アウトロー系隆盛の格闘界、盛り上がりの一方で課題も 西島洋介「まともにもらっちゃうので危ない」

日本の格闘界が今、変革のときを迎えている。朝倉未来がスペシャルアドバイザーを務める格闘技イベント「BreakingDown」を筆頭に、アウトロー系同士の戦いが脚光を浴び、配信でも順調な売り上げを記録している。未来自身もYouTubeとの連動で驚異的な年収を手にする。一攫千金の格闘ドリームを実現しようと、ニューカマーが続々と名乗りを挙げる潮流を生み出す一方で、強さを追求する格闘家の本質は揺らいでいるとの指摘もある。プロはこの流れをどのように見ているのか。ボクシングの元WBF世界クルーザー級王者で格闘家の西島洋介(49)に聞いた。

現在の格闘界を語った西島洋介【写真:ENCOUNT編集部】
現在の格闘界を語った西島洋介【写真:ENCOUNT編集部】

BreakingDownの魅力は「見せ方がうまい」

 日本の格闘界が今、変革のときを迎えている。朝倉未来がスペシャルアドバイザーを務める格闘技イベント「BreakingDown」を筆頭に、アウトロー系同士の戦いが脚光を浴び、配信でも順調な売り上げを記録している。未来自身もYouTubeとの連動で驚異的な年収を手にする。一攫千金の格闘ドリームを実現しようと、ニューカマーが続々と名乗りを挙げる潮流を生み出す一方で、強さを追求する格闘家の本質は揺らいでいるとの指摘もある。プロはこの流れをどのように見ているのか。ボクシングの元WBF世界クルーザー級王者で格闘家の西島洋介(49)に聞いた。

 アウトローや不良、半グレ、喧嘩師……BreakingDownではおなじみの光景だ。試合だけでなく、殺伐とした雰囲気のオーディションも視聴者には人気が高い。回を重ねるごとに話題を呼び、今や個性豊かなファイターが全国から集まる。

 日本の格闘界は総合のRIZINや立ち技のK-1が引っ張ってきた。そこにアウトロー系が存在感を増し、3つどもえの様相となっている。BreakingDownのほかにも、プロモーター不明の地下格闘技や富裕層向けのシークレットイベントが注目を集めるなど、格闘界の図式は急速に変わりつつある。いずれも、会場は大きくなくても、しっかりと利益を確保できるという狙いがある。

 根底にあるのは、配信ビジネスだ。観客から入場料を取り、スポンサーで稼ぐという従来のビジネルモデルはコロナ禍の3年で大きくシフトチェンジした。パソコンやスマホがあれば誰でも気軽に試合を見ることができ、主催者側もそこまで経費をかけずに、利益を得られるメリットがある。地上波放送ほど制約がない中で、面白いコンテンツ作りがファンの獲得につながっている。配信中心の取り組みは、RIZINも「LANDMARK」で行っている。

 賛否両論もある中で、西島にBreakingDownの印象を聞くと、「技術は確かにPRIDEとかに比べれば全然下だと思うんですけど、一方で盛り上がりはすごいじゃないですか。だから選手にとってはありがたいですよね」と語った。

 成功の理由として挙げたのが、プロモーションのうまさだ。「戦うまでのストーリーをみんな紹介しているじゃないですか。それが面白いですよね。感情移入しちゃいます。そういう見せ方がうまいので、どうしてもみんな見ちゃいますね」。ちなみに格闘技かどうかという問いには、「BreakingDownってプロじゃないんですよね。けんかでもないですけど。一応、格闘技になるんじゃないですか。少しでもルールがあるので」と答えた。

 主催者は配信料収入で潤い、選手にとってもギャラがはずめば格好の舞台になる。注目を浴びることで、知名度も上げることができる。「だからありがたいですよね」と西島は繰り返した。生活のためであったり、戦略的にBreakingDownを選ぶ選手がいることも承知している。すべてが“最強”になるために上がっているわけではない。勝っても負けても“目立ったもん勝ち”の側面があることは確かだ。一つの人生のジャンプアップのために、利用している選手も多い。

 一方で、盛り上がりの中で危惧していることもある。「けが人が出ないように気をつけないとダメですよね。やっぱりディフェンスとかできないじゃないですか。まともにもらっちゃうので危ないですよね」。BreakingDownの場合は、1分間という超短期決戦だけに何より攻撃力が重視される。そのため、多少の被弾は覚悟で突っ込んでいく。主催者側は細心の注意を払うが、もともと防御力を磨いていない選手もおり、大けがにつながる可能性を指摘した。

9か月ぶりの復帰戦へ臨戦態勢【写真:ENCOUNT編集部】
9か月ぶりの復帰戦へ臨戦態勢【写真:ENCOUNT編集部】

格闘家と素人のあいまいな線引き 安全性の担保は?

 地下格闘技も含めて、出場資格があいまいな興行も多くなった。どこまでが格闘家で、どこまでが素人かの線引きもグレーゾーンだ。素人感が魅力の一部となっているものの、未来のようなトップ選手と対峙(たいじ)すると、安全性が担保されているのかどうか、イベントとはいえ、プロと拳を合わせていいのかという疑問もわく。

「本当だったら格闘家はプロになるための資格、ライセンスがないとダメなんですよね。ボクシングはあるじゃないですか。キックもありますよね」と西島は語る。そして、「そのうちBreakingDownも変わるんじゃないですか。結構プロも入ってきているので。ちゃんとルールを作って、大きくなると思うんですよね」と続け、今後はルール整備が一層進むとの見方を示した。

 THE OUTSIDERから成り上がり、YouTubeで年収が約30億円と公言した未来の背中に憧れる若者は多い。時代は確実に変化している。「格闘技とYouTubeと合わせてですよね。それはすごくいいじゃないですか。みんなやりたがる。メジャーリーグと同じで」

 2000年代はPRIDEやK-1がメジャーリーグだった。選手は強くなるために血のにじむような努力を続けた。それだけの価値もあった。今、純粋に強さを追求しようと思っている日本の格闘家はどこを目指せばいいのか。西島はRIZINなどを挙げつつ、「UFCは最高峰。そこを目指すのもすごくいいです」と米国挑戦を勧めた。

 いずれにせよ、多様性が重視される令和の時代で、選手や視聴者の選択も広がりを見せている。どこを選ぶかは自由だ。

 西島自身は24日のチャクリキ愛媛大会で、ICO認定インターコンチネンタルヘビー級王者・入田和樹に挑戦する。昨年12月以来、リングに上がる。「入田選手とは1回だけお手合わせした。やっぱり強いんですよね。そういう強い選手と戦えることが光栄で刺激を受けています」と参戦の意義を語り、対戦を待ちわびた。

□西島洋介(にしじま・ようすけ)1973年5月15日、東京都出身。92年、「西島洋介山」のリングネームでプロデビュー。日本唯一のヘビー級ボクサーとして脚光を浴びる。東洋太平洋クルーザー級王座、WBF世界クルーザー級王座を獲得。2003年に引退し、総合格闘技に転向。PRIDE、K-1に参戦した。現在は千葉・松戸に「スポーツバーAN」を経営する傍ら、多くの格闘家にボクシングを指導している。180センチ、95キロ。

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