旧車シリーズが「中高年にヒット」、じわり人気ペーパークラフトが“化ける”可能性…現役作家に聞いた
精緻な“クルマのペーパークラフト”が話題を集める亘理(わたり)知之さんは、3Dプリンターを駆使した文房具、イラストまで手掛ける「何でもアリ」のクリエーターだ。自動車外装部品の元開発者で、自動車・バイクマニアでもある達人に、日本の自動車文化、新型コロナウイルス禍でじわり人気の、自分で組み立てられるペーパークラフトの現状を聞いた。
ハチロク・スープラを1/24、1/32のスケールで再現可能 VTuberやドクターヘリのオファーも
精緻な“クルマのペーパークラフト”が話題を集める亘理(わたり)知之さんは、3Dプリンターを駆使した文房具、イラストまで手掛ける「何でもアリ」のクリエーターだ。自動車外装部品の元開発者で、自動車・バイクマニアでもある達人に、日本の自動車文化、新型コロナウイルス禍でじわり人気の、自分で組み立てられるペーパークラフトの現状を聞いた。(取材・文=吉原知也)
クルマのペーパークラフトは大小合わせて年間100台ほど制作しています。個人の方でも、車体カラーなどリクエストにお応えして作りますよ。ペーパークラフトだと、レイアウト用の小物の工具やツールも紙で作ります。立体的なキャラクターやVTuberも。ドクターヘリのオファーを受けたこともありました。3Dデータ設計のスキルもあるので、3Dプリンターを導入しました。樹脂やアクリル板を材料にした、和柄デザインのテープカッターや文鎮の文房具です。文字通り、何でもやりますよ。
6畳1間の工房には、厚紙を切断するためのレーザーカッターや3Dプリンター、資料にPC、それに作品など、モノであふれています。どこに何があるか、探すのに苦労しています(笑)。
自動車業界の現状についてですか? 若い人がクルマを買わなくなっていることが大きいのかなと思います。それこそ70年代、80年代の若者は、やんちゃな車にいっぱい乗って、改造してはぶっ壊してまた改造して、を繰り返していましたよね。「クルマを持ってないと彼女できないぞ」みたいな雰囲気もあったと思います。それが、今の若い人たちにとっては、クルマは単なる移動手段という認識になっているような気がしています。道具としてしか扱わないという風習になっちゃっているのではないかと。
60年代、70年代、80年代のクルマには、いろいろな形があって、いろいろな思想のもとで作られていて、良きにしろ悪きにしろ、多様性があって、何より面白い。僕ら世代にとっては懐かしい。実は若い当時に欲しかったけど買えなくて、今はお金に余裕が出てきたので買える。それで旧車ブームにつながっているのではないかと思います。ただ、いまの若い人でも、その面白さに興味を示してくれている人たちもいます。そういった側面は確実にあると感じています。
職人としての意義「いかに作りやすく加工・設計して提供できるか」
日産のハコスカ、ブルーバード、トヨタ・2000GTなんて高騰化して買えませんよね。購入できても、メンテナンスも大変ですが。80、90年代の僕の世代なんかは、三菱ランサーターボ、日産スカイラインGTR-R32、スバル・インプレッサ、トヨタ・セリカも印象深いです。
ペーパークラフト業界に話を戻すと、例えば旧車を例にとると、ただでさえ高騰化しているのに実車を持つとなれば、車体を作り直したり、塗装を全部やり直したり、ちょっとやるだけで200万円とかかかってしまうわけです。それが、自分で組み立てて楽しむペーパークラフトだと、ハチロクやスープラが1/24、1/32のスケールで、15~20センチのちょうどいいサイズでリーズナブルに手元に置くことができます。ネットのダウンロード形式で旧車シリーズを出すと、中高年にヒットするらしいんです。コロナ禍でも、家の中で、自分で作って色などのアレンジを加えて楽しめる。やりたい放題の自由さ。そこが意外と皆さんに浸透してきているのではないかと感じています。
30代、40代の方にとっては、親子で会話をしながら楽しめます。それに、ハサミの切り方やのりの付け方といった工作の初期段階の作業を、お子さんが遊びながら学ぶこともできます。家にあるマイカーの色に塗ることだってできます。紙なので扱いやすく、世代を超えて楽しめる。ペーパークラフトには大きな可能性があると思っています。
ただ、ペーパークラフトには3つの工程があります。きれいに切って、ちゃんと折り曲げて形を作り、丁寧にのりを付けて組み立てる。要するに、手先の器用さ、ちょっとしたコツが必要です。そこは僕らがどれだけうまく作れるように設計するか。いかに作りやすく加工・設計して提供できるか。そこに力を注いでいきたいです。
僕の愛車遍歴ですか? 工房の機械にお金をかけすぎて…。普通なんです。いまは業務にも便利な中古の国産SUVに乗っています。スポーツタイプのアルファロメオ・ミトは唯一の外車でした。バイクは大学時代にたくさん乗っていて、愛車スズキ・カタナを乗っていましたが、友人のホンダ・CBやヤマハ・セロー、FZR、カワサキ・ゼファーなどを借りて乗りました。欲しいクルマはたくさんあって、昔のミニクーパー、フォルクスワーゲンのタイプ2、スポーツカーだと、マツダRX-7ですね。むしろ、ロータリーエンジンのクルマだったら、何でもいいです。
□亘理知之(わたり・ともゆき)、1970年、さいたま市出身。工房「W2STUDIO」を経営。カーメンテナンス雑誌「オートメカニック」(内外出版社)の表紙/付録を担当している。ミニカー収集も趣味。
仕事の依頼はw2studio@w2studio.jp