世界の名作全集、“話し言葉っぽい”新訳が賛否両論 編集部に意図を聞いた
小学館創立100周年記念企画「小学館世界J文学館」(11月22日発売予定)の新訳が、ネット上で賛否両論を呼んでいる。全125冊もの文学作品を電子書籍化、新しい世代に文学全集をより身近に感じてもらうため、新訳では従来の古典的な文体から現代の口語風に翻訳を行っているが、中には「旧訳のほうがよかった」との声も……。大胆な新訳に込めた思いとはどういったものなのか。編集部に聞いた。
小学館が創立100周年を記念して出版 今の時代にふさわしい形の名作全集
小学館創立100周年記念企画「小学館世界J文学館」(11月22日発売予定)の新訳が、ネット上で賛否両論を呼んでいる。全125冊もの文学作品を電子書籍化、新しい世代に文学全集をより身近に感じてもらうため、新訳では従来の古典的な文体から現代の口語風に翻訳を行っているが、中には「旧訳のほうがよかった」との声も……。大胆な新訳に込めた思いとはどういったものなのか。編集部に聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
「小学館世界J文学館」は、小学館の創立100周年を記念して出版される今の時代にふさわしい形の名作全集。紙の書籍は図鑑感覚の名作ガイドとなっており、イラストやあらすじなどが載った「作品紹介ページ」からダイレクトに電子書籍の本文にアクセスすることができる。「赤毛のアン」や「宝島」など永遠の名作から「魔女の宅急便」など現代の名作まで、世界中から全125冊を幅広く収録。日本初上陸の作品もたくさん詰まった、夢の名作全集となっている。
「現代の子どもたちが読みやすいように言葉のリズムを大切にした新しい翻訳」として公開された例文では、「若草物語」から、四姉妹の次女ジョーのせりふを引用。1972年の「ワイドカラー版 少年少女世界の名作」では「だって、おとうさんは、いま、いらっしゃらないじゃないの。それに、いつお帰りになるかも、わからない。」とされていた箇所が、「お父さんはいま、いないじゃん。しかもしばらく会えそうにないし」とより現代の口語に近い形に翻訳されている。
この新訳をめぐり、ネット上では「ウウーーー買おうと思ったけどこれは…趣味じゃないこういう新訳……」「書かれた時代を考えると、旧訳のほうがふさわしいような気がします」「メインターゲットたる今の子どもたちに訴求できればいいと思う」「今を生きている人にとっては、新訳のほうが魅力的に思える」と賛否両論。時代背景や世界観にそぐわないという声も多い。
賛否両論の新訳は「際立って分かりやすい発言を例文として提出」
同書を担当した小学館第二児童学習局の塚原伸郎プロデューサーは、「弊社にとって子ども向け作品の出版は社業の中心。名作全集も相当な回数出版してきましたが、近年は図書館の充実もあり出版頻度が少なくなってきておりました。自宅に本棚のない家庭も増えていて、机に向かってじっくりというよりは塾の行き帰りや電車の中で読書を楽しむ時代、一人にひとつ“小さな図書館”が作れないかなと」と企画の主旨を説明。
新訳について寄せられた読者の声については「反響が大きく驚きました。これほど文体に関心の高い方が多く、皆さん作品に思い入れがあるのが伝わり、単純にうれしく思います」と語りつつ、否定的な声については「こちらの提示の仕方も悪かった。『若草物語』のジョーは男勝りな性格の女の子で、ざっくばらんな口調の持ち主。際立って分かりやすい発言を例文として提出しましたが、この一文だけでなく、広く全体を通して判断していただけたら」と説明する。
昭和時代に刊行された「若草物語」は現在電子書籍として販売中で、読者が選択できる形になっているとした上で「翻訳小説は、文体が変わることによって、また別の作品として楽しむことができます。親しみやすい現代の話し言葉で本の世界に入り込みたい読者のために、選択肢を増やしていきたいと新訳に踏み切りました」と新訳版の意義を語った。
この他、ルビの有無の変更や文字サイズの拡縮、音声読み上げ機能など、電子書籍ならではの機能も充実しており、視覚障がい者や日本語学習中の外国人にも手に取りやすいつくりとなっている「小学館世界J文学館」。「これ1冊で125冊の作品が楽しめる。本が好きでもなかなか買えないお子さんや、これまで本好きじゃなかった方にも手に取っていただけたら」。現代風によみがえった名作は、子どもたちの心にどのような響きを残すだろうか。