廃材が見事な「山犬」のオブジェに…SNS大反響、新たな命を吹き込む「廃材再生師」とは
まるで今にも動き出しそうな「山犬」のオブジェ、実は廃材の木材で作られていたーー。作品の紹介投稿がツイッターでバズった、制作者で「廃材再生師」の肩書を持つアーティストの加治聖哉さん(26)に、制作背景やものづくりへの情熱について聞いた。
「恐竜や幻獣、神として祭られる動物も作りたい」と作風に変化
まるで今にも動き出しそうな「山犬」のオブジェ、実は廃材の木材で作られていたーー。作品の紹介投稿がツイッターでバズった、制作者で「廃材再生師」の肩書を持つアーティストの加治聖哉さん(26)に、制作背景やものづくりへの情熱について聞いた。(取材・文=吉原知也)
今回の作品「神籬(ひもろぎ)」は、全長約3.8メートル、高さ約1.5メートル、幅約1.1メートルで、ニホンオオカミをモチーフにした作品。木材を組み合わせてリアルに設計されており、たけだけしさ、迫力を押し出している。9月23日に「かっこよくなってきた 明日完成品あげますね~」と顔と前足の一部分だけをアップしたところ、反響が。翌24日にかけて完成品の写真を2回投稿した。現在まで、計約3万リツイート、計約21万いいね!を記録しており、大バズリになった。「正直、途中経過の時点でここまで伸びたら完成品は伸びないんじゃないかと思っておりましたが、実際は非常に多くの方から反応をいただけたので、感謝とうれしい気持ちでいっぱいです」と、加治さん本人も驚きだ。
インパクト抜群の神籬は、毛並みの表現が「難しく苦労しました」。今年5月には基本形ができていたが、毛並みに使える材料がなかったため制作を中断。最近になって、「片栗粉の空箱」を入手することができ、完成にこぎつけた。毛並みにうってつけの材料であるという理由は「主に2点あって、毛並みは白色の方が神々しさが出ると思ったのと、桐箱なので重量的に軽いということです」とのことだ。使用材料は、建具の板端材、(柱と柱の間に付ける補強材である)筋交いの切れ端、最終的に1万匹を目指して制作を続けている作品「鰯」の展示用材料の余り。片栗粉の空箱はA4サイズのものを約100箱分使用しているという。
2018年に長岡造形大造形学部美術工芸学科・彫金コースを卒業後、民間企業に就職し、19年に独立。ふるさと・新潟県を拠点に、廃材で主に原寸大サイズの動物を作るアーティストとして活動を始めた。個展の開催や企業・団体への作品提供に加えて、長岡市栃尾地域の地域おこし協力隊に着任し、作品作りを通して地域活性化にも取り組んでいる。
廃材を材料にする創作のきっかけは「大学の頃、建築生の家具制作の授業で、完成した家具たちの裏で無造作に捨てられている、まだ使える材料を見てもったいないと感じたところから、何かできないかと考え始めました。モチーフについては、私が動物が好きで、実物大の方が迫力があると思ってこのように制作しています」と教えてくれた。
これまで、マゼランペンギンやクジャク、ハリネズミなど実在する生き物をメインに作ってきたが、最近は作風に変化が。「恐竜や幻獣、神として祭られる動物も作りたいと思い、今回、神籬を制作しました。またシンプルに大きい山犬に乗ってみたいという気持ちもあって作りました」。反響を集めた作品の実現に至った。昨秋には伝説上の生物である「麒麟」を制作。ツイッターで、「コロナの終息、太平の世を願い、麒麟を作りました 皆さんに平和が届きますように」と紹介し、話題を集めた。
廃材に新たな命を吹き込む、斬新な創作活動。「廃材再生師」の肩書は造語で、オリジナリティーを大事にしている。「役目を終え、一度死んでしまった『廃材』に、もう一度『生命』を吹き込むことで廃材への理解と可能性を皆さんに知ってもらいたいです。廃材一つひとつにはストーリーがあり、それらを残した状態で生まれ変わらせることで、提供した人の思い出を残しつつ、見ている人たちにそれらの情景を想像してもらいたいと思いながら制作しています」との信念を持っている。今後については、「実在する動物はもちろんですが、恐竜や伝説の生き物、人なども作りたいです。近々の目標は関東や関西の方でも展示して多くの方に見ていただきたいです」と前を見据えている。