救急入口に救急車や消防車が列 医療ひっ迫に「野戦病院」の声も 動画投稿の医師に聞いた
都内の新型コロナウイルスの新規感染者が2週連続で22万人を超える中、国立国際医療研究センター救急科の公式ツイッターが7日に投稿した動画が「こんな事態は見たことない」と話題になっている。救急入口に救急車が列をなし、複数の消防車まで…。いったい、医療現場では何が起きているのか。動画を投稿した小林憲太郎第二救急科医長に聞いた。
「えっ?!これ全部受け入れ待ちですか???!」
都内の新型コロナウイルスの新規感染者が2週連続で22万人を超える中、国立国際医療研究センター救急科の公式ツイッターが7日に投稿した動画が「こんな事態は見たことない」と話題になっている。救急入口に救急車が列をなし、複数の消防車まで…。いったい、医療現場では何が起きているのか。動画を投稿した小林憲太郎第二救急科医長に聞いた。(取材・文=水沼一夫)
動画は「某日朝、当院救急入口にて…」とのつぶやきとともに投稿された。9日午前11時現在、188万回以上再生されている。
まず目に飛び込んでくるのが救急車。屋外に1台、2台、3台、4台…と列をなし、ヘルメット姿の救急隊員の姿が見える。さらに、カメラはポンプ車など複数の消防車両も捉えている。医療がひっ迫した様子が11秒の映像で伝わってくる。動画の視聴者からは「えっ?!これ全部受け入れ待ちですか???!」「これだけの救急車を立て続けに受け入れて、対応して…本当に頭が下がります」「なんで消防車がいるんですか?」「ここでなにか災害が起きてるかのよう」「え?!異常すぎる…」「こんな事態は見たことない」「もはや野戦病院と化していますね」など、多くのコメントが寄せられている。
取材に応じた小林医長は動画について、「先週の朝8時半ぐらいの映像になります」と説明。
「今回コロナの第7波が来てから、救急搬送の依頼がたくさん来ておりまして、特に発熱患者であるとか、呼吸とかそういったコロナを疑うような患者さんを受け入れるには、他のコロナじゃない患者さんと同じ場所で診ることが困難なので個室で診なきゃいけないんですね。救急外来で救急搬送の患者さんを個室で診れる場所というのは、3つしかない。うまく患者さんをやりくりしていかなきゃいけない状況がありまして、普段は絶対行わないことなんですけども、救急車内で待機をしていただいてコロナの検査をしています」と続けた。
本来は救急搬送された後、院内で診察するものの、個室がいっぱいのため、救急車の中が待機場所に。問診や抗原検査、PCR検査を行い、陰性と確認された場合は一般患者と同じ場所で診察となる。しかし、陽性と判断された場合は、そのまま他の病院に転送される可能性もある。コロナ病床は「常にほぼ満床な状況」で、病院側も苦渋の決断を迫られている。
それでも、救急車は続々と到着している。「救急車内の待機もたくさんお待たせてしまうとそれはそれでいろいろ問題も出てくるので、2台もしくは3台ぐらいまでに制限をしているのですが、どうしても搬送先がもう50件100件見つからないとか、そういった患者さんもかなりおられます」。この日は、6台の救急車が外に待機していた。すでに院内に患者を搬送済みの車両もあるが、患者には長時間待機する可能性があることを了承の上で、待ってもらっていたという。
「特に休日夜間などは搬送先が見つからない患者さんがかなり増えてしまって、朝はそういった患者さんが多い。ああいった形で救急車がたくさん病院の外で待機している状況が発生しました」
消防車の到着で分かった救急隊員の過酷な現状
また、気になるのが複数の消防車の存在だ。小林医長は「朝の8時半というお話をしたのですが、ちょうど救急隊が勤務の交代の時間なんですね。車内待機がまだ続く状況の中で、救急車が消防署に帰れないというところで、救急隊の交代の要員がポンプ車で来られて、あの場で勤務交代されていました」。治療に携わる医療関係者だけでなく、救急隊員も目いっぱいの活動をしていることが分かる。
これだけの救急車、消防車が玄関に集まったのは、病院の職員にとっても見慣れない光景だった。
「当院は年間1万1000件の救急車を受け入れていて、日割りするとだいたい1日に30件ぐらい救急車が来ます。15時~16時ぐらいが救急搬送が特に増える時間なので、そういった時間ですと、2、3台止まっていることもそんなに珍しいことではないのですが、さすがにあそこまでの数はそうめったにないので、そういうこともあって記録したというところです。(動画の投稿は)現状を知っていただきたいっていうのは正直なところで、救急車を呼んで受診をすることに僕は特に何かそれを責めるつもりもないですし、必要な医療を提供する。ただそれだけなんですけれど、救急搬送を受け入れている病院の現場では、こういったことが起きているよっていうことは広く知っていただけるといいのかなという気持ちは少しありました」
今週に入って都内のコロナ新規患者数は減少傾向にあるものの、まだまだ収束は見えない。
小林医長は「これだけ同じ病気の発熱患者さんがはやることってやっぱり今までなくて、例えばインフルエンザでもこんなに流行はしないと思うんですね。そういった意味で、もうコロナうんぬんにかかわらず、病院としての診療機能が日本全体でちょっと崩れかけている状態なんじゃないかなとは思っています」と指摘。
「友人も家族で自宅療養をしてたりするんですが、自宅療養とはいえ症状も強かったり、つらそうなんですね。確かに入院する必要はない状況だと思いますが、それぞれみんなつらい思いをしながら、不安を抱いて自宅療養しているような状況もある。何とか病院に受診をできればいいんじゃないかなとは思うのですが、それに見合うだけの供給もできないっていうのは現実ですので、このバランスをどうとっていくかというのは、非常に難しい問題です。今コロナにかかってお休みしている職員も多くて、救急を回すのも結構ギリギリな状況になってきていて、何とか皆さんの受診の希望にお応えして、できる限りの医療を提供しようと思っているんですけれども、そういった意味で危うい部分もあるので、非常に不安を感じながらやっているっていうのが現実かなと思っています」と訴えた。