今年5月、ホームレスのYouTuberが誕生した。チャンネル名は「ホームレスが大富豪になるまで。」。開設からわずか3か月でチャンネル登録者数20万人を突破しており、急激な勢いで成長している（10月10日時点で32万人超）。同チャンネルの主役は神奈川県・関内の地下通路に住む67歳の男性・ナムさん。いったいどのような経緯でYouTuberとなったのか、そして以前は何をしていたのか。ナムさん本人に話を聞いた。（取材・文＝石井宗一朗）

　株式会社こす.くまによって制作・運営されている同チャンネル。ナムさんとディレクター・ヒヤマさんの息の合った掛け合いが魅力で、動画で得た利益のすべてがナムさんにわたされる仕組みだ。

　ヒヤマさんとの出会いについてナムさんは「俺が朝、酒を飲んでるときに『ちょっと話いいですか？』と声をかけてきた。でも見た感じヤバそうな人間だったから考えたよ」と笑顔で当時を振り返る。

　第一印象は「スケベな兄ちゃん」。ヒヤマさんを「いやらしい目をしている男」と評し、現在の2人の仲の良さを伺わせた。

「俺と歳が40違う。最初は敬語だったんですよ？　でも今はどっちが年上か分からないぐらい……でも男気があるんだよ」

　歳の差40でのコンビ活動。ナムさんはヒヤマさんを時折イジりつつも高く評価した。

「俺が困ったときに、先読みして助けてくれる。『これ食べたいな』と思ったら用意してくれる。俺が女の子だったら惚れるかもしれない」

　今ではヒヤマさんを信頼しているナムさんだが、出会った当初は疑いの心も少なからずあった。

　YouTubeへの出演を決めた理由についてナムさんは「過去にいろいろあって、顔出ししていいのかどうか悩んだ。だけど自分でまいた種だし、懺悔の意味もかねて『バレたらバレたでもういいや』と顔出しを決めた。ヒヤマさんと社長にも時間をかけて口説かれた。今まで失敗続きの人生だったから、これをきっかけに這い上がれるチャンスだと思ってOKを出しました」と語る。

　また、不安はあったものの「どこかで（今までのことを）清算しないといけない」という思いが背中を押したことも明かした。

　こうして始まったYouTuberとしての活動。結果的にたった3か月でチャンネル登録者数20万人を突破するほどの人気者となった。

「夢のまた夢という感じ。最初ヒヤマさんは『来年までに5万人いけばいい』『長い目で見よう』と言ってくれていた。でもやってみたら予想以上にいった（伸びた）じゃない？　ヒヤマさんも『ありえない』と驚いていた。俺はYouTubeのこと分からなけど、これが“当たり前”じゃないっていうのはだんだん分かってきたよ」

　YouTube活動を始めたことで生活にも変化が。今まで食べられなかった高級すしや焼肉が食べられるようになったといい、「本当に良い経験させてもらってますよ」と感謝を口にした。

　YouTuberとなったことで一変した生活。ナムさんはホームレスとなった理由や自身の過去ついても語った。

「ホームレスとなった理由はもちろん金銭的なもの。追い込みをかけられて、毎日電話がかかってくる。あまりにもうるさいから電話とかを断ち切って逃げた。行くとこもないし、寝るとこもないしでここにいます」

　ホームレスとなる前には、両親の持ち家を売却し、自身の懐に収めた過去もある。

「ボートなんですけど、当時ギャンブルにハマっていて、日本全国を回っていた。使う金額がだんだん大きくなっていって、例えば1レースやるのに新幹線に乗って10万円をつぎこむみたいな。ほかにもレースのためにタクシーで30、40キロを移動したり……めちゃくちゃなことをやっていた。『これではいくら金があっても足りない。デカいことをやろう』と思って……今思えば何も考えてなかったんだけど、『（両親の）家があるじゃん』となった。書類とか置いてる場所も全部分かっていました」

　その後、両親とは半ば絶縁状態に。父親の死を知ったのは、亡くなってから5、6年後。「お袋はもし今生きてれば97歳。まあ生きてないでしょうね……」。

　親子の絆を断ち切ってしまったこの一件。ナムさんは「後悔しています。今考えてみれば本当に馬鹿なことをした。お袋と前は会っていたんですが、顔がだんだんやせこけていくんですよ……」と懺悔し、数分間にわたり涙を流した。

　こうした過去を持つナムさんだが、ホームレスとなる前は建築関係の仕事や“宝探し”をしていた。

「建築関係の仕事や農機具の回収とかやってました。あと宝探しも。山の中で金とか探したり……でも“お宝”は見つからなかったですね（笑）。その代わりに化石とか水晶は採れた。売れなかったけど」

　さまざま経験を経てYouTuberとして再スタートをきったナムさんは、楽しみながら活動を続けている。「『好きなことやっていいよ』と言われてるし、ダメはときはヒヤマさんもフォローしてくれる。見てる人からは『やらせ』と言われることもあるけど、素のまま生きてるだけ」。

　今後YouTubeで挑戦してみたい企画は「炊き出し」。自身が受けた恩を同じ境遇の仲間に返したいという思いがあった。

「まだOKは出てないんだけど、やりたい企画の1つ。やっぱ俺はホームレスじゃないですか。みんなにはホームレス感がないと言われることもあるけど、ヒヤマさんとか社長が手を差し伸べてくれて今がある。だから今度は俺が、ほかの仲間にそういうのをやってみたいなと思う」

　今後の展望については、「夢を言えばキリがないから、まず1歩1歩を重ねて登録者数30万人。そしてゆくゆくは100万人を目指したい。金の盾ももらえるじゃないですか。1000万人のダイヤの盾までいければいいね。まあ生きてればの話だけど」と笑みを見せた。

　消えることのない後悔を胸に前を向くナムさん。YouTuberとして、ヒヤマさんらに受けた恩を仲間に返す日はそう遠くはないのかもしれない。