若き日のアントニオ猪木すら元気にさせた 夏に思い出す「にんじん」の“すべらない話”
今年の夏も暑い。亜熱帯のような連日の酷暑に、夏バテしている方も多いのではないだろうか。古くから夏バテには鰻。他にも夏の季語にもなっている甘酒が「飲む点滴」で栄養満点とか。あるいは焼肉、にんにくでスタミナをつけるなど、人それぞれだが、意外なことに「にんじん」のパワーはすごいという。
柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.108】
今年の夏も暑い。亜熱帯のような連日の酷暑に、夏バテしている方も多いのではないだろうか。
古くから夏バテには鰻。他にも夏の季語にもなっている甘酒が「飲む点滴」で栄養満点とか。あるいは焼肉、にんにくでスタミナをつけるなど、人それぞれだが、意外なことに「にんじん」のパワーはすごいという。
以前、アントニオ猪木と同席した時のこと。食べ物の好き嫌いの話となり「にんじんが苦手」と言い出す人がいた。「母ににんじんも食べなきゃダメでしょと、よく怒られた。にんじんも食べないと強くなれないよ、って。目をつぶってエイッと口に放り込んだものです」という告白を聞いた猪木が語りだした。
若き日の猪木が、アメリカ修行中の話。ギャラも安く、ホテル代や移動費も自分持ちだったので、手元にはお金がなかった。なけなしのお金をかき集めても、レストランに入るほどの額はない。でもお腹がすいて眠れない。
仕方なく、スーパーマーケットに行って物色したところ、その日の特売はにんじんだった。日本のひと袋とは量が違う。大きな袋いっぱい、山ほどのにんじんを抱えてホテルに帰り、フロントでジューサーを借り、部屋でにんじんジュースにして飲んだという。何杯も何杯も飲み、何とかお腹がふくれた。これで眠れると思ったそうだ。
ところが、今度は元気になりすぎて目がさえてしまったという。にんじんしか摂取していないのに、次の日の試合でも大暴れしたそうだ。「元気があれば、にんじんも食べられる」ではなく「にんじんを食べたから元気になった」と、にんじんに関しては逆だったわけだ。
にんじん嫌いの子供も多い。にんじんを食べるように、母親から「お馬さんを見てごらん。あんなに大きなお馬さんが、あんなに早く走れるのはにんじんが大好物だからなんだよ」と言われた人も多いだろう。馬は走る、猪木は元気になる……恐るべし、にんじんパワー。これはもう「迷わず食べろよ」である。
実は意外なことにプロレスラーでも野菜嫌いは多い。あるレスラー夫人は料理方法に工夫をしているそうだ。にんじんとシーチキンなどツナ缶をめんつゆで煮たり、千切りにしてふじっこ佃煮昆布であえたり、カレー粉やオイスターソースで炒めたり、ピクルスやぬか漬けにしたりと、手を変え品を変えるという。そのレスラーはふじっこ佃煮昆布あえが気に入り、野菜をよく食べるようになったそうだ。
好き嫌いするプロレスファンの子どもに「にんじんを食べないと、プロレスラーみたいに強くなれないよ!」と言ってみようか。それで好き嫌いが直れば、それこそ「闘魂パワー」だろう。
猪木は「好き嫌いはない」と胸を張っていた。実際、日本各地どころか世界中の地のモノ、旬のモノを食べ歩き、まさに食通。闘病中の現在も、猪木の回復を願う人たちから、様々な名物が届くようだ。にんじんパワー、そしてうまいモノパワーを注入して、一日も早い完全回復を待っている。(文中敬称略)