ウクライナ支援に限界、無力感でうつ病に…「もう戦闘しかない」日本人ボランティアの葛藤

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって半年あまり、戦闘は長期化し、いまだ収束の兆しは見えていない。ウクライナ国内では戦闘地域がはっきりと分かれ、安全地域ではすでに日常が戻りつつある。開戦直後からウクライナで支援活動を行ってきた日本人ボランティアの伊藤翔さんは、「物質的な支援はもう必要なく、むしろ過度な支援が逆効果になっている」と現地の状況を語る。今、日本からウクライナのためにできることは何なのか、伊藤さんに聞いた。

開戦直後からウクライナで難民支援を行う日本人ボランティアの伊藤翔さん(左)
開戦直後からウクライナで難民支援を行う日本人ボランティアの伊藤翔さん(左)

「表面的な支援しかできない」という焦りと無力感から、現地でうつ症状を発症

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって半年あまり、戦闘は長期化し、いまだ収束の兆しは見えていない。ウクライナ国内では戦闘地域がはっきりと分かれ、安全地域ではすでに日常が戻りつつある。開戦直後からウクライナで支援活動を行ってきた日本人ボランティアの伊藤翔さんは、「物質的な支援はもう必要なく、むしろ過度な支援が逆効果になっている」と現地の状況を語る。今、日本からウクライナのためにできることは何なのか、伊藤さんに聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 もともと日本で経営者をしていた伊藤さんは昨年10月、黒海を挟んだウクライナの隣国ジョージアに移住。今年2月にロシア軍が侵攻を開始すると、程なくボランティアとしてウクライナに入国し、約5000万円あった自己資金を元手に支援物資の輸送や避難民のサポートなどの活動を行ってきた。この1年で日本に帰国したのは5月に物資調達で訪れた5日間だけ。砲撃音が日常になったウクライナで私財を投じての支援を続けている。

 ウクライナでは現在、安全地域と戦闘地域、ロシア軍による占領地域がはっきりと分かれている。伊藤さんによると、安全地域では世界中から届いた支援物資があふれ、余った物資をめぐり争いが起きたり、それらを売りさばく行為が横行するなど、過度な支援が逆効果になっている現実があるという。「支援してもらう側が施してもらうことが当たり前になっている」「自分たちのやっていることは本当に人のためになっているのか、ダメ人間を増やしているだけなんじゃないか」という葛藤から、一時は伊藤さんも精神を病んでしまったという。

「日々人が死んでいくなかで、表面的な支援しかできない。それも逆効果で、ときにたかられたり、罵声を浴びせられたりする。ウクライナのボランティアメンバーも、日本と比べると時間や約束を守ることやお金の使い方にルーズで、自分が工面した支援のための資金をバンバン使い込んだり……。焦りと無力感から、人生で初めてうつの症状になってしまって、何も喉を通らず、眠ることも、起き上がることもできませんでした」

 これまであまり人に弱みを見せることはなかったという伊藤さんだが、自身の身に危機感を感じ、日本にいる友人に片っ端から連絡を取り、弱音や愚痴、不平不満をぶちまけた。少し心が軽くなると、毎日筋トレや散歩を続け、うつ状態を脱出。今は悩んだ末、現地で人々に役割を与えるための雇用を創出する事業を展開している。

必要なのは安全地域への支援よりも、戦闘によって占領地域を解放すること

 一方で、本当に被害が深刻なのはロシア軍による占領地域だ。半年にわたってウクライナの現実を見てきた伊藤さんは、必要なのは安全地域への支援よりも、戦闘によってひとつでも多くの占領地域を解放することだと訴える。

「侵略された地域を占領しているのは一般のロシア兵で、無政府状態の地域を治められるような立派な人たちではない。戦争のストレスやウクライナ憎しという感情もあって、民間人へのいわれなき虐殺やレイプが盛んに行われています。そして、それを止めるには戦闘で再び村を奪還するしかないという現実がある。日本から支援金を送る人はあくまで人道支援のためで、戦闘には使ってほしくないという人がほとんどだと思いますし、自分もウクライナに来るまでは同じ考えでした。しかし、もうできることは戦闘で村を取り戻すことしかなく、そうしない限り被害は終わらないとも感じています」

 伊藤さんは自らの考えで、事業で得た自己資金からウクライナ軍への寄付を行っているというが、日本から支援する以上、武器や弾薬への寄付には心理的な抵抗が残るのも事実だ。物資の支援が不要という今、日本からできる支援はどんなことがあるのか。

「非常時でお金の流れが見えず、どれだけ有効活用されているかは分かりませんが、それでもウクライナの政府機関にお金を送ることしかないと思います。やっぱり時間が過ぎるとどうしても支援は下火になりますから。人間は飽きっぽいですが、ニュースにならなくなっても支援を続けている日本人は大勢いる。見返りを求めない純粋な善意を感じていて、それはウクライナにいながらもとても誇らしいです」

 現地に行かなければ知ることのできない現実はさまざまあるが、たとえそれがかなわなくとも、助け合うという気持ちが何よりも大切なようだ。

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