一家で岩手移住の天津・木村 葛藤あった“まな娘の反対”と安堵した「転向初日」
お笑いコンビ「天津」の木村卓寛は現在、岩手に移住し、芸人として充実した第2の人生を歩んでいる。兵庫県出身の木村が、なぜ縁もゆかりもない岩手に移住することになったのか、移住から1年後の今はどんな日々を過ごしているのか。芸人としての再起をかけた一世一代の決断の裏側を聞いた。
番組をきっかけに昨年4月から縁もゆかりもなかった岩手に移住
お笑いコンビ「天津」の木村卓寛は現在、岩手に移住し、芸人として充実した第2の人生を歩んでいる。兵庫県出身の木村が、なぜ縁もゆかりもない岩手に移住することになったのか、移住から1年後の今はどんな日々を過ごしているのか。芸人としての再起をかけた一世一代の決断の裏側を聞いた。(取材・構成=佐藤佑輔)
岩手への移住を決めたのは、岩手朝日テレビの毎週土曜の朝の新番組でMCのお話をいただいたのがきっかけです。週1回なので、最初は東京から通いでやろうと思ってたんですが、当時専属ドライバーをやらせていただいてたヒロミさんに話したら「お前、生放送でMCなんてすごいことだぞ! 向こうがどれだけの覚悟でお前に任せるかわかるか? 通いでその覚悟に応えられるのか? 俺の運転手なんてとっとと辞めて、岩手でスターになってこい!」とゲキを飛ばされて。
当時は仕事もなくて、「10年後の自分はどうなってんねやろ、芸人なのか、まだドライバーやってんのか……」という漠然とした不安があった。そんなときだったので、ヒロミさんの言葉でハッとして「僕、引っ越します!」とその場で移住を決めました。先方は「岩手に引っ越して、本腰を入れて取り組みます! よろしくお願いします!」って報告したら「え、週1回だよ? ちょっと考え直したら?」って若干引いてましたけど(笑)。
僕を起用しようとなった経緯は、吉本の『住みます芸人』っていう地域密着型プロジェクトがあって、2018年に『東北住みます芸人』ライブを岩手でやったとき、たまたま僕がMCやったんですよ。それを見た方がすごく良かったとプレゼンしてくれたみたいで。一方で『なんでよりによってエロ詩吟なんですか!』と結構な反対もあったらしいですけど……。MCは『他人のSEXで生きてる人々』ってネット番組をずっとやってましたけど、朝の地上波番組は初めて。みんなでわちゃわちゃしてる感じですけど、エロいこと言わんでも行けんねや! って幅が広がった感じはありますね。
「友達と会えなくなるのは嫌だ」悩んだ娘2人からの反対
家族には移住を決めた日の夜に相談しました。娘は当時まだ小学4年生と2年生だし、単身赴任かなと思ってたんですが、妻からは『家族なんだから、離れて暮らすのは違うんじゃないの?』と言われて。ただ、娘からは『友達と会えなくなるのは嫌だ』とはっきり言われましたね。そりゃそうだよなと思いつつ、少しずつ時間をかけて理解を得てもらって、家族は4か月遅れの昨年8月に引っ越してきました。転向初日に学校から帰ってきて『これからさっき友達になった子と遊んでくるね』と言われたときはホッとしました。
岩手のことはほとんど何も知らずに来たんですが、今では一言では言い表せないくらい、いろんな魅力があります。食べ物だとホヤとか、しどけとか、じゃじゃ麺とか、この歳になって初めて食べるものがまだまだたくさんあって。ウニにしたって、ミョウバンが入ってない本当に採れたての味なんですよ。今はキャンプブームですけど、ここではわざわざ遠くのキャンプ場に行かなくても、その辺でピクニックするだけで十分。キャンプが日常に溶け込んでるんです。岩手の人って、どちらかというとつつましやかで、自己主張が強くなく、そのぶんアピール下手と言われてます。だから、知られていないだけで良いものがたくさんあるんですよ。僕からしたら、よくぞアピール下手でいてくれた! という感じです。
今後は福岡の博多華丸・大吉さんとか、宮城のサンドウィッチマンさん、栃木のU字工事みたいな、全国的に知られるようなご当地芸人じゃなくとも、岩手の人たちから好かれて、岩手の街が少し明るくなるような芸人になりたい。今、岩手の魅力度ランキングって全国30位くらいなんですけど、これを26位くらいまで上げられるような……。すでにつつましい県民性に染まってる? そうですね、あると思います!(笑)
□木村卓寛(きむら・たくひろ)1976年5月22日、兵庫県姫路市出身。漫才コンビ「天津」のツッコミ担当。99年、NSCの同期である向清太朗と「天津」を結成。08年、詩吟と下ネタを融合させた「エロ詩吟」でブレーク。決め台詞の「あると思います」で2009年の「新語・流行語大賞」にノミネートされる。21年3月中旬から岩手県へ単身移住。4月から岩手朝日テレビの新番組「Go! Go! いわて」のMCを担当する。