通テスト利用型入試の無料化、課題プレゼン型入試の導入、さらには工学部新設による総合大学化など多彩でユニークな試みを次々と進めている。徳永澄憲学長に改革の理由と手ごたえを聞いた。3回連載で今回が最終回。(取材・文=鄭孝俊)

――課題プレゼン型入試というユニークな取り組みがありますね。

「この入試は、経済学部で旧AO入試の時から実施しています。外国語学部では自己PR型入試となります。科目試験がない本学オリジナルの入試で各学部や専攻ごとにテーマが異なります。日本人はプレゼンテーション力が弱い、とよく言われているので逆にそこに目を付けました。例えば日本学・国際コミュニケーション(JIC)専攻ですと、 『グローバルあるいは国際といった言葉で語られる問題は、決して海外だけで起こっているわけではありません。我々の身近な日常の中で起きている国際化・グローバル化にまつわる社会問題を具体的に取り上げ、その対策・解決策を提案しなさい』といった問題が出され、受験生はパソコンやプロジェクター、模造紙などの資料を使って試験官の前でプレゼンテーションを行います。

 科目試験がないのでラクそうに見えるかもしれませんが、そんなことはありません。プレゼン開始10分ほどで受験生の思考力、表現力、人柄、性格などが分かってきますしそのあたりを試験官はよく見ています。そもそもこの入試は試験官の負担が大きい。科目試験なら答え合わせをすれば済みますが、プレゼン型入試はマークシート式と違って採点が難しいですから試験官の先生方も切磋琢磨が必要となります。その結果、教員の質が向上することにもなります。今年度の総合型選抜課題プレゼン型Ⅰ期専願型の出願期間は22年9月1日から10月5日、試験日は10月22日、合格発表は11月1日という日程です」

――今年度から授業時間が90分から100分に変更になりました。

「授業時間が長くなると教員も授業のやり方を改善しないといけません。講義式一辺倒の授業スタイルをやめて、例えば、最初の50分を講義、残りの50分をディスカッションに充てるように促しています。実はディスカッションはけっこう骨の折れる作業で、教員は学生の意見や思考をうまく引き出していかないといけません。でも、そうすることで教員の“引き出す力”を向上させことができます。最初は戸惑い気味だった先生方も最近は少しずつ新しい授業のスタイルに慣れ、変化が現れてきました」

――入試を一部無料にしたことで志願者数が前年比260%以上増加しました。どう評価していますか。

「ウィズコロナによって行動制限の緩和、対面イベントの実施など少しずつ日常が戻ってきていますが、それでも3年に及ぶコロナ禍の影響を受けて経済的な打撃を受けている受験生は少なくありません。このような状況を鑑み、23年度入学者一般選抜の入学検定料を昨年度に引き続き一部無料とすることにしました。一般2月方式は2出題目から無料に、共通テスト利用方式はすべて無料にしました。このような取り組みによって麗澤大学の名前を多くの受験生に知っていただくことができたのなら幸いです」

――麗澤大の系属校である中高一貫共学校の麗澤中・高は大手予備校から「難関校」という評価を受けていますが、麗澤大への進学者数はわずかです。何か対策はありますか?

「本学の教育目標は多様な人生を送って来た多様な人材を受け入れることです。偏差値の高い東大や京大、早慶に進学したい学生は自身の希望に向かって歩んでいってほしいですし、目指す目標が他にあって本学がその夢をサポートできるのならぜひ麗澤大を進学先の候補のひとつとしていただきたいです。偏差値で輪切りにしないためにプレゼン型入試など総合型選抜のバリエーションを増やしている最中です。これは私の経験ですが、偏差値の高い難関国立大に合格して入学してもゴールデンウイーク明け頃になるとキャンパスに姿を見せなくなってしまう学生さんがけっこうたくさんいました。

 進学先の大学の雰囲気が合わなくて心を病んでしまったり、これまで受験勉強ばかりしていたので目標を見失ってしまったりする若者が意外に多い。本学が高大連携や総合型選抜を進めているのも受験勉強が子どもたちに過剰な負担とならないようにするため、という側面もあります。偏差値だけでは測れない大学の価値というものがあります。本学は約41万平方メートルにもなる緑豊かで自然あふれるキャンパスが自慢のひとつで、学園には450本以上の桜の木があるそうです。多くのテレビドラマのロケ地にも選ばれていて、他大学の先生から『羨ましい環境ですね』とよく言われます。子どもたちを成長させる教育とは何かを今後も美しい自然の中で考えていきたいと思っています」

□徳永澄憲(とくなが・すみのり)1952年(昭和27年)1月5日、愛媛県出身。東京教育大学農学部農村経済学科卒業(農学士)。筑波大学大学院博士課程社会科学研究科単位取得満期退学(経済学修士)。ペンシルベニア大学大学院博士課程地域科学研究科修了(Ph.D.)。麗澤大学外国語学部助手・専任講師、ペンシルベニア大学経済学部客員研究員併任。麗澤大学国際経済学部助教授・教授、インドネシア共和国・国家開発企画庁経済開発専門家(JICA併任)、名古屋市立大学経済学部教授、筑波大学大学院生命環境科学研究科教授、麗澤大学経済学部教授、麗澤大学経済学部学部長を経て現職。専門はマクロ経済学、応用計量経済学、都市・地域経済学、開発経済学。

次のページへ (2/2) 【写真】麗澤大学キャンパス内にあるゴルフ場の写真
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