「北方領土問題」をやわらかく発信 SNSで話題の「エリカちゃん」、“中の人”を直撃

長らく日本の政治・外交の課題となり解決が求められる「北方領土問題」で、SNS上では、北方領土のイメージキャラクター「エリカちゃん」の存在がにわかに注目を浴びている。公式ツイッターの運用が始まって9年の“ほぼ10年選手”で、フォロワーは9.6万人。繊細で難しいテーマでありながらも、北方領土に関する事柄や返還への全国的な取り組みについて、「ッピ」「ピィ」の独特な語尾を使った投稿でやわらかく伝え、愛くるしいキャラクター性を押し出している。「独立行政法人 北方領土問題対策協会(北対協=ほくたいきょう)」に、ギャップが印象的なキャラの運営方針や“中の人”の努力について聞いた。

北方領土のイメージキャラクター「エリカちゃん」(左)と「エリオくん」【写真:ENCOUNT編集部】
北方領土のイメージキャラクター「エリカちゃん」(左)と「エリオくん」【写真:ENCOUNT編集部】

「ッピ」「ピィ」独特な語尾がキュート 約10年ツイッター運用の「北方領土問題対策協会」に聞いた

 長らく日本の政治・外交の課題となり解決が求められる「北方領土問題」で、SNS上では、北方領土のイメージキャラクター「エリカちゃん」の存在がにわかに注目を浴びている。公式ツイッターの運用が始まって9年の“ほぼ10年選手”で、フォロワーは9.6万人。繊細で難しいテーマでありながらも、北方領土に関する事柄や返還への全国的な取り組みについて、「ッピ」「ピィ」の独特な語尾を使った投稿でやわらかく伝え、愛くるしいキャラクター性を押し出している。「独立行政法人 北方領土問題対策協会(北対協=ほくたいきょう)」に、ギャップが印象的なキャラの運営方針や“中の人”の努力について聞いた。(取材・文=吉原知也)

 北方領土問題とは何か。同協会の公式サイトによると、「第2次世界大戦終戦時にソ連軍が我が国の領土である北方四島(歯舞群島=はぼまいぐんとう、色丹島=しこたんとう、国後島=くなしりとう=及び択捉島=えとろふとう)に侵攻し、現在に至るまでロシアが法的根拠なく占拠し続けていることです。北方領土の歴史を見ると、北方四島が日本の領土であることは明確です。そして戦後元島民等の願いから始まった返還要求運動の歩みは、日本国民の悲願として大きく広がっています」と説明している。

 北方領土の周辺に生息する絶滅危惧種の海鳥「エトピリカ」がモデルのエリカちゃん。女の子で、悩み事は「ペンギンに間違えられること」の設定だ。かわいらしい雰囲気を醸し出すが、ツイッターでは、例えばソ連による対日参戦の日として知られる8月9日には「今日、8月9日は何の日か知っているッピ? 77年前にソ連は『日ソ中立条約』を無視して対日参戦した日だッピ。その後、日本固有の領土である北方四島を不法占拠したんだピ。みんなどう思うッピ?」とユーザーに呼びかける形で、歴史的事実を改めて周知する投稿を行っている。他にも、都道府県単位での啓発イベントの活動報告を紹介するなどしている。

「北方領土問題は、領土・主権に関わる日本全体の問題です。かわいいキャラを通して、より多くの人たちに北方領土問題に関心を持ってもらうきっかけになればと考えており、親しみを前面に押し出すことを心がけています。エリカちゃんは日頃から、『北方領土LOVE』と発信しています。私達も同様に、返還への一途な思い、一生懸命に伝える姿を大事に、ぶれない姿勢をモットーに取り組んでいます」。同協会の担当者が熱い思いを説明してくれた。

 2008年度に内閣府が発信するコンテンツとしてキャラが誕生。「北方領土に関する正しい知識を分かりやすく伝えたい」と、13年にツイッターとフェイスブックのSNS運用を開始。その後、それぞれの島に住んでいる設定の友達キャラが登場した。2020年には、エリカちゃんのボーイフレンドである「エリオくん」のツイッター(フォロワー4.4万人)がスタートし、北方領土の隣接地域や道東地域の魅力も紹介。エリカちゃんのインスタグラムでは北方四島の壮観な景色や自然美を写真で“魅せて”いる。実物としては、エリカちゃんとエリオくんの着ぐるみ2体が活動。北海道根室市では、原動機付自転車などのご当地ナンバープレートにエリカちゃんなどのデザインが採用されている。

エリカちゃんのツイッターは2013年から運用がスタート【写真:ENCOUNT編集部】
エリカちゃんのツイッターは2013年から運用がスタート【写真:ENCOUNT編集部】

戦前に北方四島で暮らしていた1万7291人の元島民の思いに「寄り添うことを大事に」

 そもそもこの独特な語尾にはどんな由来があるのか。当初から知っている担当者によると、「ひな鳥の鳴き声のようにかわいらしい、というイメージで、『ピィ』という言葉・音に決まりました」と明かす。ちなみに、エリオくんは「だぜ」「ピピィ」の語尾が特徴だ。

“中の人”については「子どもたちには『いません』とお伝えしているのですが、若手職員を中心に真剣に考えながら取り組んでいます」。SNS投稿の工夫はポップな雰囲気で伝えることに加え、「文字数の制限がある中で、どうしても説明が長くなってしまいがちですが、ポイントを絞って伝えることを意識しています。それに、全国47都道府県にある北方領土返還のため活動を行っている都道府県民会議のイベントの際は、県民会議の協力を得ながら、非売品のマスコットの写真を添えて報告しています。全国運動の継続にもしっかりつながっていると考えています」。ネット上の反響だけでなく、子どもたちからは特に着ぐるみが人気だといい、「愛らしいキャラのイメージ浸透については手応えを感じています。また、ネットのコメントを見ていると、北方領土問題を取り扱うこととキャラクターのギャップに『衝撃を覚えた』という趣旨の書き込みをしてくださる方もいました」とのことだ。

 決して忘れてはいけない、大切なことがあるという。戦前に北方四島で暮らしていた1万7291人の元島民のことだ。担当者は「終戦後の引き揚げの際に、樺太(現サハリン)のソ連の収容所に連れて行かれた方々がいます。劣悪かつ過酷な環境で筆舌に尽くしがたい体験をされ、お年寄りや幼い子どもの中には亡くなった方もいると聞いています。ふるさとを奪われた元島民の方々の思いに寄り添うことを大事にしています。そして、元島民の方々の体験についてもより多くの人にどう伝えていくのか。よくよく考えながらSNS投稿に臨んでいます」と強調する。

 今年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻で、世界情勢が大きく変化。日露関係のニュースや言論がこれまで以上に取り上げられている。「日露関係に関する事柄のメディア露出が増えてきていますが、返還に対する思いや姿勢は一切変わりません。国際情勢に一喜一憂することなく、腰を据えて、粘り強く、活動を推進していく。まさに、ぶれないスタンスだと考えています」と担当者。エリカちゃんやエリオくんの今後の展開について同協会は「若い人への発信を意識したネットやSNSの活用だけでなく、パンフレット制作やイベントなどで積極的に登場させていきたいです。声援が活動の糧になっておりますので、引き続き応援をいただければありがたいです」としている。

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