ホテルマン、「陸王」制作スタッフから俳優に 猪征大「また会いたいと思われる人に」
元ホテルマンの経歴を持つ俳優・猪征大が、ディーン・フジオカが主演するWOWOWの連続ドラマW「HOTEL-NEXT DOOR」(毎週土曜、午後10時)にホテルマンの西条陽太役で出演する。2017年のTBS系ドラマ「陸王」では制作スタッフとして活動した経験もある。異色の経歴を持つ猪の素顔と俳優としての次の目標も聞いた。作品は凋落(ちょうらく)著しいホテルの再建のために招へいされた主人公・三枝克明(フジオカ)の驚くような業務改革と、その裏に隠された秘密を描く。
ディーン・フジオカ主演のWOWOW「HOTEL-NEXT DOOR」出演
元ホテルマンの経歴を持つ俳優・猪征大が、ディーン・フジオカが主演するWOWOWの連続ドラマW「HOTEL-NEXT DOOR」(毎週土曜、午後10時)にホテルマンの西条陽太役で出演する。2017年のTBS系ドラマ「陸王」では制作スタッフとして活動した経験もある。異色の経歴を持つ猪の素顔と俳優としての次の目標も聞いた。作品は凋落(ちょうらく)著しいホテルの再建のために招へいされた主人公・三枝克明(フジオカ)の驚くような業務改革と、その裏に隠された秘密を描く。(取材・文=中野由喜)
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「普通にホテルにお客さまとして訪れたのでは分からないホテルの舞台裏が描かれています。僕の役は舞台裏のさらに奥といった感じの施設部の社員。ホテル内の時計やいすなどを修理したり、電球を交換したりする部署です。演じる西条は、接客など表に立ちたいタイプなので、最初は施設部の仕事に乗り気じゃないですが、仕事をするにつれてだんだんホテルが好きになっていく設定です」
元ホテルマンとされる。いつどんな仕事をしていたのか。
「専門学校卒業後、20~23歳までお台場のホテル日航東京、現在のヒルトン東京お台場で正社員として3年間働いていました。宿泊部に所属し、ベルボーイやドアマンをやっていました。表に立つ仕事です。劇中の西条がやりたかった仕事を僕は現実社会でやっていました」
入社1年目でバスケットボール部を作るなどホテルマンの生活は充実していたというが、今回の作品に元ホテルマンの経験は生きているのか。
「たとえばロビーで撮影するとき、僕にはロビーの雰囲気が体に浸透していました。夜のロビーでは、どのくらいの声の大きさを出すべきか。歩き方も決してバタバタと音を立てるような歩き方はしません。現場にすっと入れました。ホテルに一歩足を踏み入れた瞬間に昔のホテルマンの自覚がすっとよみがえりました」
この作品と巡り会えたのは猪にとっては幸運だったはず。オーディションにはどんな思いで臨んだのか。そもそもなぜホテルマンから俳優に転身したのか。
「ホテルに勤めて3年目に職場でホテルを舞台にした他局のドラマのロケがあったんです。実は、僕はもともと俳優になりたくて東京に来たのに、勇気と覚悟がなく就職する道を選んでいたのです。なので、俳優の方々が撮影する様子を見て悔しさを感じていました。ホテルマンの仕事をしながら、いつも心に俳優になりたい気持ちがあり、諦めていなければ自分もここで撮影していたかもしれない、と思ったりもしました。そこで、その年、もう1度俳優に挑戦しようと思ってホテルを辞めました。そして約7年後、この作品に巡り会い『俺しかいない』という覚悟でオーディションに臨みました。合格の決め手は暑苦しい思いです(笑)」
この作品に出演するにあたり、もう一つの元ホテルマンとしての思いがあった。
「東京五輪などでホテルは盛り上がるはずだったのにコロナ禍で今も静かになった感じがあります。こんな時代だからこそ、この作品を見た人がホテルに興味を持ってくださり、ホテルに行ってくれることが元ホテルマンとしての恩返しだと思っています。演じる西城には人間がまっすぐ進む姿を見ることができると思います。見る方を少しでも勇気づけられたらと思います」
「日々、人間として生きることを大事にしたい」
取材していると明るい印象。一方、これまで陰のある役が多かった。
「人間は誰でも陰の部分を持ち合わせていると思います。そこには人間模様がたくさん隠れていると思います。そして見た人がどう感じて明日から生きていくかを考えるのが映画やドラマの面白い部分。そして見た人が『分かる』と共感してくれるのがいい俳優だと思っています」
俳優としての生き方も聞いてみた。
「僕は人間として毎日を生きることが大事だと思っています。小さな出来事に感謝したり、ささいなことで落ち込んだり、好きなものを好きだと胸張って言ったり。そういう小さいことの連続が人間味につながると思っていて、僕は日々、そういう細かなことを感じ、いちいちハッピーになったり、いちいち落ち込む面倒くさい人間です。その振り幅が演技に生きてきたらいいなと思っています。お芝居を頑張ろうというより、日々、人間として生きることを大事にしたいと思っています。陰のある役を上手に演じることができたらいい役者になれるのかなと思って、日々、人間として生きることを大事にしています」
ドラマ「陸王」の制作スタッフの経験もある。どういうことか。
「ホテルを辞めて仕事が全くないときに知り合った方にアルバイトを紹介されて『陸王』の現場に朝4時から行っていました。弁当のゴミを片付けたり、何百人ものエキストラを誘導して、うまくいかずに怒られたり。でも主役の役所広司さんの芝居を目の前で見ることができ、いい経験でした。裏方さんの大変さ、苦労も知ることができました。そういう思いをすることで、作品を一緒に作ってくださるスタッフさんの気持ちを考えて現場に取り組むことの重要性を学びました」
最後に目指す俳優像、目標を聞いた。
「俳優としては映画やドラマを見てくれた人の人生が少しでも好転し、心が豊かになればいいと思っています。俳優はそのサポート役。いつか1本はハートフルなヒューマンドラマを主演で演じること、あと、極悪の最低最悪の人間もやってみたいです。猪征大という人間が伝えられることを俳優という仕事と一緒に伝えたい思いがあります。そして、また会いたいと思われる人になりたいです」
□猪征大(いの・ゆきひろ)1992年9月28日、静岡県生まれ。2019年にフジテレビ系「ストロベリーナイト・サーガ」でドラマ初レギュラー。そのほか「シャーロック アントールドストーリーズ」、「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」、日本テレビ系「ボイス110緊急指令室」などに出演。映画は「カツベン!」「花火がしける前に」など。趣味はバスケットボール。