伝説のバイク復活させた“修理の神様”  途切れない依頼、引き受けるたった1つの条件

貴重バイクの“修理の神様”のもとに集まる愛好家グループがある。名車カワサキW1から名前を取ったオーナーズクラブ「クラブロク・ゴー・マル」だ。かつて、伝説のオートバイ「陸王」のレストアで知られ、カワサキWシリーズのすべてを知り尽くす整備士・森誠さん(71)が顧問を務める。森さんの整備工場は、W1シリーズの在庫ストック、リプロダクトで「ない部品がない」ことが自慢だ。森さんの足跡と共に、情熱と絆で結ばれるクラブロク・ゴー・マルに迫った。

バイク修理の「主治医」として知られる森誠さん。サイドカー付きの旧車ハーレーは圧巻だ【写真:ENCOUNT編集部】
バイク修理の「主治医」として知られる森誠さん。サイドカー付きの旧車ハーレーは圧巻だ【写真:ENCOUNT編集部】

名車カワサキW1から取った「クラブロク・ゴー・マル」 常時350~400点用意で「ない部品がない」

 貴重バイクの“修理の神様”のもとに集まる愛好家グループがある。名車カワサキW1から名前を取ったオーナーズクラブ「クラブロク・ゴー・マル」だ。かつて、伝説のオートバイ「陸王」のレストアで知られ、カワサキWシリーズのすべてを知り尽くす整備士・森誠さん(71)が顧問を務める。森さんの整備工場は、W1シリーズの在庫ストック、リプロダクトで「ない部品がない」ことが自慢だ。森さんの足跡と共に、情熱と絆で結ばれるクラブロク・ゴー・マルに迫った。(取材・文=吉原知也)

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 埼玉県八潮市の「松原自動車株式会社」内にある「モリヒデオートサービス」。クラブロク・ゴー・マルの拠点だ。森さんは1966年に森さんの兄が創業した松原自動車に、70年から入社。19歳から自動車とバイクの整備の道に進み、75年頃からW1シリーズの修理を扱うように。「国産ハーレー」と呼ばれた陸王のレストアで、数々のメディアで取り上げられ、「主治医」「名ドクター」との呼び名が付いた。W1の修理・整備でも全国のファンから慕われ、過去には全国規模を誇ったW1オーナーズクラブの相談役も務めた。サイドカー付きの旧車ハーレー(ULH 1340CC)など愛車コレクションを数多く持っている。

 そんな“生きるレジェンド”の森さんは「俺ももう年だから、いま15台ぐらい修理依頼のW1が残っているんだけど、あと2、3年で本当に終わらせないといけないんだよ。まあそう言って10年になるんだけどさ」。豪快に笑ってみせた。

 クラブロク・ゴー・マルはもともとあった前述の大規模なオーナーズクラブの流れを継いでおり、今年2022年1月に正式発足。新規クラブでありながら、昔からの顔なじみの会員も多い。フェイスブックの登録者は全国に約270人で、松原自動車に普段集まるメンバーは約30人。W1の元祖タイプなど11台の旧車バイクを所有し、このほどダットサン・フェアレディを手に入れたという会長の武山清志(せいし)さん(61)は「W1のオーナーズクラブではありますが、1970年前後の旧車バイク好きが多いです。例えばヤマハXS650やBMW650、トライアンフ650のオーナーも会員にいますし、50CCから1000CCまで、バイクの愛好家が集まっています。みんなでツーリングやミーティングを楽しんだり、故障の際の情報共有をしています」と説明する。これまでキャンプツーリングも実施。日本最大規模のW1愛好会が開催する箱根・十国峠でのイベントに参加したり、栃木県那須烏山市で行われた「メグロK3」看板設置の除幕式に出席するなど、活動実績を重ねている。

「クラブロク・ゴー・マル」のメンバーたちは情熱と絆で結ばれる【写真:ENCOUNT編集部】
「クラブロク・ゴー・マル」のメンバーたちは情熱と絆で結ばれる【写真:ENCOUNT編集部】

「業者さんでさえ分からないことも分かる」

 オーナーズクラブのよさは、義理人情にもあるという。自慢の愛車を長年乗っていた先輩が高齢になって大型バイクを引退する。愛車を降りる時、「このバイクはお前だから譲る」と後輩に引き継ぐ。武山会長のコレクションの中にも、そうやって先輩から譲り受けた大事なバイクがあるという。

 クラブの最大の魅力であり、中心であるのが、森さん。この道50年超の技術力と知識だ。W1シリーズの正規品のストックに加え、もうメーカーが作っていないもので森さんがリプロダクトで制作した部品を常時350~400点用意している。日本全国のオーナーにとって部品の供給源になっており、まさに、頼みの綱でもある。武山会長は「バイクがちょっと不調を起こしたら、ウチで分からないことはない。業者さんでさえ分からないことも分かるし、もう扱ってない部品もあるんです。どんな部品もあるから、W1には安心してずっと乗れるんですよ。森さんは熱血漢だから、直接、修理について聞きに来ると、2時間かけて説明してくれますよ」。

 そう、この森さんの“熱血指導”も大きな特徴だ。森さんは「最近はメンバーに覚えてもらっているんだよ。なるべくメンバーが自分で直せるようになってほしくてさ。例えば、ポイント(点火時期)調整の時に、まず俺が見せてやって、次はメンバーにやってもらう。少しずつ覚えてもらうんだ。もちろん肝心なところは俺がやってあげるんだ。W1はエンジンだけでも70から80基をバラしてきた。いくらでも部品は出せる。それに、遠方のメンバーのところになかなか行けないことも多いから、遠くに住むメンバーのために、近くにいる修理ができるメンバーを紹介することもしているんだ」と話す。自身の生まれ年と同じ73年式のカワサキ650RS(W3)に乗るメンバーの橋本隆司さん(49)は「僕自身、高校生の時に買ったバイク雑誌で森さんが取り上げた記事を読んで、その存在を知っていました。今ではクラブの後輩たちから森さんは『伝道師』とも呼ばれているんですよ」と教えてくれた。

 もう1つ、森さんのこだわりがある。それは「適正価格」だ。関係者によると、バイクの旧車修理は手数料などで「青天井」のケースがあるという。そんな中でも、森さんの整備工場では、W1の手の込んだ修理でも時間工賃を7000円ぐらいで請け負う。「いくら古いものだからといっても手間賃はそんなに多く取らない。ただ、1つだけ条件をお願いしていて、期限がいつまでと決まっているものは預からない。急がないからと十何年も預かっている人もいるんだけど、そこはこちらのペースに任せてもらえれば。ちゃんと直しますから」と森さん。取材時には、バイク大好きのメンバーたちが森さんの“技術指導”をうれしそうに受ける姿があった。修理依頼が途切れないのは、やはり、森さんの人情の厚さと確かな職人技があってこそだろう。

次のページへ (2/2) 【写真】「クラブロク・ゴー・マル」の豪快ショット
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