小栗旬に「ムカつく。悔しい」と言わしめた全成の最期 新納慎也が明かす壮絶な舞台裏

源頼朝の弟・阿野全成を演じた大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、壮絶な死を遂げSNS上に「全成ロス」を巻き起こした俳優の新納慎也(47)が、大河の脚本を手掛けた三谷幸喜のノンストップ・コメディの傑作「ショウ・マスト・ゴー・オン」に出演する。三谷との出会いから、大河ラストシーンの撮影秘話、そして舞台上でリアルに「ショウ・マスト・ゴー・オン」を体験した出来事について聞いた。

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で阿野全成を演じた新納慎也【写真:ENCOUNT編集部】
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で阿野全成を演じた新納慎也【写真:ENCOUNT編集部】

早期退職考える同世代に年齢を痛感、転職サイトをのぞいたことも

 源頼朝の弟・阿野全成を演じた大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、壮絶な死を遂げSNS上に「全成ロス」を巻き起こした俳優の新納慎也(47)が、大河の脚本を手掛けた三谷幸喜のノンストップ・コメディの傑作「ショウ・マスト・ゴー・オン」に出演する。三谷との出会いから、大河ラストシーンの撮影秘話、そして舞台上でリアルに「ショウ・マスト・ゴー・オン」を体験した出来事について聞いた。(取材・文=西村綾乃)

 16歳の頃にスカウトされ、モデルとして芸能界入り。俳優を志した少年は、大阪芸術大学の舞台芸術学科演技演出コースに進学し、演劇を学んだ。94年から舞台を中心に役者として活動してきた。

「僕が出演していた舞台の楽屋の戸を、コンコンと叩く人がいて『誰かな?』と開いたらそこに三谷さんが立っていました。突然『僕と一緒に芝居をしませんか!?』と言われて、『はい!』と言ったら翌日、『恐れを知らぬ川上音二郎一座』(2007年)への出演依頼をいただきました。15年以上のお付き合いになりますが、『つかみどころがない人』という印象は出会う前も、いまも同じ。良い意味で三谷さんは変わってないです。舞台の時は『あぁ、きっといま三谷さんは笑いをこらえているはず』と感じる時もあって、そっと舞台袖に目をやると、いまにも笑いそうな三谷さんが見える気がすることがあります」

 2007年以降、三谷作品に数多く出演してきた。09年にはミュージカル「Talk Like Singing」でオフ・ブロードウェイデビュー。16年にはNHK大河ドラマ「真田丸」で豊臣秀次役を熱演し、秀次退場回放送後に「秀次ロス」現象が発生した。

「『どうして僕を?』と三谷さんに尋ねたことがありました。『姿勢が良いから』、『悲しみを抱えた人が好き』と説明をされ、うれしかったですね。まとっている雰囲気などから、悪役やエキセントリックな役をいただくことが多いのですが、三谷さんは『それだけの依頼をしてくる人は信用しちゃいけないよ』と……。『悲しみの中には繊細さがある。僕はそこに光るものを感じる』って」

「悲しみを抱えている」という評価は三谷以外からも受けたことがあるという。新納自身はその実感があるのだろうか。

「いえ。全然。基本的に元気にハッピーに生きていますし。もちろんこれまで生きて来て、いろいろな経験をしていますが負の要素は極力出さない様にしているつもりです。以前、20代の若い俳優さんたちと共演した時も、彼らよりも僕の方がキャピキャピしていたことがありました(笑)。大学時代の友人から『お前はずっと変わらない。学生の時、実はそのハッピー感にイラっとしていた(笑)』と明かされた時は驚きましたが……(笑)」

 11月7日に福岡・キャナルシティ劇場を皮切りに、京都・東京を巡る「ショウ・マスト・ゴー・オン」は、三谷が主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」で1991年に初演した戯曲。設定や物語の骨格は変えず、三谷がリニューアル版の脚本と演出を務め、28年ぶりに再々演する。

「西村まさ彦さんが主演した作品は、劇場か映像作品か記憶が曖昧ですが、観てはいます。先日令和版の脚本をいただいたのですが、西村さんが演じた舞台監督役を、鈴木京香さんが務められるなど、現代的に変化していて『別物』という印象です。今作の舞台監督は瀧原寿子さんという女性で、この分野を切り開いて来られた女性の第一人者。そんな寿子さんが実際に舞台監督をしてくれるというのはすてきなことですよね。途中から寿子さんの姿を重ねて脚本を読んでしまいました(笑)。僕は小道具づくりの名人・黒木七右衛門役。何かをずっと作っているのですが、何を作っているのかは今は秘密です。おなじみのメンバーが沢山出ますが、『えっ、こんな感じで出てくるの?』と驚くくらい、みなさん意外な役。みんながそれぞれのカラーで笑いを作っていくと思うと楽しみですね」

「一度幕を上げたらその幕は下ろしてはならない!」。タイトルのような場面に遭遇したことがあっただろうか。

「東日本大震災が発生した2011年3月11日。僕はシアタークリエで『ウェディング・シンガー』の本番中でした。経験したことがない揺れに驚いて天井に目をやると、照明機材がガチャンガチャンとぶつかり合うのが見えました。ちょうど1幕があと2~3分で終わるというタイミングだったので、そのまま続行しました。僕は役柄上ハイヒールを履いていたので余計不安定で…(笑)。余震も続いていたので、安全を最優先しこの日は1幕で中止に。僕は何時間もかけて歩いて自宅に帰りました。震災を機に、危機管理体制が変わりましたが、あの時はどうしたら良いか分からなくて、戸惑いながらも「ショウ・マスト・ゴー・オン!」と思って1幕を演じ切ったという経験がありましたね」

鎌倉殿の13人出演「僕が登場するシーンはみなさんをズッコケさせてしまうものばかり」

 放送中の「鎌倉殿の13人」では僧侶役で、第7回から出演した。「風を起こす!」と意気込んで陰陽を唱えるが無風……。「今日は難しいようです」と言い訳し、日本中のお茶の間を震撼させた。

「小栗(旬)くんたちが真剣にやり合う中で、紫式部が憑依する芝居をするなど僕が登場するシーンは毎回みなさんをズッコケさせてしまうものばかり(笑)。でも最後のシーンは、違いました」

 新納が演じた全成は、源頼朝(大泉洋)と異母弟。妻と平穏に暮らしていたが、源頼家(金子大地)に対して呪詛を行った疑いにより、詮議を受ける(第30話の『全成の確立』)。討たれる前、最後に唱えた呪文は突風、横殴りの雨を呼び、雷鳴を轟かせた。

「放送は3分ほどでしたが、6時間をかけて撮影を行いました。人生でこんなに雨に降られたことはないと思うほど、ずっと打たれていたので寒くて。僕もスタッフも身体をガタガタと震わせながら臨みました。意識がもうろうとする中で、あまりの水圧の強さに室内なのに、溺れたスタッフもいて(笑)。僕が評価されていますが、細部まで描いてくださった三谷さん始め、スタッフのみなさまに感謝しています。(宮澤)エマちゃんは台本を読んだ時点で泣いていたみたい。『壮絶でした』と感想をくれました。三谷さんは、収録の様子が映ったモニターを動画で撮影したデータを送っていたのですが、『完璧な音でした』と言って下さった。呪文の最期の『合(ごう)!』という部分だと思うのですが、演出家でもある三谷さんから、正解がひとつしかない音だったと言われ安堵しました」

 役者魂を見せつける壮絶な最期を観た小栗は「カッコいい死に方でムカつく。悔しい」と嫉妬したそう。16年の「真田丸」で演じた豊臣秀次に次ぐ2度目の「ロス」。1年をかけて作り上げた全成と離れ、自身も「ロスになっている」と寂しそうだ。

「僕が登場するシーンは終わりましたが、物語はまだ続いているので寂しいですね。小栗くんたちから撮影の状況を聞くたびに、『えっ、あの人死んじゃうの?』とか一視聴者として放送を観ている自分がいます」

 舞台や、ドラマなど幅広く活躍しているが、表現を続ける原動力はどこにあるのだろう。

「僕は劇団に所属していたりしないので、オファーを頂かないと舞台に立つことができません。1度コケてしまったら次はない。失敗してしまったらどうしようという『恐怖』が、僕を奮い立たせています。いま47歳なのですが、最近一般の仕事をしている同級生から『早期退職を考えている』という話を聞いて、『えっ、もうそんな年齢?』とびっくりしました。マネージャーに、『(各方面から注目されるようになった)いまの勢いに乗って、活動の場を広げて行こう』と将来を夢見た話をしたところでしたが、リタイアを考える友人がいることで自分の年齢を実感しました(笑)。実は以前、転職サイトの中にある『適正テスト』を受けたことがあるのですが、社会人経験もないパワーポイントも使えない40代を雇ってくれるところなんてどこにもなくて(笑)。地道に役者道を進んで行くしかないんだと改めて腹をくくりました(笑)」

「ショウ・マスト・ゴー・オン」は11月7日に、福岡・キャナルシティ劇場で幕開け。13日まで同地で行われ、続いて17日~20日に京都・京都劇場。25日~12月27日に東京・世田谷パブリックシアターで上演される。

□新納慎也(にいろ・しんや) 1975年4月21日、兵庫県生まれ。16歳の時にスカウトされ、モデルとして芸能界入り。俳優を志ざし、大阪芸術大学舞台芸術学科演技演出コースに進学した。数多くの舞台で個性と実力を発揮している。NHK正月時代劇「風雲児たち~蘭学革命篇~」では剃髪をして杉田玄白を演じた。2023年2月からは舞台「THE BAND’S VISIT」にカーレド(トランペット)役で出演することも決まっている。180センチ、A型。

スタイリング:津野真吾(impiger)
ヘアメイク:田中エミ(Rapport81)

■衣装クレジット

ニット4万1800円(meagratia/Sian PR)
パンツ4万2900円(TRANSIT UOMO/STOCKMAN)
その他 スタイリスト私物

▼問い合わせ先
・Sian PR (03-6662-5525)
・株式会社ストックマン(03-3796-6851)
※全て税込価格

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