【クローズアップ現代】人工妊娠中絶を特集「苦しむ女性減らすために」 日本の実情、課題が浮き彫り

NHK「クローズアップ現代」(毎週月~水曜、午後7時30分)が7日の放送で、人工妊娠中絶をテーマに放送する。日本では人工妊娠中絶をする条件として、結婚している場合などは女性本人だけでなく「配偶者」の同意が必要だ。だが、未婚など本来なら不要なはずの場合も、この同意をめぐり女性の体に危険が及ぶケースがあるという。番組では医療現場に対する調査を行うなどしてさまざまな課題を浮き彫りにする。報道局社会番組部の板垣淑子チーフ・プロデューサーに番組が目指していることを取材した。

「クローズアップ現代」の番組ロゴ【写真:(C)NHK】
「クローズアップ現代」の番組ロゴ【写真:(C)NHK】

中絶手術の実態を調査、難しい判断を迫られる医師たちの姿も

 NHK「クローズアップ現代」(毎週月~水曜、午後7時30分)が7日の放送で、人工妊娠中絶をテーマに放送する。日本では人工妊娠中絶をする条件として、結婚している場合などは女性本人だけでなく「配偶者」の同意が必要だ。だが、未婚など本来なら不要なはずの場合も、この同意をめぐり女性の体に危険が及ぶケースがあるという。番組では医療現場に対する調査を行うなどしてさまざまな課題を浮き彫りにする。報道局社会番組部の板垣淑子チーフ・プロデューサーに番組が目指していることを取材した。

 番組で扱うきっかけになったのは米国の人工妊娠中絶をめぐる裁判。米国では女性の権利として広く認められてきた人工妊娠中絶だが、2022年、性的暴行を受けて妊娠したオハイオ州の10歳の女の子は中絶を認めている隣の州まで行かざるを得なかった。理由は6月24日に、アメリカの連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた女性の権利だ」とする49年前の判断を覆したため。中絶を規制するかどうかは、憲法上の問題ではなく、それぞれの州の判断に委ねられる形となった。アメリカでは混乱が広がり、女性の体を巡る重大な自己決定に大きな負担を強いられる実態が見えてきたという。

 そこで日本の実情にも目を向け、板垣氏はNHK内のプロジェクトチームと専門家と共同で調査をしたという。そこであがってきたキーワードが「配偶者同意」。日本では、母体保護法で中絶手術ができる条件として「配偶者の同意を得て行う」とされているが、厚生労働省によると、女性が結婚していない場合や結婚していても夫からDVを受けているなど婚姻関係が実質破綻し、同意を得ることが難しい場合は、相手の同意は不要とされている。

 この配偶者同意について医療現場ではどのように対応しているのか。NHKは人工妊娠中絶を行っている医療機関に勤務経験がある産婦人科の医師274人に対し、中絶手術の実態を調査。難しい判断を迫られる医師たちの姿がみえてきたという。

 配偶者がいない「未婚者」の人工妊娠中絶手術の際、同意についてどう対応するかを聞いたところ、「どのような状況でも相手の男性(胎児の父)の同意を求めない」と答えたのは5.1%で、32.5%は「どのような状況でも同意を求める」と答え、医師が法的に必要ない男性の同意を求めていることが分かったという。また、62.4%は「状況により同意を求めないこともある」と答えた医師がおり、実際にはさらに多くの医師が同意を求めている可能性があるとした。

 板垣氏は「未婚の女性や性暴力にあったりと、同意が不要な場合も同意を取らざるを得ないと答える医師が非常に高い割合でいます。女性たちが追い詰められた立場にあり、そうした経験をした女性にも苦しい胸の内をカメラに前で明かしてもらっています。こうしたことを通じて重大な妊娠、出産、中絶という人生を左右しかねない大きな局面でも体の問題の自己決定権が女性にないということをしっかり訴えていきたい」と語った。

 調査では、相手の男性(胎児の父)の同意を「どのような状況でも求める」「状況により求めないこともある」と答えた医師に、その理由を複数回答で聞いたところ、母体保護法を「そのように解釈しているため」が最も多く70.8%、次いで「訴訟のリスクを避けるため」が42.7%、「そのように教わったため」が13.5%などとなっていたという。

 日本産婦人科医会の石渡勇会長は、NHKの取材に対し「DVや性犯罪に巻き込まれて妊娠した場合、同意は必要ないというのが医会の考えだ。未婚の場合も、事実婚を除き、相手の同意をとる必要は全くないと考えている」と話し、不要な同意を求めるべきではないという考えを示したという。そして、中絶を行う資格のある産婦人科の医師を対象にした研修会などで法律の適切な解釈を周知していくとしている。

 NHKはこの問題に詳しい上谷さくら弁護士を取材。上谷さくら弁護士は「本来不要な相手の同意を求められることで、女性が中絶の時期を逸するなど母体への負担が大きくなる危険性がある」と述べ、医師側が認識を改める必要があると指摘したという。

 板垣氏は「女性が体の自己決定権を持つことの大切さをあらためて伝えていきたい」とした上で、「配偶者同意を求められ、手術してくれる病院を探している間に時間がたち、母体への危険が高まり、費用も高額になるほか、女性本人が望まないまま出産に至った例を見聞きしています。配偶者同意が不要だと国も厚労省も認めている部分についても安全な手術につながっていかないのは問題。深刻だととらえています」と語った。さらに「苦しむ女性を減らすために」と番組の目指す役割を語った。

次のページへ (2/2) 【画像】人工妊娠中絶の同意書
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