バッドボーイズ佐田、少年院を慰問するワケ 高2のときタクシー破壊で逮捕「できることは何でも」
お笑いコンビ「バッドボーイズ」の佐田正樹(44)の著書「佐田のホビー」(KADOKAWA)が5万部を突破した。高校時代は300人を束ねる福岡の暴走族の総長として暴れていたが、少年鑑別所に入ったことが転機となり、お笑い芸人の道を目指した。現在では、複数の少年院や支援団体で慰問や講演を行っている。10代の少年たちをサポートする活動と思いについて聞いた。
高2のときにタクシー破壊で逮捕「やっていないが、総長のケジメとして」
お笑いコンビ「バッドボーイズ」の佐田正樹(44)の著書「佐田のホビー」(KADOKAWA)が5万部を突破した。高校時代は300人を束ねる福岡の暴走族の総長として暴れていたが、少年鑑別所に入ったことが転機となり、お笑い芸人の道を目指した。現在では、複数の少年院や支援団体で慰問や講演を行っている。10代の少年たちをサポートする活動と思いについて聞いた。(取材・文=水沼一夫)
――少年院を慰問するきっかけを教えてください。
「元々、20代のときに1回、慰問をお願いされたことがあって、そのとき『いや、まだ僕早いですよ』と言って断ったんですよ。でも、いつかはやりたいなと思っていて、38のとき、イベントでその話をさせてもらったんです。そしたら法務省から『ぜひちょっとやってみませんか?』みたいなお話をいただいて、2017年に千葉の八街少年院に初めて行かせていただきました」
――講演ではどのようなお話をされたのですか。
「不良になった理由や僕が暴走族を辞めて引退するようになった経緯とか、なぜ芸人になったのかまでの話ですね。八街の少年院の子たちって(私語禁止で)しゃべれないんですよ。質問もできなかった。でも、講演が終わった後に、帽子を下げて体でお礼をする表現を全員がしてくれて、これだけ響いてくれたんだって自分の中で手応えがあったというか、ちゃんと思いが伝わってたんだなと思いました。後日、少年たちから手紙をいただいて、そのときにこれはやる意味があるな、何か求められているなと思ったので、続けたいなって思った感じですかね」
――少年院のほかに支援活動をされています。
「名古屋の保護司さんの集まる会みたいなところで講演会をしたことがあります。少年院から出てきて親がいない子や、身元引受人がいない子、あと仕事先が受け入れてもらえない子とか、そういう子たちを寮みたいな感じで受け入れて仕事を探してあげたり、夜回り先生じゃないけど、最近どうだみたいな感じで子どもたちの話を聞いてあげて更生の道を手助けしている団体ですね。全部ボランティアでやられてる。すごいです。そこで知り合った人たちにいろんな話を聞いて、またさらに何かできることないかなと模索してる最中ですかね」
――ご自身も少年鑑別所に入った経験があります。
「高校2年生のとき、17歳のときに捕まりました。入っていた期間は1か月ちょいですね。大人で言うと拘置所みたいな感じですかね。実刑を受けてないという。裁判が終わるまで待っていました。中身や生活習慣は少年院と変わらないですけど、ちょっと期間が短いという感じですかね」
――なぜ捕まったのですか。
「集団暴走行為のタクシー破壊という罪状なんですけど、誰かがタクシーを破壊したんですよ。僕じゃないんですけど、そのタクシーを破壊したやつが名乗り出ないから(犯人が)分からないです。そのときもうバイクが何百台といたので。そのタクシー会社が訴えて事件になったんですけど、誰が責任取るのって言ったら総長の僕が責任取るしかない。だからタクシー破壊という罪状で僕は逮捕されました」
――実際は佐田さんは破壊していない。
「やっていないです。暴走族ってそうなんですよ。総長がケジメ取る。それも込みで総長になるので。『何かあったときに責任取るのが総長』というのは暴走族全員が分かっているぐらいですから。だから、やりたがらない奴もいますけどね。僕はその覚悟の上で総長をやっていたので、だから、あ、そうだろうなって」
出所して親に「メロンパン買ってくれ」 少年鑑別所の生活とは
――暴対法の使用者責任のようなものですね。
「本当そうですよね。お前がこの走りを行ったからメンバーが調子乗ってこうやってやったんだろう、お前がこの走りを主催しなければこの事件は起きてなかった、そもそもっていう。だから主催者(の扱い)ですよね」
――少年院には行かなかったです。
「母親が弁護士をつけてくれて。弁護士のおかげか分からないですけどね。あと親には全部話していたから、親が『ちゃんとこの子の面倒を見ます』『更生もしっかりさせます』という願いのもと、出させてもらったってことですかね。少年院行かずに」
――出所したときの気持ちは。
「最後は鑑別所から裁判所に行って、審判が行われて、帰れるか少年院に行くかが決まるんですけど、決定が出て、そのまま家に帰りました。とりあえず、甘いものが食べたかったので『メロンパン買ってくれ』と言って、メロンパンを買ってもらった記憶がありますね。チョコレートとか、甘いものばかり食べていました。鑑別所の中で糖分を取れないので。甘いものがないんですよ。糖分、塩分を欲していましたね」
――このときの経験はその後の人生にどう生きましたか。
「結局、そこで母親を泣かしてしまったので、笑かさなきゃいけないなというので芸人になったところはありますね」
――犯罪を犯す子どもは家庭環境に恵まれない子も多いです。
「やっぱり言葉だけじゃ分からない子というか、家庭環境が複雑な子もいっぱいいるので、普通にこうすればこの子は更生するだろうということでもなくて、だからこそ社会問題になっていると思います。あたり前に両親がいる中じゃなく孤児院などで暮らしている子たちもいるわけで。まずそこの気持ちを共感してあげて、またさらに更生の道へ進めなきゃいけないっていうのはやっぱり難しいというか、簡単な覚悟では引き受けられないというのはあります」
――佐田さんの向き合い方とは。
「僕は頭ごなしに味方をするわけでもないです。俺なんて俺なんてって一方的に言う子どもには怒ります。それで、そういう気持ちの子たちもいるんだよっていうことを、大人に伝えていきます。例えばもう悪いことしないと言って外に出ても、結局友達たちの前では子どもはいい格好したいんですよ。『お前もうやんないの、びびってんの』と言われたら『びびってねえよ』ってやっちゃうんですよ。
大人に『またあなたは…』と言われても、『いやいや、こっちの気持ちなんか分からないよ。びびってるって言われたら仲間外れにされるんだよ』となります。その気持ちをいちいち親に伝えないじゃないすか。だから『うるせえ!』って言っちゃうんです。でも、親からしたら『もうこの子はだめだ』となって、そこからもう見捨てられていく。そこの見捨てるか見捨てないかの違いによって、向き合えるか向き合えないかによって、子どもたちの更生も変わってくると思う」
増える暴力行為 通報した親に子どもの叫び「なんで自分を警察に…」
――福岡少年院からは感謝状を贈られています。
「福岡少年院は、3か月以内の入ったばかりの子たちに一方的に僕がしゃべる会と、もうまもなく出所しますという子たちと円になって話し合いをする会があるんですよ。出所する子どもは質問もできます。でも、やっぱり不安がっていましたね。就職先は決まっているんですけど、もし自分が少年院に入っていたことで、会社の人に知られてしまって、クビになったときに、もしかしたらまた暴力を振るってしまうんじゃないかとか、そういう不安があると。最近の子たちって傷害や窃盗詐欺が一番多いですよ。暴走行為はなくて、暴力系が多い。親に暴力を振ってしまうと、親が警察を呼ぶ。それが子どもからしたら信じられなくて『なんで自分を警察に売るんだ』という感覚になるらしいです。だから、また再犯しちゃう。自分の家庭環境ではこんなことはなかったのでなかなか理解できませんが、複雑な問題だなと思います」
――佐田さんは家庭環境は良かった?
「家庭環境は良かったです。全部母親に話していました。暴走族に入ったことも言いますし、特攻服を見せて『お母さんこれ見て』と言って」
――今後の慰問活動について。
「求められたら全然。何でもできることは、力を貸しますという感じですかね。自分の経験談をお話したときに、少年たちの目にすごく熱いものを感じました。話を聞けるなら聞いてあげて、応えてあげたい。それがどの場なのかは分からないんですけど、ちょっとずつ話していきたいなと思っています」
□佐田正樹(さた・まさき)1978年9月13日、福岡県生まれ。97年、清人とお笑いコンビの「バッドボーイズ」を結成。ツッコミを担当する。自伝的小説「デメキン」が、映画化やコミカライズされる。YouTubeチャンネル「SATAbuilder’s」の登録者数は82万人。「佐田のホビー」では趣味の車やバイク、DIYなどこだわりやマニアックな一面を紹介。佐田は第2弾の執筆にも意欲を示している。