67歳現役ホームレスをYouTubeで大富豪へ 利益度外視の異色チャンネルが誕生した理由

開設から約3か月で登録者数20万人を突破した“一風変わった”YouTubeチャンネルがある(10月10日時点で32万人超)。その名は「ホームレスが大富豪になるまで。」。YouTubeで得た利益によって、神奈川県・関内の地下通路に住むホームレスの男性・ナムさん(67)が裕福になっていくさまが描かれている。同チャンネルの制作・運営を担うのは株式会社こす.くま。動画にはディレクター・演者として社員のヒヤマさんも出演している。いったいどのような経緯でこのチャンネルが誕生したのだろうか。“仕掛け人”とも言えるヒヤマさんに舞台裏を聞いた。

“ホームレスYouTuber”として活動するナムさん【写真:ENCOUNT編集部】
“ホームレスYouTuber”として活動するナムさん【写真:ENCOUNT編集部】

2022年5月に誕生、YouTubeチャンネル「ホームレスが大富豪になるまで。」

 開設から約3か月で登録者数20万人を突破した“一風変わった”YouTubeチャンネルがある(10月10日時点で32万人超)。その名は「ホームレスが大富豪になるまで。」。YouTubeで得た利益によって、神奈川県・関内の地下通路に住むホームレスの男性・ナムさん(67)が裕福になっていくさまが描かれている。同チャンネルの制作・運営を担うのは株式会社こす.くま。動画にはディレクター・演者として社員のヒヤマさんも出演している。いったいどのような経緯でこのチャンネルが誕生したのだろうか。“仕掛け人”とも言えるヒヤマさんに舞台裏を聞いた。(取材・文=石井宗一朗)

「こす.くま代表のたけち(武知勇樹さん)とすのはら(春原李貴さん)が昔からやりたかった企画なんです。自分はそこに参加させていただけることになった。代表と一緒に演者になってくれる方を探していて、ナムさんと出会いました」

 そう語ったヒヤマさんは、ナムさんとの出会いについても明かした。

「ホームレスの方がいらっしゃる場所は都内にもたくさんあるんですけど、関内(神奈川県)にもあるという情報があった。実際に現地に行ってみて、いろいろな方に声をかけました。本当は(ナムさんに決まる前)『この方』というのが決まってたんですけど、最後の最後でいなくなってしまった。そこで『その人もういないよ』と声をかけてくれたのがナムさんです。話してみたらとても面白い方で……奇跡的な出会いでした」

 第一印象は「すごく良い方」。表現に迷いながらも「ホームレスに見えなかった。しっかり話せて、映像の仕事にも興味をもってくれました」と当時を振り返る。

 ナムさんは最初から「この後何撮影するの?」「これ撮った方がいいね」とヒヤマさんに指示を出すほどYouTubeへの適応が早かったというが、一緒に仕事をする中で変化もあった。

「見た目の変化はあります。企画で『髪を切る』とかもあるんですけど、一番変わったのは“目の色”。日を追うごとに生き生きしてきていると感じています」

 ナムさんはこれまで「67歳のホームレスでもダンボールハウスにウーバーイーツを注文できるのか検証」や「67歳ホームレスが『人生初のスポッチャ』でラウンドワンを心ゆくまで遊び尽くした結果」などさまざまな企画に挑戦。立案の半分はナムさん自ら行っている。

 また、こうしたコンテンツを世に送り出す上で、ヒヤマさんらが気を付けていることもある。

「30、40分といった尺の動画が多い中、ナムさんの動画は長くて10分。テンポの良い、視聴者さんが飽きないような編集を心がけています。あとは時系列。日に日にナムさんの見た目も変わっていきますし、住んでいる場所も公表している。ふとしたときに視聴者さんが違和感を感じないようできるだけ“今”のナムさんを視聴者さんに届けるようにしています」

 その一方で、炎上については「したらしたでしょうがない」と考える。中には過激な視聴者もいるようで、ナムさんの住む段ボールハウスが破壊されたこともあった。こういった不測の事態も含めて「リアルにお伝えできれば」と語る。

 活動をする上で最も気を付けていることはナムさんの体調管理。1日で数本撮影する予定があったとしても「今日は暑いからやめよう」となることもある。

「67歳とご老体なので、体調には特に気を付ける必要があります。あと、ナムさんがしゃっくりが止まらなくなる病気を患ってまして、それが出始めたら撮影をやめます」

「ホームレスが大富豪になるまで。」について語った“仕掛け人”のヒヤマさん【写真:ENCOUNT編集部】
「ホームレスが大富豪になるまで。」について語った“仕掛け人”のヒヤマさん【写真:ENCOUNT編集部】

動画で得た利益はすべてナムさんのもの

 さまざまなことに配慮して制作されている「ホームレスが大富豪になるまで。」。たった3か月で登録者数20万人を突破したことには“仕掛け人”であるヒヤマさんも驚きを隠せなかった。

「『年内で5万人いけばすごい』と話してたんですけど、3か月で20万人。想定をすべて上回ってしまって、編集が追いつかないぐらい。うれしい限りですね」

 同チャンネルの特徴の1つに「動画によって得た利益はすべてナムさんに渡す」というものがある。複数の社員が制作に関わりながらも、このスタンスを貫けるのには理由があった。

「こす.くまっていう会社自体がYouTubeを中心にプロデュースや企画業を行っています。なのでこのチャンネル自体が黒字でなくても会社としてはまったく問題ない。ナムさんには小道具費などの必要経費を収益から引いた利益をすべて渡しています。具体的には、こす.くまが『ナムさん貯金』として収益を貯めている状況。一度に全額渡すと危ないので、ナムさんから要望があった分の生活費を、その貯金からお渡ししています。この貯金はナムさんが自由に使って良いという約束ですが、使う際は何に使ったかちゃんとカメラにおさめ、動画として公開する、というルールでやっています」

 最初から黒字を目的としていない同チャンネル。PR的な側面があるのかといえば、それも違うという。そこには同社の驚くべき理念があった。

「自分たちの根底に『面白いコンテンツが作れるならお金稼ぎは二の次』『コンテンツの力で世の中を変えられるんじゃないか』といった思いがある。このチャンネルも、お金もうけをしようと思ったらもっと効率の良いやり方があります。でもそうではなくて、『YouTubeで成りあがっていく人を見せる』コンテンツを出したいという欲の方が強い。純粋に我々がホームレスが大富豪になっていくさまを見たい、作りたい、なって欲しい、というだけです」

 目標はもちろん「ナムさんが大富豪になること」。「その過程をナムさんと一緒に楽しんでいけたら」と話すヒヤマさんの姿は、ある意味で視聴者と同じものだ。ホームレスから大富豪へ――。引き続き視聴者、こす.くまとともにその道程に注目していきたい。

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