30歳で初の声優仕事 “遅咲き”の46歳・浅沼晋太郎が大切にする「根拠のない自信」

テレビアニメ「四畳半神話大系」と、実写映画化もされた戯曲「サマータイムマシン・ブルース」が融合して生まれたアニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」が9月に公開される。真夏の京都を舞台に、突如現れたタイムマシンに翻弄される青年“私”役は、2010年に放送されたアニメに続き、声優の浅沼晋太郎(46)が務めている。12年前と変わらぬ超絶早口を披露した浅沼は「タイムマシンがあったら、亡くなった父に会いに行きたい」と語った。

アニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」で声優を務める浅沼晋太郎【写真:ENCOUNT編集部】
アニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」で声優を務める浅沼晋太郎【写真:ENCOUNT編集部】

タイムマシンがあったら「亡き父に会いに行きたい」

 テレビアニメ「四畳半神話大系」と、実写映画化もされた戯曲「サマータイムマシン・ブルース」が融合して生まれたアニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」が9月に公開される。真夏の京都を舞台に、突如現れたタイムマシンに翻弄(ほんろう)される青年“私”役は、2010年に放送されたアニメに続き、声優の浅沼晋太郎(46)が務めている。12年前と変わらぬ超絶早口を披露した浅沼は「タイムマシンがあったら、亡くなった父に会いに行きたい」と語った。(取材・文=西村綾乃)

誰もがアッと驚く夢のタッグ…キャプテン翼とアノ人気ゲームのコラボが実現

 物語の舞台は京都・左京区にある下宿「下鴨幽水荘」。建物内に唯一設置されているクーラーのリモコンが、悪友によって水没させられた「私」は、うだるような夏の日をどう過ごしていくのか、途方に暮れている。

「演じた“私”と僕の共通点ですか……。人見知りで、いざというときに引っ込み思案になってしまうところが似ているかもしれませんね。僕と同じ昭和世代の方は、“私”に対して『プライドが高いくせに悲観的な部分が、太宰治のような文豪の姿に重なる』と感じるんじゃないでしょうか。対して若い世代からは、『いるいる。こういうオタク』と呆れられつつ、親しまれているようにも感じます。世代によって見え方が違うって、面白いですよね。どの世代からも共通して思われるだろう“私”の印象は、『いつも何かのせいにするダメな人』。とてつもなく面倒くさい人だけれど、僕にとっては愛しい存在です」

 クーラーを使えず、困った“私”と、同じ大学に通う後輩の明石さん(坂本真綾)のもとにやって来たのは、25年後の未来からタイムマシンに乗ってきたと語る謎の青年・田村(本多力)。半信半疑で話を聞く“私”だったが、この窮地を脱しようと、「昨日に戻って、壊れる前のリモコンを入手しよう」と思い立つ。

「行動が制限されたコロナ禍。生で何かを体験できることは、当たり前なんかじゃなく、奇跡みたいな、とてもありがたいことなのだと思い知らされていました。いろいろな公演が中止や延期になる中で、行きたいと思ったものは、『いつか』じゃなくて、『今』行かなきゃダメなんだと痛感したんです。『(2016年に解散をした)SMAPのコンサートに行っておけばよかったな』とか『解団した劇団の演劇を観ておきたかった』とか、『亡くなられた志村けんさんに一度お会いしたかった』みたいな思いはいくらでも出てくる。『推しは推せるときに推せ』じゃないですが、行きたい場所には行って、会いたい人には会っておかなくちゃダメだって、より強く思いますね。僕は幼いときに父を亡くしているのですが、もしタイムマシンを使うことができたら、過去に戻って父とお酒を飲んでみたいです」

 作品の冒頭では、バラ色のキャンパスライフを送るため、有意義な夏を過ごしたいと意気込む“私”。浅沼にとって思い出の夏は――。

「実は夏が苦手で……。海やバーベキューなど、夏らしいことがあまり得意じゃないんです。30歳のときに声優として初めてお仕事をいただいた作品(『ZEGAPAIN-ゼーガペイン-』)が、夏の印象が強い作品だったので、以前よりは夏を好きになったと思います」

 今夏、「第104回全国高等学校野球選手権大会」で東北勢として初めて全国制覇を成し遂げた仙台育英学園高等学校の特進クラスを卒業した浅沼は、「映画監督になる」という思いを胸に多摩美術大学で映像を専攻した。

「僕が高校に在籍していたのは、ゴジラ(松井秀喜)が話題のとき。(松井の母校の星稜高校と)母校が1994年に甲子園出場を決めた年は、寝台列車に乗って応援にも行きました。大学進学で上京してからは、高円寺で姉と共同生活を送っていましたね」

 主宰していた劇団の解散を決めた2006年。脚本家として仕事をしたことがあったキャスティング会社に誘われて受けたオーディションで声優への扉が開いた。声優始動したのは30歳のとき。「声優としてはかなり遅いデビュー」と振り返る。

「僕はまだ夢をかなえることができていないので、大層なことは言えませんけど、自分に言い聞かせるつもりで思っていることは『人間の行動を邪魔するものの一つは、恥ずかしいという感情』ということ。男の子も女の子も、失敗したり、カッコ悪いところをさらけ出すのは恥ずかしいと思うものですよね。大事なのは、いかにその気持ちに折り合いをつけるか。今の年齢になると、カッコつけていてもカッコ悪いときなんていくらでもある。極端だけど、鼻毛が出てしまっているカッコ悪い自分も、受け入れて笑い飛ばせるようになったら、一歩進めるんじゃないかなと感じてます。昔も今も僕が憧れているのは、根拠のない自信。自信がないまま来てしまったけれど、失敗を恐れず、『命までは取られないんだから』という気持ちで歩んでいきたいですね」

 多忙な日々の癒やしは、サウナ。全国のサウナを訪れることが楽しみだと笑う。

「サウナに入った後、水風呂がわりに湖に飛び込んだことがあるんですけど、自然を思いっきり感じることができて最高でしたね。ファンの方からは『またサウナのこと話してる』と思われてるかもしれませんけど(笑)、これが自分にとって今一番のご褒美です」

 映画「四畳半タイムマシンブルース」は全国の映画館で、9月30日から3週間限定で公開される。

□浅沼晋太郎(あさぬま・しんたろう)1976年1月5日、岩手県生まれ。2006年に放送されたロボットアニメ「ZEGAPAIN-ゼーガペイン-」のソゴル・キョウ役をきっかけに声優としての活動をスタート。代表作はスーパー戦隊シリーズ「機界戦隊ゼンカイジャー」(ジュラン/ゼンカイジュラン)、テレビアニメ「啄木鳥探偵處」(石川啄木)など。脚本家・演出家・俳優・コピーライターとしても活動している。175センチ、O型。

ヘアメイク:丸山郁美
スタイリスト:ヨシダミホ

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください