シャドウバースが“コミュニティー”を育む理由 キーマン2人が語るこれまでの歩みと未来

デジタルカードゲーム「Shadowverse」(以下、シャドウバース)の大型大会「RAGE Shadowverse 2022 Autumn GRAND FINALS」が9月23日(金・祝)、有明セントラルタワーホールにて開催される。6周年を迎えてeスポーツとしても発展を続けるシャドウバース、そして共に成長してきたRAGE。Cygames専務取締役でシャドウバースプロデューサーの木村唯人氏と、RAGE総合プロデューサーの大友真吾氏に、これまでの歩みと今大会の見どころ、今後の展望などについて聞いた。

木村唯人氏(右)と大友真吾氏【写真:ENCOUNT編集部】
木村唯人氏(右)と大友真吾氏【写真:ENCOUNT編集部】

「RAGE Shadowverse 2022 Autumn GRAND FINALS」が23日開催

 デジタルカードゲーム「Shadowverse」(以下、シャドウバース)の大型大会「RAGE Shadowverse 2022 Autumn GRAND FINALS」が9月23日(金・祝)、有明セントラルタワーホールにて開催される。6周年を迎えてeスポーツとしても発展を続けるシャドウバース、そして共に成長してきたRAGE。Cygames専務取締役でシャドウバースプロデューサーの木村唯人氏と、RAGE総合プロデューサーの大友真吾氏に、これまでの歩みと今大会の見どころ、今後の展望などについて聞いた。(取材・構成=片村光博)

   ◇ ◇ ◇

――まずは木村さんにうかがいます。シャドウバースを競技性の高いタイトルにしたきっかけを教えてください。

木村唯人氏(以下、木村)「シャドウバースのリリース時(2016年6月17日)、eスポーツに対して国内企業があまり参入していませんでした。そこで最初から競技性、観戦文化、プロの存在によって競技シーンを作ろうと考えて、ゲームの設計はしていました。観戦できるものというのは最初から意識して作りましたね。リリース当初はそこまで言ってはいませんでしたが、少ししてから大型大会を始めていますからね」

――競技としてのシャドウバースの現在をどう評価していらっしゃいますか。

木村「競技であることが当たり前になったなというのが、一つです。シャドウバースといえば大型大会があって、みんなが大会を目指して遊べるというのが当たり前になりました。観戦して応援するという文化も醸成されてきた印象です。カードゲームでは、あまり他の人のプレイを見て応援するということがありませんでした。他にも有名なカードゲームはありますが、当時はそれほど他者がプレイしているのを観戦する文化がなく、今でもそこまで増えているとは言えないと思います。基本的に観戦するよりも、自分でプレイするものという感覚ですよね。大会に行って、そこで決勝戦をやっていれば見ることはあるかもしれませんが……。進んで見るということはあまりなかった。その中で、観る文化をシャドウバースでは作れたかなと思っています」

――シャドウバースの競技性を前面に押し出していくことにしたタイミングはあったのでしょうか。

木村「僕らとしては、2018年のプロリーグ(RAGE Shadowverse Pro League/現・RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR=RSPT)創設かなと思っています。eスポーツで最初に意識したのは、スターを作ること。スター選手がいることは大事だと思っていて、プロリーグを始めたのもスターにファンを付けるという目的がありました。そこからeスポーツが明確に文化になっていったのかなと思います。特にGxGや横浜F・マリノスのようにプロスポーツを運営するチームが参入してくれて、皆さんの見方も変わったし、入った選手たちの意識も変わったなというのは覚えています」

大友真吾氏(以下、大友)「競技性という意味では、2016年のRAGE Shadowverseの第1回は、ダブルエリミネーショントーナメント方式(※1)だったんです。ただ、高額賞金があるということもあり、競技性を担保して実力者が勝ち上がれるように、以降はスイスドロー方式(※2)を検討したりしました。また、緊張感のある戦いをするためにもGRAND FINALSではBO5(3本先取)形式を採用するなどして、デッキ選択からプレイングまで、よりハイレベルな試合の模様を幅広く届けられるような工夫を心がけています」

――木村さんから見て、「スター選手を作る」という取り組みの進捗はいかがでしょうか。

木村「プロリーグを創設したことにより、定期的に選手の試合を見ることができます。カードゲームはあまりそうした機会がなかったんですよね。プロ野球やJリーグのように、選手が定期的にプレイすることで固定ファンが付くという意味では、うまくいっているのかなと思います」

――RAGEのGRAND FINALSやRSPTのような競技性の高い試合を広めるために、RAGEとして意識していることはありますか。

大友「木村さんもおっしゃっていましたが、『スターを生み出す』というところは当初から一緒に取り組ませてもらっていました。特にファイナリストへのフォーカス、人にフィーチャーした演出は心がけています。最近はプロ選手のファイナリストも増えていますが、やはり一般の実力者がファイナリストになるケースも非常に多い。その人となりをしっかりユーザーに届けられるように、ファイナリストの事前インタビューは毎回取り組んできました。あとは二つ名のようなキャッチコピーですね。アマチュアの方の第1試合はなかなか構図を作りづらい部分もありますが、出身地などを含め、視聴者の感情移入しやすいポイントをいくつか用意するようには心がけていました」

――スマートフォンゲームのシャドウバースとして、カジュアルな面と競技的な面のバランスに苦心されることもあるのでしょうか?

木村「リードゲームデザイナーがカードのゲームデザインをしているのですが、BO1(ランクマッチなどで採用される1戦のみの勝負)とBO3で全然違う部分があるんです。カジュアルではBO1だし、競技シーンではBO3。デッキの強弱も変わってきます。そこで棲み分けもできている面もありますが、作る側には難しさもあります。ただ、ゲームの環境の多様性、流動性は重視して、達成できるようにカードパックをリリースしています。ユーザーの種類はカジュアルから競技勢まで幅広くいて、どこでどんな試合をやるかという複雑性は増していっています。それでも、その中で最大限面白いゲームを作りたいと考えていて、現在の課題でもあり、作っている側としても面白いところになっていると、デザイナーからも聞いています。BO1が最もプレイされていますが、BO3が環境としてつまらなければ、RAGEなどを見ている側にとって面白くなくなってしまいます。両方を見て作らなければいけなくて、両方を面白くなるように作るのは難しいですが、チャレンジし続けているというのが現状です」

※1 全出場者が2度目に負けるまで優勝のチャンスがある敗者復活戦のある試合形式

※2 勝っても負けても参加者全員が同じ回数だけ試合をする方式

大友氏はオフライン大会の意義を語った【写真:ENCOUNT編集部】
大友氏はオフライン大会の意義を語った【写真:ENCOUNT編集部】

リアル大会は“観る楽しさ”の定着につながる

――RAGE Shadowverseは、2年ぶりのリアル大会開催に踏み切っています。その理由はどのようなところにあるのでしょうか。

大友「一番はやはり、ユーザーの方、ファンの方が待ち望んでくれていたということです。コロナ禍で2年間は予選大会のリアル開催もなく、GRAND FINALSもオンライン観戦でした。イベントの規制などがある程度緩和されて、世の中的にも対策を取れば開催可能となったタイミングでやろうという話ではありました。タイミングよく会場も抑えられたので、6月のSummer予選大会からリアル開催に踏み切ったという経緯です」

木村「すごくやりたい中で、できないという時期が続いていました。カードゲームは仲間とプレイするものです。シャドウバースはオンラインゲームなので、ネット上で仲間を募ることも多い中、RAGEは“オフ会”のような交流の場にもなっているんです。そうしたイベントは定期的に開催していきたいですし、コミュニティーも楽しんでもらうことがシャドウバースの楽しみの一つになっています。だからこそやりたいと思っていたところで、『ようやくやれたな』という感覚ですね。一方、オンラインでは日本全国どこからでも参加できて、GRAND FINALSだけ行けばいいという良さもあって、実は好評でした。ここはバランスよく開催できたらいいと思っています」

――RAGEとして、オフライン開催のポイントはどのあたりにあるとお考えですか。

大友「木村さんがおっしゃられたように、シャドウバースでは3か月に1回、ユーザー同士の交流するきっかけとなっていました。もう一つは、“観る楽しさ”を定着させるためにも、OPENREC.tvなどでの配信も見やすくて楽しいんですが、リアルでのGRAND FINALSの観戦体験はすごく大きいと思っています。そこに少しでもライト・ミドルユーザーに足を運んでもらい、『リアルで開催するとこんなに面白いんだ』と思ってほしい。先攻後攻が決まるところ、最初の手札交換をするところから歓声が上がるような体験は、リアルならではです。そういった体験を作りたくて、ずっとオフラインの位置付けを強化してきました」

――RAGE Shadowverse 2022 Autumnではサイドイベントの充実が目立ちます。木村さんから見て、現在のシャドウバースのコミュニティーはどう感じられていますか。

木村「前回は1万人ほど来ていただいたみたいです。以前から一種のお祭り、フェスのようにしたいとは思っていて、サイドイベントを含め、シャドウバースのコンテンツを楽しめる場になればと思っています。コンテンツが増えてきて、少しずつそうしたことができるようになってきたので、以前よりさらに楽しんでもらえているんじゃないかとは思っています。自分でもたまに会場を歩いていますよ。本戦ではなくても、その場で遊べる大会には出ようという人でも楽しめるのが、カードゲームのいいところでもあります。もっとお祭り感があるものをしていきたいとも思っています」

――まもなくRAGE Shadowverse 2022 Autumn GRAND FINALSが開催されます。お2人にイベントの見どころをご紹介いただければと思います。

大友「いつも通り、ファイナリスト8人によってチャンピオンを決めるトーナメントがメインステージで行われます。他にも見るだけじゃなくて楽しめるサイドイベントを用意しております。一つはプロ選手との対戦会です。リアル開催では定期的にやっていたことですが、ファンやユーザーの方にとっては貴重な機会になります。さらにリアルカードゲームであるShadowverse EVOLVEのアンバサダーとの対戦会、4人フライト式トーナメントなどがあります。そして今回は野田クリスタルさん(マヂカルラブリー)開発の『邪道バース』(Nintendo Switch「スーパー野田ゲーWORLD」に収録)の企画も用意しておりますので、大会コンテンツとしてまた違った楽しみ方をしていただければと思います」

木村「新しくシャドウバースのシリーズに入ってきたEVOLVEのブースもありますし、邪道バースは今までにない試みとしてすごいことになるのかなと(笑)。あとは『#マヂカルシャドウバース』の出張配信もあり、かなりエンターテインメント性に富んだGRAND FINALSになると思っています」

木村氏はシャドウバースのさらなるチャレンジに意欲を見せる【写真:ENCOUNT編集部】
木村氏はシャドウバースのさらなるチャレンジに意欲を見せる【写真:ENCOUNT編集部】

シャドウバース競技シーンは「夢を与えられるように継続していきたい」

――最後にシャドウバース、そしてRAGE Shadowverseとしての今後についてお聞きできればと思います。

木村「シャドウバースの競技シーンについては、RAGE ShadowverseやRSPTを通じて、皆さんに夢を与えられるように継続していきたいと思っています。コロナ禍の影響もあって今年は世界大会がありませんが、RAGE Shadowverseの賞金を大幅にアップしたり、招待制大会『Shadowverse Invitational』も開催予定です。ぜひシャドウバースの競技シーンを通じて、新しい体験や感動を提供していきたいと思います。

 シャドウバースの展望としては、これまでアプリを中心にeスポーツ、アニメ、Nintendo Switchなどさまざまな展開をしてきました。リリースからの6年間でいろいろな試行錯誤を経て、デジタルカードゲームの正解と言えるゲームモデルを模索してきましたが、まだハッキリしていません。『こういうのがいいのではないか』と思える部分もあり、だからこそ今後も大きなチャレンジを続けていって、皆さんに面白い体験を提供していきたいですね。また、リアルカードゲームであるEVOLVEの存在によって、ゲームを取り巻く環境も人も、大きく変わってきています。リアルからデジタル、デジタルからリアルの双方向になったことにより変化が生まれますし、どちらからも入れるというのは大きいと思っています」

大友「我々としては、大きく2つの軸があります。まず今年から若干フォーマットを変更したRSPTでは、プロの競技シーンをトップオブトップの、目指したくなる場を作り続けたいと考えています。もう一つは誰でも夢をかなえられる、ワンチャンスをつかみ取れる、3か月に1回の大型大会であるRAGE Shadowverse。この2点は引き続き強化していきたいですね。

 中でも、木村さんからアイデアを頂いて実現した取り組みに、RAGE Audience Voteという投票機能があります。コロナ禍でリアル観戦ができない中、オンラインで面白い視聴体験を提供するために生まれました。ユーザーがターンごとにどちらが有利かを投票し、ゲージが変化していくという新しい楽しさが作り出せたと感じていますし、引き続きオンラインでもライト層からコア層まで楽しんでいただけるような演出・工夫は強化していきたいと思っています」

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