文学史上最大の謎…「7人シェイクスピア」をひも解く力作漫画の新解釈とは

劇作家ウィリアム・シェイクスピアの謎に、新たな仮説を唱えた漫画家がいる。「BECK」などの作者として知られるハロルド作石だ。「マクベス」「ロミオとジュリエット」など、数々の名作を残したシェイクスピア。片田舎に生まれ家柄にも恵まれなかった彼が、どうやって世界的な劇作家となったのか。文学史上最大の謎の一つと言われている。

「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT」第1巻、ハロルド作石、講談社
「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT」第1巻、ハロルド作石、講談社

シェイクスピア複数人説の真相…7人の才能が絡み合う“成り上がり”物語

 劇作家ウィリアム・シェイクスピアの謎に、新たな仮説を唱えた漫画家がいる。「ゴリラーマン」「ストッパー毒島」「BECK」の作者として知られるハロルド作石だ。「マクベス」「ロミオとジュリエット」など、数々の名作を残したシェイクスピア。片田舎に生まれ家柄にも恵まれなかった無学の彼が、どうやって世界的に知られる劇作家となったのか。文学史上最大の謎の一つと言われている。

 そんな“史上最も謎に満ちた劇作家”に挑んだハロルド氏の漫画が、現在ヤングマガジン(講談社)で連載中の「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT」だ。シェイクスピアの代表作「ヴェニスの商人」「リチャード三世」などの制作過程を通して、ハロルド氏ならではの大胆な発想で描かれたシェイクスピアが漫画ファンを中心に話題となっている。

 本作品は2011年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)での連載(第1部)が終わったのだが、ハロルド氏たっての希望で2016年12月にヤングマガジンで新章がスタート。この新章は第1部を知らない初見の読者でも楽しめるストーリー構成となっている。

 舞台は16世紀、空前の演劇ブームに沸くロンドン。片田舎に育った無学の青年“シェイク(別名ランス・カーター)”を筆頭に、美しい詩を生み出す“リー”や、聖書や神話の知識を豊富に持つ“ミル”、あらゆる物語を知る本売り“トマス”ら、それぞれ異なる才能を持った7人が力を合わせて作品を完成させていく。

 実際にシェイクスピアの謎として“別人説”や“複数人説”がまことしやかに囁かれている。シェイクスピアは無学だったにも関わらず、宮廷生活や医学に関する専門知識、さまざまな国の古典語・近代語が作品の中で使われているためだ。また“詩や戯曲を書いた”という証拠も残っていないという。

 参考文献は莫大な量で、ハロルド氏の努力は計り知れない。“シェイクスピアの謎”と“ハロルド氏が描く魅力的なキャラクター”が絶妙にマッチし、一見難しそうなテーマが非常に親しみやすく描かれている。中でも魅力的なのが、“詩の女神”と呼ばれる少女・リーだ。彼女は「マクベス」で有名な台詞「きれいは汚い、汚いはきれい」など独創的な詩を紡ぎ、シェイクスピア作品に魂を吹き込んでいく。ハロルド氏が描く女性キャラクターの美しさは今作でも必見だ。

「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT」第9巻、ハロルド作石、講談社
「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT」第9巻、ハロルド作石、講談社

 16世紀のロンドンというのは、絶対的な格差社会の時代だった。社会階級・宗教弾圧・家庭内暴力など、理不尽に傷つけられてきた7人が巡り会い、“ウィリアム・シェイクスピア”として作品を生み出す。リーダーのシェイクは「劇作家として成功して大金を手にする」と野望に燃えていたが、7人の才能が結実した最初の作品「ヴェニスの商人」は、シェイクに学歴や実績がないため劇団にはまったく相手にされなかった。それでも、“7人のシェイクスピア”の1人であるミルが自らの命を危険にさらして、ロンドンの劇場・シアター座を支援する貴族ファーディナンド・スタンリーとコンタクトを取る。強力な支援者の出現によって「ヴェニスの商人」は初上演を迎え、不条理な時代への反撃、シェイクスピアの成り上がり物語がスタートするのであった。

 また、当時の宗教弾圧について生々しい描写がある。シェイクたちが信じたカトリックは死罪にも値するほど厳しい弾圧を受けていた。カトリック信徒を捕まえた政府の秘密警察は、拷問で痛めつけ最終的には打首にして人々に見せつける。こうした残酷なシーンも描かれ、ストーリーに緊張感を与えているのだ。史実を織り交ぜたリアルなストーリー。シェイクスピアが生きた時代の歴史背景をしっかりと学ぶこともできる。

 7月に最新の第9巻が発行され、作中では「ヴェニスの商人」「リチャード三世」「マクベス」が公開されている。数多くの名作は、一体どんなきっかけで生まれたのか、その時シェイクたちにどんな試練が訪れ、乗り越えていったのか。ハロルド氏による“シェイクスピア作品の舞台裏”が楽しみでならない。

 学校の図書館には、日本の歴史を取り上げた学習まんがシリーズが置かれている。この作品はシェイクスピアという人物を学ぶにはピッタリの一冊ではないだろうか。勉強や演劇が苦手な人であっても、知的好奇心をくすぐられるだろう。シェイクスピアの謎解きに注目だ。

(イシイ ヒデキ/Hideki Ishii)

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