ネットでバズった「甲子園ブラバン応援」 “SNS発祥”で流行生まれる現代事情
熱戦が繰り広げられている第101回全国高校野球選手権大会。試合だけでなく、アルプススタンドに結集した各校の吹奏楽部やチアリーディング部、応援団が選手たちを鼓舞する「ブラバン応援」が注目を集め、“アツさ”を増している。近年は、SNSや動画サイトを活用して流行りのパフォーマンスを取り入れる傾向が目立ち、「ネットでバズった(拡散した)」応援スタイルがキーワードだ。高校野球ブラバン応援研究家の梅津有希子氏が最新のブラバン応援事情を探った。
テレビからSNSへ…「ツイッターで見てかっこよかった」で拡散する応援スタイル オリジナル曲の待望論も
熱戦が繰り広げられている第101回全国高校野球選手権大会。試合だけでなく、アルプススタンドに結集した各校の吹奏楽部やチアリーディング部、応援団が選手たちを鼓舞する「ブラバン応援」が注目を集め、“アツさ”を増している。近年は、SNSや動画サイトを活用して流行りのパフォーマンスを取り入れる傾向が目立ち、「ネットでバズった(拡散した)」応援スタイルがキーワードだ。高校野球ブラバン応援研究家の梅津有希子氏が最新のブラバン応援事情を探った。
いよいよ始まった101回目の夏。全国の高校球児たちの晴れ舞台で、近年注目度が高まっているのが、アルプススタンドで選手とともに闘う、吹奏楽部の応援だ。
「サウスポー」「狙いうち」「ルパン三世のテーマ」「ポパイ・ザ・セーラーマン」「海のトリトン」「紅」「さくらんぼ」「夏祭り」「SEEOFF」etc……。歌謡曲やアニメ曲、J-POPなど、野球応援に使われる曲は数多くあるが、近年は応援曲の広まり方が昔とは変わってきているのをご存知だろうか。
ファッションやスイーツがインスタグラムやツイッターで拡散されるように、応援曲も今や完全にSNSや動画サイトの影響を受けている。昔と今がどのように違うのか、人気の応援曲を例に解説したいと思う。
テレビ番組などの応援曲ランキングでも上位にランクインすることの多い「アフリカン・シンフォニー」。高校野球ファンの間では、智弁和歌山の演奏が人気だが、同校は1987年から「アフリカン・シンフォニー」を応援に使用。甲子園で活躍し、繰り返しテレビ中継で映像と応援の音が流れるにつれ、同曲は全国に広まっていく。野球部員が「智弁和歌山のあの曲をやってほしい」と、吹奏楽部にリクエストするのだ。今でこそ曲名が知られるようになったが、当時はまだインターネットのない時代。聴いたことはあっても曲名がわからない野球部員も多かったのであろう、この曲のことを「智弁」と呼び、現在も伝統的にこのように呼ぶ学校は少なくない。
このように、インターネット以前は、テレビ中継から全国へと応援曲が広まっていくことが多かったが、現在は動画サイトやSNSによる影響が大きく、甲子園のアルプススタンドで応援する野球部員に選曲理由を尋ねると、「ツイッターで見てかっこよかったので」「動画サイトで見つけた」という声が非常に多い。顕著な例が、3年ほど前から大ブームとなっている「アゲアゲホイホイ」だ。
「アゲアゲホイホイ」とは、もともと応援でよく使われていた「サンバ・デ・ジャネイロ」に、「ハイヤハイヤ」「エッサエッサ」「アゲアゲホイホイ」などとコールをつけたバージョンで、スタンド全体でコールしながら、メガホンを持って足を上げて応援するというもの。通称「アゲアゲホイホイ」「アゲホイ」と呼ばれ、2017年夏の甲子園では実に半数近くの学校が同曲を採用していた。
この応援は兵庫県の報徳学園が発祥で、2014年頃から使用。強豪・報徳の一風変わったこの応援は、対戦相手もすぐに取り入れるなど、県内ではすぐに広まっていった。2015年夏の兵庫大会準々決勝で明石商に負けた際、「よかったら自分たちの応援を使ってほしい」と正式に伝授。いわゆる「のれん分け」のようなものといえるだろう。その後明石商も使用するようになり、2016年の選抜で初出場でベスト8まで勝ち残ったのがきっかけとなり、動画サイトなどを通じて一気に拡散されていく。
特に話題となったのが、2017年夏の南北海道大会決勝、北海高校による全校応援「アゲホイ」だ。全校生徒による凄まじいまでの「エッサエッサー!」「アゲアゲホイホイ!」コールが円山球場を揺らし、SNSや動画サイトにアップされた動画は、再生数が数百万回を超えるものも。甲子園出場校の半数近くにのぼる学校がやっていた「アゲホイ」を何で知ったかを調査したところ、「ツイッターで見た」と、この北海の動画を挙げる野球部員も大勢いた。
もう1曲、ネットでバズった応援が、同じく近年人気急上昇中の「ダイナミック琉球」(作詞:平田大一 作曲:イクマあきら)だ。同曲は、2009年にイクマあきら自身のレコーディングで発表後、成底ゆう子が2011年にカバー。沖縄では運動会のエイサーでも使われるなど、県内で知名度の高い楽曲だ。2017年、高校バスケットボールの沖縄大会のエール交換で前原高校の女子生徒が歌った動画がSNSで拡散され、同年夏の甲子園で仙台育英が応援に使ったことから高校野球応援でも一気に拡散。「アゲアゲホイホイ」「ダイナミック琉球」ともに、今年も多くの学校が応援に使うことが予想される。
このように、昔はテレビ、現在はSNSで応援が拡散されるようになったが、共通しているのは、「強い学校の応援が広まっていく」ということ。いくらかっこいい応援でも、勝てない学校の応援は広まらない。強い学校は全国の球児が憧れ、さらにそのような学校が使う応援は「縁起がいい」「験を担ぐ上でもぜひ使いたい」と拡散されていくのだ。
「ネットでバズって流行る」のが当たり前の現代。便利な時代になったと思う反面、全国的に応援が画一化してきているのもまた事実。みんなが同じ応援に飛びつくのではなく、ぜひ、各校の生徒や先生が一緒にオリジナリティのある応援を生み出してほしい。「自分たちだけの応援曲」にこだわることで、さらに母校に誇りを持てるようになると思うのだ。
この先も続いていく素晴らしい青春の舞台、甲子園。個性豊かなスタンドが増えることを願っている。
(梅津有希子/Yukiko Umetsu)
□梅津有希子(うめつ・ゆきこ)。北海道出身。ライター、高校野球ブラバン応援研究家。中高を吹奏楽の強豪校で過ごし、札幌白石高校時代、全日本吹奏楽コンクールで3年連続金賞を受賞。完全吹奏楽目線で高校野球を観戦するのが趣味で、著書に「ブラバン甲子園大研究」(文藝春秋)がある。今夏の甲子園期間中、アルプススタンドから各校の応援をTwitterで中継。
梅津有希子Twitter (@y_umetsu)
梅津有希子公式サイト umetsuyukiko.com
「高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究」(文春文庫)