キャンプ人口増加がマナー向上の鍵? 日本単独野営協会が「にわか大歓迎」を掲げるワケ

空前のキャンプブームを背景に、自然の中で誰にも邪魔されず1人でキャンプを楽しむ「ソロキャンプ」がジワジワと広がりを見せている。一方で、キャンプ人口の増加から、ゴミの放置やキャンプ場でのトラブルも度々問題となっている。果たして、ブームでキャンプマナーは悪化したのか。「ソロキャンプの健全な普及」を目指し設立された任意団体、日本単独野営協会の小山仁代表にキャンプブームの現状と協会が目指す未来を聞いた。

日本単独野営協会の小山仁代表【写真:ENCOUNT編集部】
日本単独野営協会の小山仁代表【写真:ENCOUNT編集部】

「ソロキャンプという文化を後世に残したい」と2018年に協会を立ち上げ

 空前のキャンプブームを背景に、自然の中で誰にも邪魔されず1人でキャンプを楽しむ「ソロキャンプ」がジワジワと広がりを見せている。一方で、キャンプ人口の増加から、ゴミの放置やキャンプ場でのトラブルも度々問題となっている。果たして、ブームでキャンプマナーは悪化したのか。「ソロキャンプの健全な普及」を目指し設立された任意団体、日本単独野営協会の小山仁代表にキャンプブームの現状と協会が目指す未来を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 小山氏がキャンプもとい「野営」を始めたのは今から20年ほど前、休む間もない過酷な労働環境の飲食業界に身を置いていた20代のときのこと。あるとき、まとまった休みが手に入り、横浜の自宅にあった50CCのスクーターであてもなく出かけた先で、現在日本単独野営協会が本拠地とする神奈川・愛川町の角田青少年広場にたどりついた。

「自分は生き残ってしまった側。当時いた大手飲食チェーンは本当に過酷で、同僚がうつになったり、過労死したり自殺者が出たりするような環境でした。毎日15時間、ひどいときは20時間勤務で、休みは半年に1回。本部からはとにかく売り上げを上げろとばかりを言われていた。そんな感じだったので、急に休みをもらったときは何もやりたいことが思い浮かばなくて、原付でどこまで行けるかなと出かけた先でここにつきました。川が本当にきれいで、心の底から癒やされる感覚があった。道具も何も持っていなかったんですが、そのまま河原で横になって、それからちょくちょく野営をするようになったんです」

 誰かと連れ立つこともなく、何物にも縛られないキャンプスタイルを満喫していた小山氏が、一転して日本単独野営協会を立ち上げたのは2018年。背景には、つらい境遇にいる人にソロキャンプの魅力を伝えたいという思いと、ソロキャンプという文化を後世に残したい思いがあったという。

「ひと昔前までは頭のおかしい趣味と思われていたソロキャンプですが、中には自分のようにそれで癒やされたり救われたりする人もいる。キャンプの楽しみ方が多様化してきたことはいいことだと思います。一方で、たき火跡をそのまま放置する『たき逃げ』や、ゴミのポイ捨てで野営地が閉鎖されるケースもある。僕1人がゴミ拾いをしたところで、各地の野営地からゴミがなくなるわけじゃない。自分はソロキャンプが好きで、本当は1人の方がいいんですが、フィールドを守り、自分の子や孫の代にもソロキャンプができる環境を残すためには、人を集めるしかなかった」

 最初は1人で地道にゴミ拾いなどの活動を開始し、賛同する仲間が増えるとSNSを駆使して積極的に発信。設立からわずか4年で、会員数は2万2000人にまで急増した。現在は神奈川本部に加え、東京、埼玉、大阪、兵庫、山口に支部を置き、たき逃げ防止の啓発や草刈りなどの野営地の整備、ゴミ拾いなど、キャンプを持続可能に楽しむための活動を続けている。

日本単独野営協会ののぼりを掲げる小山氏の愛車
日本単独野営協会ののぼりを掲げる小山氏の愛車

目指すのは「人が増えれば増えるほどフィールドがきれいになる」という好循環

 空前のキャンプブームで新規参入者、いわゆる「にわかキャンパー」も増えている。キャンプ人口の増加に伴い、マナー問題やトラブルも増えるかと思いきや、小山氏は「にわか大歓迎、キャンプ人口は増えれば増えるほどいい。キャンプ人口を増やすことが、逆にマナー向上につながるんです」と持論を語る。

「我々が目指すのは、人が増えれば増えるほどフィールドがきれいになるという好循環です。ポイ捨てやたき逃げなど、悪いことをする人が世の中に5%いたとして、そういう人に注意することはその場しのぎにしかならず、根本的には無意味。ではポイ捨てを0にするにはどうするかというと、95%の人がポイ捨てしないというスタンダードを作るんです」

 どういうことか。小山氏が例に挙げるのが、昭和の駅のホームでのタバコのマナーだ。

「例えば、僕の地元の横浜駅では、昭和の頃までホームでみんながタバコを吸っていて、灰皿があってもお構いなし、線路内へのポイ捨てもひどかった。でも、今はホームで喫煙する人は誰もいませんよね。それはマナーを注意し続けたからではなく、言ってしまえば“そういう時代”になったから。ポイ捨てはカッコ悪い、トレンドじゃないという時代になったら、5%の悪い人もなかなかできなくなる。だから、キャンプ人口をどんどん増やして、圧倒的多数の新規参入者にマナーを知ってもらうことが、結果的にポイ捨てや焚き逃げをなくすことにつながるんです」

 小山氏が考案した「焚き逃げ」という造語は、メディアでも広く普及し、たき火跡を放置したまま帰ることにうしろめたい印象をつけることにも成功した。日本単独野営協会では、今後も地道な活動でキャンプのマナーやイメージ向上を図っていく。

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