「結婚?もうしませんよ(笑)」 72歳市毛良枝、100歳の母を看取って出した結論

人生100年をテーマにした「百日紅(さるすべり)、午後四時」(10月20~27日、東京・吉祥寺シアター)で久々の主演舞台に挑む俳優の市毛良枝(72)。13年間の介護の末に100歳の母を看取った経験を持つが、自身は100年を思い描いているのか。

舞台「百日紅、午後四時」で主演を務める市毛良枝【写真:舛元清香】
舞台「百日紅、午後四時」で主演を務める市毛良枝【写真:舛元清香】

人生100年をテーマにした主演舞台「百日紅、午後四時」が公演中

 人生100年をテーマにした「百日紅(さるすべり)、午後四時」(10月20~27日、東京・吉祥寺シアター)で久々の主演舞台に挑む俳優の市毛良枝(72)。13年間の介護の末に100歳の母を看取った経験を持つが、自身は100年を思い描いているのか。(取材・文=平辻哲也)

 葬儀を行っている「総合生活サービス くらしの友」のテレビCMでもおなじみの市毛。一人娘で、1988年に医師だった父親を、2016年には母親を看取っている。

「母は父を亡くした最初の1年くらいは悲しそうでしたが、その後は楽しみましたね。100歳まで生きましたから大往生。ただ、その前はちょっと大変だったんです。90歳の時に2度目の脳梗塞になってしまって…」

 それは2005年、沖縄県鳩間島を舞台にした日本テレビ系ドラマ「瑠璃の島」の出演が決まった時だった。

「お引き受けすることを迷ったんです。離島での撮影だったので、東京に帰るのに1日かかることもありましたから。でも、前の事務所の社長から『親が死ぬのを待つようなことはやめた方がいいんじゃないか』と言われたんです。実際、母は総合病院を退院して、リハビリ病院に移れたんですね。その後はどんどん回復して、一時期は普通の生活にも戻れた。ドラマでご一緒した方々とは今も親交が続いていますから、その決断は正解だったなと思います」と振り返る。

 それから10年。母は一時入院した病院で亡くなった。その表情は穏やかだったという。

「『明日、またね』と言ったら、そっぽを向かれてしまったんです。それで私は、『毎日来てるじゃない』『私が来ても、あなたは寝ていることもあるのよ』と手を握り、改めて「明日ね」と言って、母が『うん』とうなずいたのが最後。そんな別れ方だったんですが、亡くなる前の数日は元気で、なんとも言えないかわいい顔していたんですよ。もちろん後悔がなかったわけではないですが、本人は最後まで楽しく過ごしてくれたし、私も母を退屈させないために、ありとあらゆることをしていたんで、報われた気がしました。幸せに終わるお手伝いをできてよかった。本当にお疲れ様、長いことありがとうねっていう感じでしたね」

 その次に思ったのは、「100歳まで生きるDNAは置いていかないで」ということ。

「母が100歳まで生きられたのは、リモコンのように使える私がいたから。90歳までは自力で生きられても、その後は足腰が弱ったり、字が書けなくなったり……、どう頑張っても、一人では頑張れないことをリアルに知っていましたから。私の場合、振り向いても誰もいませんからね。結婚? もうしませんよ(笑)。日本の男性は海外の人に比べても手がかかりすぎますし、今さら誰かいなくていいというのが私の結論なんですよ」ときっぱり。

母の死後は終活を意識「家はある場所に寄付したいと決めています」

 母の死後は終活を意識し、既にその準備も済ませている。

「父も母もそれなりに相続のことを考えておいてくれたので、非常に楽だったんですね。父は『子孫に美田を残さず』という人で、とてもありがたかった。でも、私の場合は非常に厄介で、直系親族がいない。そんな度胸もないけど、例えば使い切ったとしても、家は残ってしまうかもしれないじゃないですか。もしそうなったら、ある場所に寄付したいと決めています。その手数料は遺すので、手続きをしてください、という風にしてあるんです」。

「長生きは難しい」と話すが、行動はアクティブ。趣味は登山と社交ダンス。

「コロナ禍の直前にはニュージーランドにトレッキングに行きましたが、今は行きにくくなっていますね。山を一人で歩いている分にはいいと思いますが、山小屋は密ですから。そういうところは生真面目なんですよ。代わりに時間を取っているのは社交ダンスなんです。これもコロナを機にやめようと思ったんですが、毎年海外留学に行くような先生が軒並み暇になっていると聞き、チャンスかもしれないと思ったんです。誰かに見せることはなく、アスリートのように取り組んでいますね」

 ウォーキングも日課の一つ。コロナ禍の中、劇場が再開された時期は、公共交通機関を使わず、往復4時間歩いて劇場通いもした。「どうしても見たい芝居があったんですね。だから、誰とも会わず、誰ともしゃべらず、静かに見て、歩いて帰りました。登山では10時間くらいは歩くので、平気なんです」。アクティブシニアの市毛なら、100歳まで現役女優として活躍を見せてくれそうだ。

□市毛良枝(いちげ・よしえ)1950年9月6日、静岡県出身。テレビドラマ「冬の華」でデビュー。73年、「さえてるやつら」で映画初出演。以後、ドラマ、映画、舞台で活躍。また環境カウンセラーや特定非営利活動法人日本トレッキング協会理事も務める。近年の出演作に、ドラマ「釣りバカ日誌」「越路吹雪物語」「白い巨塔」「未来への10カウント」「無用庵隠居修行」シリーズ、「駐在刑事」シリーズ、映画「神様のカルテ2」「春を背負って」「駅までの道をおしえて」「望み」「ラーゲリより愛を込めて」(2022年秋公開予定)など多数。著書に「山なんて嫌いだった」(山と渓谷社)など。趣味は登山、ドライブ、社交ダンス、オペラやミュージカル鑑賞。

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