和楽器バンドはなぜバズったのか ボカロがつないだ人と音楽、メンバーが語る“魅力”

和楽器とロックバンドを融合させた8人組「和楽器バンド」がデビューアルバム以来となるボカロナンバーのカバーアルバム「ボカロ三昧2」を完成させた。先行配信した「フォニイ」のカバーはYouTubeに公開されると1か月で1000万再生を突破し、国内外のファンから絶賛コメントが多数寄せられている。今回はバンドを代表して、鈴華ゆう子(ボーカル)、蜷川べに(津軽三味線)、黒流(和太鼓)、町屋(ギター・ボーカル)、山葵(ドラム)の5人にバンド結成のきっかけとなったデビューアルバム「ボカロ三昧」から振り返ってもらった。

インタビューに応じた和楽器バンドのメンバー (左から)山葵(ドラム)、蜷川べに(津軽三味線)、鈴華ゆう子(ボーカル)、町屋(ギター・ボーカル)、黒流(和太鼓)【写真:山口比佐夫】
インタビューに応じた和楽器バンドのメンバー (左から)山葵(ドラム)、蜷川べに(津軽三味線)、鈴華ゆう子(ボーカル)、町屋(ギター・ボーカル)、黒流(和太鼓)【写真:山口比佐夫】

こんなに長く続けていけるとは思っていなかった

 和楽器とロックバンドを融合させた8人組「和楽器バンド」がデビューアルバム以来となるボカロナンバーのカバーアルバム「ボカロ三昧2」を完成させた。先行配信した「フォニイ」のカバーはYouTubeに公開されると1か月で1000万再生を突破し、国内外のファンから絶賛コメントが多数寄せられている。今回はバンドを代表して、鈴華ゆう子(ボーカル)、蜷川べに(津軽三味線)、黒流(和太鼓)、町屋(ギター・ボーカル)、山葵(ドラム)の5人にバンド結成のきっかけとなったデビューアルバム「ボカロ三昧」から振り返ってもらった。(取材・文=福嶋剛)

 和楽器バンドとボカロの関係は、バンドを結成した9年前までさかのぼる。ニコニコ動画の祭典で「ミスニコ生2011」に選ばれるなど動画配信でも人気を博していた詩吟の師範・鈴華ゆう子が、当時流行っていたボーカロイド(=ボカロ)楽曲を「歌ってみた」、「演奏してみた」という動画を見た時に思い付いたアイデアがきっかけだった。

鈴華ゆう子「やっぱりみんなと同じ再現動画を作っても意味がないので、バンド演奏でボカロ曲を再現したいと思い付いたんです。そこでこれまでイベントで出会ってきたメンバーに声をかけて、集まった8人で動画を作ってみたら再生回数が伸びて、次もやってみようと重ねていくうちにレコード会社さんから声をかけていただきました。結成からデビューまではあっという間でした」

 伝統楽器の家系に育ち、3歳から和太鼓を始めるなど、幼い頃から演奏家として活躍する黒流(くろな)は「ももいろクローバーZ」や東京ディズニーランドの和太鼓振付をする傍ら、和楽器を取り入れた自身のロックバンドでも活動を行っていた。またボカロにも精通していたこともあり、鈴華は黒流に声をかけた。

鈴華「さまざまな経験を積んでいた黒流さんに『和楽器を取り入れた新しいバンドというのはどうですか?』と相談させてもらい、『ドラムと和太鼓のバトルなんかも取り入れるのは?』といったいろいろな発想につながって一緒にやっていくことになりました」

 超絶テクニックを誇るドラムの山葵(わさび)とはニコニコ動画のイベントで一緒になったことがきっかけだった。

山葵「それまでは和楽器と一緒に演奏したことはなかったですし、とにかく僕は面白そうなことをやりたい人間なんです。動画の編集も得意なので和楽器バンドの一番初めの動画は僕が編集させてもらっていたんですよ」

 もともとニコニコ動画でも人気を博し、スタジオミュージシャンとしても活躍していた町屋は初期のメンバーの中では最後の参加となった。きっかけは2012年のイベントでの共演だった。

鈴華「共演した時に華があって、ニコニコ動画でも人気があって、一緒に参加してもらえたらうれしいなと思い声をかけました」

町屋「当時はスタジオミュージシャンのほかにバンドを6つぐらい掛け持ちしていたんですが和楽器と一緒に演奏できる機会はなかなかないので、とても興味深くて2つ返事でOKしました」

 黒流と同じく、4歳の頃から京都で民謡と三味線をやっていた蜷川べには、新たな刺激を求めて20歳で上京。しかし苦労の連続でしばらく楽器にさえ触れられない時期もあったという。そんな中、関係者の紹介で鈴華と出会った。

蜷川「音楽はこのままやれないのかなと思っていた時期もありましたが、『こんなバンドがあるよ』と紹介してもらい三味線奏者として参加させてもらったんです。でも当時はこんなに長く続けていくとは思っていませんでした」

 蜷川のコメントにある通り、和楽器バンドはもしかすると最初のプロジェクトで終わっていた可能性があったのでは? 鈴華に聞くと「そうかもしれませんが、なぜか絶対的な自信がありました」と答えた。

鈴華「声を掛けたメンバーはそれぞれ人気奏者ですし、今までにないバンド形態なので1回成功すればまた一緒にやろうとなってくれるんじゃないかという思いがありました。ただ当時はバンドを続けていくという発想よりもこのメンバーで録音した動画を1つ1つ公開していこうという思いでやっていました。そうしていくうちに注目していただき、最終的にアルバムを出すところにつながっていきました」

出たとこ勝負だった「ボカロ三昧」を超える最高傑作「ボカロ三昧2」

 2014年、鈴華をはじめとする和楽器と洋楽器の“すご腕”ミュージシャン8人は「和楽器バンド」と改名し、結成からの集大成となるメジャーデビューアルバム「ボカロ三昧」をリリース。現在までに1億5000万超の再生数を誇る彼らの代表ナンバー「千本桜」をはじめ、想像を遥かに超える演奏で国内外のファンの心をつかんだ。和楽器バンドのアレンジなどサウンドのかじ取りを担う町屋は当時を振り返った。

町屋「実は『ボカロ三昧』の時って僕はいっさいアレンジに関わっていなくて、メンバーそれぞれのアドリブで録音したものを順番に重ねていったものが作品になっているんです」

黒流「最初は山葵と僕の2人でリズムパートを作っていったんです。それを元に現場で話し合いながらみんなで録っていきました」

蜷川「出たとこ勝負だったんです。たとえば『千本桜』は最初にリズムパートの録音が終わっていて、そこに『好きな演奏を入れてください』という感じだったので、リズムを聴きながらレコーディングしていったんです」

町屋「最初の頃はみんなの個性をぶつけ合って手探りで作っていったんですが、3枚目のアルバム『四季彩-shikisai-』(2017年)あたりから僕が編曲とディレクションの役割を担うようになり、バンド全体の統一性を考える上で最初から最後まで見るようになりました。人数の多い編成なので、それぞれの音を美しく仕上げていくためのアレンジや我々の和楽器と洋楽器の融合サウンドを現代のサウンドにどういうふうに落とし込んでいったら良いのかということをアルバムの枚数を重ねるごとに考えてきたんですが、今回の『ボカロ三昧2』は、満を持してこれまでやってきたことを実践できたと思っています」

黒流「まっちー(町屋)に担当してもらってからは8人の音の立ち位置や役割が明確になってきたので、それぞれが存在感を出せる音が作れるようになったことが大きいですね」

町屋「やはり『ボカロ三昧』がヒットしたのでその期待を裏切らないように2作目を作らなくてはいけないという意識はすごく強かったです。作曲者さんやオリジナルのファン、そして僕たち和楽器バンドのファン、全員が聴いて納得のいく作品作りというのを目指して、1曲1曲丁寧に作ろうと心がけて取り組んだアルバムです。今年に入ってからはずっとこの制作に掛かり切りで、自分が今までため込んだ知識を全部使い切って作ったといっても過言でありません。それだけ全員で向き合って完成させました」

 最後にほかのカバー作品と違う、ボカロナンバーをカバーする魅力について聞いた。

町屋「ボカロナンバーは人間が演奏したり歌唱したりするものとは違い、基本的にデスクトップミュージック内で完結する音楽が中心になっているので、テンポが速くてキーも高く、また早口だったりといった特殊な楽曲が非常に多いんです。それを生で演奏するとなると割と超絶技巧になるんですが、さらに僕たちは和楽器を取り入れたバンド形式ですべて生演奏で再現する。それこそが和楽器バンドの魅力であり、バンドのアイデンティティーになっています。そういった意味で今回の『ボカロ三昧2』は前作『ボカロ三昧』を超えるハイレベルなクオリティーで完成できたと思っています」

□和楽器バンド 詩吟、和楽器とロックバンドを融合させた新感覚ロックエンタテインメントバンド。2014年4月にアルバム「ボカロ三昧」でデビュー。15年に発売したセカンドアルバム「八奏絵巻」はオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、第57回「輝く! 日本レコード大賞 企画賞」を受賞。16年、デビュー1年9か月にして初の日本武道館公演を開催。海外においては北米単独ツアーを開催しワールドワイドに展開。18年には5thアルバム「オトノエ」が第60回「輝く! 日本レコード大賞 アルバム賞」を受賞。20年2月、大阪城ホールで行われたオーケストラとの共演ライブである「Premium Symphonic Night Vol.2」で、グラミー受賞アーティストEVANESCENCEのAmy Leeと共演し、ワールドクラスのパフォーマンスを披露。22年8月17日「ボカロ三昧2」をリリース。8月27日より全国ツアー「和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会」を開催。

和楽器バンド公式HP:
https://wagakkiband.com/

公式YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/c/wagakkiband

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