安東弘樹が考える“幸せになれる車” 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の矜持と視点

フリーアナウンサーとして数々のテレビ、ラジオをはじめとした番組に出演している安東弘樹は、自身の番組で事あるごとに車への熱い思いを語っていた。そんな車への愛が高じて、現在では「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員を務めている。選考委員の立場について、その経緯や矜持について聞いた。

2017年から選考委員を務める安東弘樹【写真:ENCOUNT編集部】
2017年から選考委員を務める安東弘樹【写真:ENCOUNT編集部】

メーカーも驚く底抜けの探究心 選考委員として重んじる「ユーザー目線」

 フリーアナウンサーとして数々のテレビ、ラジオをはじめとした番組に出演している安東弘樹は、自身の番組で事あるごとに車への熱い思いを語っていた。そんな車への愛が高じて、現在では「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員を務めている。選考委員の立場について、その経緯や矜持について聞いた。(取材・文=猪俣創平)

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「日本カー・オブ・ザ・イヤー」とは、日本国内で発表される乗用車の中から年間を通じて最も優秀なものに与えられる賞で、選考委員は60人まで。実行委員の推薦・投票により決定され、安東はTBS在籍時の2017年からその大役を務めている。歴代の選考委員は、モータージャーナリストを中心としたメンバーで構成されていることがほとんどだった。なぜアナウンサーの安東が選出されたのだろうか。自身も「なれるとは思っていませんでした」と振り返る。

 14年ごろから車に関するコラムを書き始め、その中で日本車に多く導入されている「CVT」というトランスミッションが日本人を車嫌いにしたという内容の記事を書くことがあった。ラジオ出演の際にも同じように「CVTが日本の主流になったことで運転するときの不快感が知らないうちに刷り込まれ、日本人が運転嫌いになった」と熱く語っていた。こうした“クルマ愛”が、思わぬ形で実を結んだ。

「安東というアナウンサーがいつも車のことを話していると伝わったようで、何人かのモータージャーナリストの人が目に止めてくれました。そのうちの一人、飯田裕子さんが僕をアウディの新しくできるディーラーのトークショーにゲストとして呼んでくださったんです」

 アナウンサーという職業柄、イベントでは司会を務めることが多い。しかし、当日は飯田氏が司会、ゲストが安東という通常とは反対の立ち位置だった。もっとも、ゲストだから発揮できたのだろうか。安東の車に関する豊富な知識と深い愛情がジャーナリストを驚かせた。「飯田さんは僕のことを詳しくは知らなかったんですけど、記事を読んでいただいたようでした。僕が車のデータを何から何まで知っていたので、飯田さんに驚かれました。飯田さんに『スペックモンスター』っていうあだ名をいただきました(笑)」。安東のずば抜けた知識に自動車評論家も舌を巻いた。

 イベントをきっかけに、飯田氏から「日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員になる気はありませんか?」というオファーが届いた。選考委員に推薦される候補者は他にもいたものの、安東が選出された。当時の心境はうれしい反面、不安もあった。

「もちろん、車に関わる仕事ができるのはすごくうれしいですし、光栄です。ただ、選考委員の多くは、いわゆるジャーナリストの方なんですよ。プレッシャーがありましたね」

 重圧を感じながら初めて迎えた「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の総会。そこで初めて他の選考委員や実行委員に新しい選考委員として紹介される。車雑誌を穴が空くほど読んでいた安東にとって、自動車界の有名人ばかりがいる会場だったことから、TBSの「オールスター感謝祭」の控室よりも緊張した。安東をアナウンサーと知らない人やアナウンサーとしては知っていても「『何でコイツが?』みたいな空気になっていました」と感じたほど重々しい雰囲気だった。しかし、そこは同じ車好きとあって、並々ならぬ安東の“クルマ愛”が選考委員や実行委員たちの胸襟を開かせた。

「初めての自己紹介で、『今まで感動した経験は、ドゥーシーボー、2CVというシトロエンの古い車を運転したときです。運転するのがとにかく大好きで、マニュアルの車を運転するのが、特に好きです』と言った瞬間、ベテランの皆さんから『おお~』という反応がありました。その後も『マニュアル車を運転しているときが一番幸せです』という感じで、今乗っている車のことも説明していたら何となく受け入れてくださる感じになりました」

思い出のノミネート車を振り返った安東弘樹【写真:ENCOUNT編集部】
思い出のノミネート車を振り返った安東弘樹【写真:ENCOUNT編集部】

選考委員就任後、車を「総合的に考えるように」

 現在も選考委員を務めているが、選考の際に心がけているのはユーザー目線だ。

「ドライバーそれぞれのライフスタイルに車の性能や機能が合っているのが大前提です。だから金額に関係なく、メーカーのポリシーとユーザーフレンドリーかどうかを考えます。すなわち、買って幸せになれる車です。どういうジャンルの車でも、買った一瞬だけでなく、しみじみ幸せにしてくれる。実用的な車として買ったとしても幸せになれるような、運転が楽しい車というのが基本にあります」

 過去のノミネート車から実際に自身が選んだものを例に挙げて説明した。実際に購入しようかと真剣に悩むほど魅了された1台だった。

「私自身の一番最初の選考(17年~18年)でカーオブザイヤーに選んだのは忘れもしない、スズキのスイフトシリーズだったんですけど、そのスポーツグレード(スイフトスポーツ)がめちゃくちゃ良かったです。しかも価格は200万円を切るんですよ。明確なポリシーがあって、運転も楽しいしスポーツもできる車っていうのが私を魅了しました。もちろん、スイフト全体でのエントリーだったんですけど、スポーツじゃないスイフトにもすごく明確なポリシーを感じました。ボディー剛性も高かったですし、リーズナブルな車でスポーツもできてマニュアルもある。ある雑誌で見たのですがドイツのニュルブルクリンクという運転好きの聖地と言われるサーキットのレンタカーがスイフトスポーツだったんです。これは後になって知りましたけど、すごく納得しました。安くて軽くて、当然軽いので燃費も良くて。それでいて運転する楽しさを提供してくれる車ということで、迷いなくスイフトでしたね」

 思い出深い1台だけに熱がこもる。翌18~19年に選んだ1台は「デザインがトヨタ車の中でいまだに一番いいと思っています」と語る、カローラスポーツだった。

「外観には塊感があって、私にとっては重要なマニュアルのモデルもあります。ちなみにフリーランスになった1年後位に、出演者2人が運転して旅をするというテレビ東京さんの番組に出演させていただきました。相手は同じくTBSからフリーランスになっていた田中みな実さん。トヨタさんの1社提供の番組でトヨタさんのクルマで旅をするのですが、車はカローラスポーツのマニュアル車を私の指名で用意してもらいました。丸一日運転してみて本当に良いクルマでした。運転自体が楽しかったですし、中も意外に広くて。田中みな実さん途中で寝てましたけど。『収録中にガチで寝るの本当にやめてもらえますか?』って言ったら、『え~だって、なんか心地よくて……』と言われまして。でも、『あ、そこポイント。運転に不快感がないから』って言うと、『うん、まあ、そういうことでいいです』……おもしろかったです(笑)」

 選考委員になる前から新しいクルマが発売になると必ず家や職場の近所のディーラーに赴き試乗をしていた安東は、メーカー主催の試乗会への参加が増えたものの、現在も街のディーラーなどへ試乗に出かけている。試乗の際の心境に変化もあり、「より真摯(しんし)に車に向き合えるようになりました。ただ単に自分が買うかどうかだけの試乗が、いろんなことを総合的に考えるようになりました。興味がないと思った車でも、ディーラーに試乗しに行くようにしています」と明かす。

 メーカー主催の試乗会でも常に“ユーザー目線”で向き合い、あまりの熱意にメーカーの担当者も困惑する場面もあるほど。

「最後まで試乗会場に残っている、嫌な選考委員です(笑)。メーカーの担当者の人にも苦笑いされるんですけど、最後まで食い下がって『ここは、なんでこうなんですか?』と質問してます。大体最後まで会場にいる事が多いのですが、他のジャーナリストの方に笑いながら、『安東さん頑張ってください』と言われるくらい。たとえば、『なんで助手席だけ電動シートじゃないんですか? 助手席の人の方がハンドルもついていないし調整が大変だと思います。座席を前後させるのに一苦労、という力が弱い人が乗る場合もあります。どのくらいのコストが掛かって、それは車両価格に、どの程度反映してしまうのでしょうか?』等としつこく聞くようなことは珍しくありません」

 運転する人だけでなく同乗者にとっても幸せな車かどうかを左右するポイントのようだ。質問を受けた担当者からも「やっぱり安東さんは着眼点が違いますね。操縦安定性や走行フィーリング、ブレーキ性能などについてはよく聞かれますけど、そんなに電動シートについて聞かれたことはないです」という反応があったと振り返る。

 現在の車の言論空間にYouTubeの「いい影響」が出ているようだ。「YouTuberさんに感謝してます。YouTuberさんが車に対して厳しい意見を忌憚(きたん)なく発信したり、ジャーナリスト自体が、その姿勢や意見についてYouTuberさんから、厳しく批判される事もあります。それによってメーカーはもっとシビアに見られるようになっていると思います」。

 今後も変わらず真摯に車と向き合っていきたいと語る安東。多くの人にアピールしたい車の魅力が山ほどあるため、YouTubeをより活用することも視野に入れながら、さまざまな場面で発信を続けていく。

□安東弘樹(あんどうひろき)1967年10月8日、神奈川県生まれ。91年、株式会社東京放送(現TBSテレビ)にアナウンサーとして入社。これまで45台の車をほとんどローンで購入して乗り継ぐ。現在所有する愛車は「スズキ ジムニー」「ロータス エリーゼ」「メルセデス・ベンツ Eクラスオールテレイン」の3台。2017年から日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員を務める。YouTubeチャンネル「安東弘樹/no car, no life」で車の魅力を発信中。

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猪俣創平

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