オダギリジョーも驚いた29歳新人監督の覚悟「物語の肝になるシーンがカットされていた」

俳優のみならず、ヴェネチア国際映画祭にも出品した映画「ある船頭の話」やNHKドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」で脚本・監督も手掛けるオダギリジョー(46)。29歳の新鋭・松本優作監督の映画「ぜんぶ、ボクのせい」(8月11日公開)では、主人公の少年と家族のような関係を作るホームレスを演じた。10~20代の俳優、監督と仕事をして、感じたこととは……。

ホームレス役に挑戦したオダギリジョー【写真:荒川祐史】
ホームレス役に挑戦したオダギリジョー【写真:荒川祐史】

映画「ぜんぶ、ボクのせい」でホームレス役「自分でその生き方を選んだ人もいると思う」

 俳優のみならず、ヴェネチア国際映画祭にも出品した映画「ある船頭の話」やNHKドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」で脚本・監督も手掛けるオダギリジョー(46)。29歳の新鋭・松本優作監督の映画「ぜんぶ、ボクのせい」(8月11日公開)では、主人公の少年と家族のような関係を作るホームレスを演じた。10~20代の俳優、監督と仕事をして、感じたこととは……。(取材・文=平辻哲也)

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「ぜんぶ、ボクのせい」は施設暮らしの少年・優太が再び母親に捨てられ、軽トラの幌(ほろ)で暮らすホームレス、坂本(オダギリ)らと疑似家族を作る物語だ。この軽トラの幌暮らしという設定を提案したのはオダギリ。この設定が映画ではスパイスになっている。かわいそうなホームレスではなく、自由人としてのプライドのようなものを感じ、人間としての深みが増している。

「僕もちょっと覚えてないんですけど、最初の脚本はダンボールハウスで暮らしている設定だったんですね。事情があって、仕方なくホームレスになる人もいると思いますが、中には自分でその生き方を選んだ人もいると思うんです。社会からは外れるけど、その人なりの考え方や価値観があって、その美学を貫こうとしている人です。それに今は軽トラで一人キャンプすることも流行っているので、時代をうまく乗せられるんじゃないかと思ったんです」

 オダギリは若い頃から映画のアイデアを考えて、ノートに書きためてきた。この「ぜんぶ、ボクのせい」と似たようなストーリーは20代の頃、浮かんだこともあったそうで、新鋭監督には似た感性に共感したようだ。

 アイデアは自作のために取っておくという選択肢もあったはずだが、「若いクリエーターの方達にチャンスが与えられたのだから、そこは惜しみなくというか……。松本監督は29歳と若くて、いろいろと相談してくれることもあったんです。だから、こちらも本気で話をしました。役者としていろんな監督のやり方を見てきたので、そこは財産だと思っています。例えば、○○監督はこういうことを言っていましたよ、と教えてあげることくらいはできる。若い人が面白い作品を作ってくれることには期待していますから」。

 監督だけではなく、共演者も若い。主演は映画「とんび」の主人公(北村匠海)の少年時代を演じた白鳥晴都(14)。その2人に絡む女子高生役は監督作「ある船頭の話」でヒロインに抜てきした川島鈴遥(20)だ。川島はオダギリの推薦だったのか。

「特に言っていなくて、逆にびっくりしました。プロデューサーの甲斐真樹さんが僕の映画を見て、『川島さんすごく良いね』と言っていたのはありますね。彼女は本当に才能があるので、あとは環境が整って、いい出会いがあれば、いい女優になると思います。応援はしていますが、ほかの事務所の所属だし、異性だし、あんまりかわいがりすぎるのもおかしいですからね(笑)」と冗談めかして、再会と成長を喜ぶ。

新作の現場ではまさかの最年長だったオダギリジョー【写真:荒川祐史】
新作の現場ではまさかの最年長だったオダギリジョー【写真:荒川祐史】

クリエーターとして「他の監督には作れないめちゃめちゃな作品を作っていきたい」

 主演の白鳥については「まだ中学生なのにしっかりしている。僕は中学校の頃はバンドばっかりで、同級生の靴を隠して、喜んでいるような生徒だったけど、彼は真面目。だから逆に心配です。これから、どういう方向に行くかですよね。本人は、こういう作品に参加できることが、どれだけ面白いことなのかは後々分かっていくだろうけど、こういう作品を選ぶような役者になってほしい」とエールを送る。

 14歳、20歳と共演し、29歳の新人監督と組んだ新作。完成作はどう見たのか。「物語の肝になるシーンがカットされていたんです。でも、カットされていること自体が全く気にならない編集になっていました。再構築力の高さを感じました。監督って、一旦作ったものにはあんまり手を入れたくないものなんです。挑戦だっただろうし、大きな覚悟がいったことだろう、と。同時にそれを成功させたのはすごい。今回はオリジナルで撮っているけど、これからはオリジナルにとらわれずにやっていきたい、とも言っています。インディーズだけで突っ走るタイプじゃないので、バランスよくやっていける人なんだな、と感じました」とその才能にも期待する。

 オダギリ自身も、クリエーターとしても続けていく考え。「自分で書いて撮って編集する、という作家としてのスタイルもできつつありますが、期待に応えていけるのかなあという心配はありますね。映画監督を本職にする人は1本1本が勝負。1本失敗したら、次は撮れないという職業だと思っています。だから、リスペクトもあったし、これまでは自分で撮りたいと言うつもりもなかったし、むしろ映画を撮ることを避けていたんです。でも今は開き直って、自分の置かれた環境を利用することで、ほかの監督には作れないめちゃめちゃな作品を作っていきたいとは思っていますよ」。

 NHKドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(2021/脚本・演出・出演・編集)の続編が決定したように、監督としての期待も大きい。「(『ある船頭の話』や『オリバーな犬』に出演の)永瀬(正敏)先輩からは『定期的に監督も続けてほしい』と熱い応援を頂いています(笑)。撮っていきたいという気持ちもありますが、才能が追いつかないところもあるので、自分のタイミングでやっていくしかないかなと思いますけど……」。頭の中には既に次回作の青写真はあるようだ。

□オダギリジョー(おだぎりじょー)1976年2月16日、岡山県出身。アメリカと日本でメ ソッド演技法を学び、「アカルイミライ」(2003)で映画初主演。以降、「メゾン・ド・ヒミコ」(05)や「ゆれる」(06)など、作家性や芸術性を重視した作品選びで唯一無二のスタイルを確立。「悲夢」(09)、「宵闇真珠」(17)、待機作の「サタデー・フィクション」などにも出演し、海外の映画人からの信頼も厚い。昨年は映画「アジアの天使」、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の出演が話題を呼ぶ。

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