名プロデューサーが明かす川崎鷹也の歌声のすごさ「歌の良さは技術ではない」

シンガーソングライターの川崎鷹也が、自身初となるカバーEP「白」を完成させた。作詞家の松本隆氏をはじめ、音楽関係者が口をそろえて絶賛する彼の歌声が楽しめる全5曲。美空ひばり、エレファントカシマシ、竹内まりや、HY、玉置浩二など日本を代表するアーティストの、楽曲を見事に歌い上げた。そこで今回は川崎に加えてプロデュースを担当した武部聡志氏にも参加してもらい、シンガーとしての川崎鷹也の魅力や色あせない王道のポップスについて語ってもらった。

カバーEP『白』を完成させた川崎鷹也とプロデューサーの武部聡志氏【写真:山口比佐夫】
カバーEP『白』を完成させた川崎鷹也とプロデューサーの武部聡志氏【写真:山口比佐夫】

川崎鷹也が武部聡志と作り上げた名曲カバー

 シンガーソングライターの川崎鷹也が、自身初となるカバーEP「白」を完成させた。作詞家の松本隆氏をはじめ、音楽関係者が口をそろえて絶賛する彼の歌声が楽しめる全5曲。美空ひばり、エレファントカシマシ、竹内まりや、HY、玉置浩二など日本を代表するアーティストの、楽曲を見事に歌い上げた。そこで今回は川崎に加えてプロデュースを担当した武部聡志氏にも参加してもらい、シンガーとしての川崎鷹也の魅力や色あせない王道のポップスについて語ってもらった。(取材・文=福嶋剛)

――最初におふたりが出会ったのは?

武部(聡志)「川崎くんと最初に会ったのは去年のテレビ収録だったよね?」

川崎「はい。メジャーデビューして間もない頃でした。今まで弾き語りでずっとやってきたので誰かと一緒に音を合わせるという耐性がなくて。いきなり武部さんとご一緒することになり『いったいどうなるんだろう?』って初めは予想がつきませんでした」

武部「僕はそこで川崎くんを知って最初に弾き語りの曲を聴いたんだけど、すごくセッションしやすい曲だなって思いました。今までさまざまな人とセッションしてきたけれど、実際に合わせてみると曲の持つ世界観に入りやすいものとそうじゃないものってやっぱりあるんです。でも川崎くんの楽曲はまるで水が流れるようにスムーズに景色が変わっていって、そこに導かれるように演奏できましたね」

川崎「うれしいです。僕はミュージシャンのみなさんと一緒にセッションを通して最高の音楽を作りたいって、ただそれだけでした」

武部「川崎くんのそういう『音楽を通してみんなと楽しく交わりたい』という素直な思いが伝わってきて僕たちも同じような気持ちになりました。川崎くんの作品はちゃんとポップスの大事なところを抑えた作り方をしているし、ポップスの王道というか、日本のポップスのDNAみたいなものを感じました。(松本)隆さんや亀田(誠治)くんも評価していたけれど、僕たちは決して上から目線ではなく、素直に次の世代にバトンを渡す相手に出会ったって、そう思いました。加えて初対面で感じたのはダントツに良い奴そうだった(笑)」

川崎「アハハハ(笑)。本当に良い奴かどうかは別として」

武部「もう1つ伝えたいのは、その番組でセッションした人たちの中でも川崎くんはダントツに歌が素晴らしかった。よくみなさん歌が上手いとか下手という表現をするでしょ。僕は歌というのは、『人の心を震わせることができるかどうか』、『相手に届くかどうか』これが大事だと思っていて、ピッチが良いとかビブラートが美しいといったテクニカルなものより、その人の持っている『声の波動』という根源的なもので聴く人の心を揺らせるかどうか、そこだと思っています。

 たとえば川崎くんがもっとも尊敬する玉置(浩二)、彼と僕はこれまで何度も一緒にやってきたけど、彼が生き様を背負って歌っているその姿や歌声にたくさんの人の心を揺らす大きな波動があるんです。川崎くんは玉置よりキャリアは浅いけれど、今まで経験してきたさまざまな思いをまっすぐ歌に乗せている。その波動というのは実は演奏している僕たちにも伝わってくるんです。きっとリスナーにも同じように伝わってくると思います。やっぱり歌って“人となり”が出るんですよ。……ちょっと褒めすぎたかな?」

一同「(笑)」

――そして今回川崎さんにとっては初となるカバー作品集『白』を武部さんとのタッグで完成させました。なぜカバー作品を作ろうと思ったのでしょう?

川崎「僕は18歳から音楽活動を始めてこれまでいろんな人たちとの出会いのおかげで今の自分があるんです。そんな僕にとっての大切な人たちとの想い出をつなぐ歌を、その人たちへの感謝も込めて届けたいと思ったのがきっかけでした。」

――武部さんと一緒に作ろうと思った理由は?

川崎「もともとシンガーになりたくて東京に出てきたので、今回はギターを置いてシンガーとしての川崎鷹也を見てほしいと思いました。僕はアレンジはできないので、このEPにはアレンジャーの方が必要だな? と考えたとき、ピアノアレンジがたつアレンジが先行してイメージにあって。僕にとっての大切な人との思い出の楽曲なので、知らない方ではなくて、僕にとっても大切な存在の方がいいなって思ったら、昨年お会いしてから僕が大好きな武部さん以外に考えられないと思い、ダメ元でオファーさせていただきました」

武部「大変光栄でしたよ。後輩から『一緒に音楽を作りませんか』って言われたんですから。とてもうれしかったですし、自分が持てる力をすべて注ぎ込んでやろうって思いました」

――そこでどの曲をカバーするのか「選曲会」が開かれたとお聞きしました。

川崎「はい。まずは僕の思い出の曲を候補曲としてリストアップして武部さんにお会いしました」

武部「それでレコード会社の会議室にキーボードを置いて音を出しながら、『これが良いね』とか『このキーだと出だしはこんな感じでどう?』とかああだこうだ言いながら決めていきましたね」

川崎「僕は今まで弾き語りで、1人で作ってきたので、誰かと一緒にああだこうだと言いながら音楽を作るのが初めてでした。まるで音楽好きが友達の家に集まって、ワイワイと好きな音楽の話をしながら過ごすようなそんな時間で、とにかく制作期間は楽しかった。それを武部さんと一緒にできるなんて本当に夢のような楽しいとしか言いようのない時間でしたね」

武部「だいぶ年の離れた部活の先輩と新入生みたいな感じだったね(笑)」

武部聡志(左)は川崎鷹也に「真正面から受け止めてパフォーマンスしてくれて良かった」と賛辞を送った【写真:山口比佐夫】
武部聡志(左)は川崎鷹也に「真正面から受け止めてパフォーマンスしてくれて良かった」と賛辞を送った【写真:山口比佐夫】

ポップスというのは誰かに伝わってこそポップスなんです

――武部さんはそういった時間を松任谷由実さんや筒美京平さんといった方々と一緒に過ごしてきたんですね?

武部「そうです。『この曲はこういうアレンジにしてみたら面白いね』とか『これなら完成図が見えるね』とか、昔からずっと変わらずそういうスタンスでやってきました。僕の経験上、やっぱりゴールが見えない曲を無理やりアレンジしても結果として良いものができないんです。だからパッとひらめいたインスピレーションだったり、これは川崎くんの声に合うぞといった仕上がりが予想できる形、これはもう僕の直感でしかないんですが、そういうのを演奏しながら一緒にアレンジを組み立てていくんです」

――そんな共同作業を経て、美空ひばりさんの「愛燦燦」や竹内まりやさんの「元気を出して」、そして玉置浩二さんの「メロディー」といった日本のポップスを代表する5曲のカバーソングが完成しました。

川崎「あらためて僕が目指したい音楽って今回カバーさせていただいたような5曲なんだなって実感しました。いつかこういう楽曲を自分も作りたい、そういうお手本のような5曲を歌わせていただき本当にうれしかったです。そして武部さんと一緒に作品を作れて本当に幸せでした。心から感謝しています」

武部「まず単純にこれだけ親子以上に年齢が離れている2人が一緒に音楽を奏でて作品を作るっていうことは、やっぱり音楽の持つ一番素晴らしいところだなと思いますし、今回カバーした名曲の数々は川崎くんにとってももちろん日本のポップス界にとっても重要な意味を持つ楽曲ですから、僕は本当にこういうものを真正面から受け止めてパフォーマンスしてくれて良かったなって思います」

――ずばり武部さんの信じるポップスとは何でしょう?

武部「ポップスというのは独りよがりじゃ駄目なんです。誰かに伝わってこそポップスなんです。もちろん普遍性も大事ですし時代性も大事です。だけど人に伝わらなかったらまったく意味がない。そういった意味で川崎くんには、誰かに伝えたいという強い意志を感じるんです。やっぱり彼はポップスのアーティストなんですよ」

――最後におふたりのオフの日の過ごし方を教えてください。

武部「僕は自転車です。足から老いるっていうじゃないですか。だから健康維持のためでもあるし、集中して走っているから仕事のことを忘れられるんですよ。この前、息子と“しまなみ海道”を40キロぐらい走りましたよ」

川崎「僕は……実は趣味が何もないんです(笑)。それが問題で、とにかく1人じゃ駄目なんですよ。家族だったりうちのチームがいないと1人で休みをもらってもやることがないです。先日も2日間ぐらい休みをもらったんですが、ただボーっとして寝ているだけ。あとは水槽の魚をジーっと見てました。やばいですよね(笑)。

 ただ、非常に遅いスタートなんですが、時々妻とサウナに行きます。始めは全然興味がなかったんですけど、サウナが好きのスタッフに連れて行ってもらったらなかなか良くて。でもハマったのは僕の妻の方でした(笑)」

□川崎鷹也(かわさき・たかや)1995年、栃木県生まれのシンガー・ソングライター。2020年8月、TikTokで「魔法の絨毯」が人気となり同曲を使った動画が2万7000本以上アップされ、トータルの再生回数は約3億回再生中。総ストリーミング回数も現在1億回を超え、日本レコード協会から「プラチナ認定」を授与。21年12月メジャーオリジナルアルバム「カレンダー」をリリース。22年9月14日カバーEP「白」をリリース。

□武部聡志(たけべ・さとし)作・編曲家、音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時より、キーボーディスト、アレンジャーとして数多くのアーティストを手掛ける。1983年より松任谷由実コンサートツアーの音楽監督を担当。一青窈、今井美樹、ゆず、平井堅、JUJU等のプロデュース、CX系ドラマ「BEACH BOYS」「西遊記」etcの音楽担当、CX系「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」の音楽監督、スタジオジブリ作品「コクリコ坂から」の音楽担当等、多岐にわたり活躍している。ラジオ「武部聡志の SESSIONS」(JFN)放送中。

川崎鷹也
○公式HP
https://kawasaki-takaya.com/

○YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCZwXiIKBc9ok5QsOqXk5kiw

武部聡志
「武部聡志の SESSIONS」HP
https://audee.jp/program/show/27084

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