あおり運転の証拠動画、ネット公開に問題は? プライバシー侵害や名誉毀損の可能性を弁護士に聞いた
あおり運転や危険運転が社会問題化する中で、SNSでは危険な走り方をする車両について、一般ドライバーによる写真や動画の報告が日常的にアップされている。ドライブレコーダーの映像を中心に、車両や運転者を撮影したものだ。ナンバープレートがそのまま見られる状態が多く、運転者の顔が分かるようなものもある。危険性を広く伝えることは重要だが、“晒し”行為になる可能性、そして法的な問題点はあるのか。日本とニューヨーク州の弁護士資格を持ち「樋口国際法律事務所」の代表弁護士を務める樋口一磨弁護士に聞いた。
あおり運転は「妨害運転罪」で取り締まりが強化 スマホ「ながら運転」は違法行為
あおり運転や危険運転が社会問題化する中で、SNSでは危険な走り方をする車両について、一般ドライバーによる写真や動画の報告が日常的にアップされている。ドライブレコーダーの映像を中心に、車両や運転者を撮影したものだ。ナンバープレートがそのまま見られる状態が多く、運転者の顔が分かるようなものもある。危険性を広く伝えることは重要だが、“晒し”行為になる可能性、そして法的な問題点はあるのか。日本とニューヨーク州の弁護士資格を持ち「樋口国際法律事務所」の代表弁護士を務める樋口一磨弁護士に聞いた。
ツイッターの検索欄で、「危険運転」と打ってみると、数多くの事例報告の投稿が出てくる。ハッシュタグで「#危険運転」「#あおり運転」「#ドラレコ」などを添え、状況説明や投稿者の感想がつづられている。
危険運転とあおり運転は法的に罰せられ、社会的に許容される行為ではない。あおり運転については、2020年6月に「妨害運転罪」が創設された。警察庁の公式サイトでは、「警察では、他の車両等の通行を妨害する目的で行われる悪質・危険な運転に対して、妨害運転罪や危険運転致死傷罪(妨害目的運転)等のあらゆる法令を駆使して、厳正な捜査を徹底する」と記載。さらに、「妨害運転等の悪質・危険な運転を未然に防止するため、車間距離不保持、進路変更禁止違反、急ブレーキ禁止違反等の道路交通法違反について、積極的な交通指導取締りを推進しています」と、取り締まりの強化について説明している。
やってはいけない運転ではあるが、ナンバープレートや運転者の顔、車体の全景を捉えた動画・写真がネットで拡散して残り続けることは、身元特定にもつながりかねず、懸念を感じることも確かだ。SNS投稿を巡る事後のトラブルは避けたいところだ。
樋口弁護士によると、端的な見解は「本当に危ない運転であれば基本的には問題ない」ということだ。今回のようなSNS投稿を検討する場合、刑事・民事両面で名誉毀損(きそん)、民事でプライバシーの侵害という法律的な2つのポイントが出てくるという。
名誉毀損については、「投稿内容が真実でない場合、または公益性やその目的がない場合は、名誉毀損が成立する可能性が出てきます。逆に言えば、一般的に『危ないな』と思われる運転であり、『この危ない運転をみんなに知らせたい』という目的で投稿していれば、基本的に問題はないです。実際に警察が動画を見て、捜査の端緒となり、公益に役立つこともあります。ただ、運転が危険かどうかは評価の問題を伴うため、ここは注意が必要です」と解説する。
プライバシー侵害に関しては、道路での撮影は「公共の場」であることが重要視されるという。「公衆道路にてナンバープレートや車体、運転者の顔が映り込んだとしても、撮影場所が公共の場であり誰にでも見られることが想定されるので、通常はプライバシー侵害にはならないと考えられます」と指摘する。
それでは、モラルの観点からはどうか。樋口弁護士は「あくまで個人的な意見ですが、動画や写真をアップする行為の公益性の程度によるでしょう。運転の悪質性や危険性が高ければ高いほど、これは危ないというものであればあるほど、載せることの公益性が高まります。例えば、スマホの『ながら運転』は明らかに違法行為で、あおり運転も犯罪になりました。違法行為や犯罪現場の動画や写真をアップして広く伝えるという行為なので、それ自体がモラル的にとがめられることは基本的にはないと考えます。もちろん、メディアで報じる場合は、撮影対象の年齢など配慮するべき点はあります」と語った。
ただ、アップする際の注意点はある。樋口弁護士によれば、「相手に対する嫌がらせ、例えば『こいつ嫌いだから危険運転をしていると拡散してやろう』というような動機はダメです。名誉毀損に当たる可能性が生じます。また、自分の感覚のみで危険運転だと投稿しても、実際には普通に走っていて危険と言えない場合は、問題が生じる場合があります」とのことだ。やはり、自分の投稿に正当性があるのか、どのような影響を及ぼすことなのかを、アップ前に冷静に考えることが大事だ。撮影対象者とトラブルを起こさないための配慮も求められる。樋口弁護士は「SNS投稿全般に言えることですが、相手にマイナスとなる内容をアップする場合は慎重に行うべきで、ちょっと腹が立ったからと軽い気持ちでアップするようなことは避けた方がいいでしょう」としている。