「40までに死ぬ」暴走族狩りで伝説残した喧嘩師、今は不登校生徒の支援に尽力

思春期になると道を外したり、やんちゃしてしまうのはどの時代にもあること。しかし、この男は異色の存在として恐れられた。ターゲットはなんと暴走族。夜な夜な、ボロボロの原付に乗って集団を追いかけ回し、暴走族はその姿を見るだけで逃げ出したという。数々の破天荒エピソードと腕っぷしが語り継がれ、やがて故安倍晋三元首相の護衛役も担当した。ナイフを持った強盗を捕まえたり、火の海に突入して生存者を救出したことも。現在は天満警察署と大阪市の要請で、北新地のパトロールも行うなど、奉仕活動に従事している。孤高の喧嘩師・アンディ南野に聞く「伝説」の真相――。全4回のうち4回目。

22歳のころ、ギターを担いで2年間ヒッチハイクで日本を回ったアンディ南野(中央)【写真:本人提供】
22歳のころ、ギターを担いで2年間ヒッチハイクで日本を回ったアンディ南野(中央)【写真:本人提供】

恋人と結婚しようも「手に職もないし、けんかしか…」

 思春期になると道を外したり、やんちゃしてしまうのはどの時代にもあること。しかし、この男は異色の存在として恐れられた。ターゲットはなんと暴走族。夜な夜な、ボロボロの原付に乗って集団を追いかけ回し、暴走族はその姿を見るだけで逃げ出したという。数々の破天荒エピソードと腕っぷしが語り継がれ、やがて故安倍晋三元首相の護衛役も担当した。ナイフを持った強盗を捕まえたり、火の海に突入して生存者を救出したことも。現在は天満警察署と大阪市の要請で、北新地のパトロールも行うなど、奉仕活動に従事している。孤高の喧嘩師・アンディ南野に聞く「伝説」の真相――。全4回のうち4回目。(取材・構成=水沼一夫)

 口には出せなかったけども、親兄弟にはもう中学校ぐらいから「万が一暴力団ともめて家に返しにこられてもごめんやで」と思いながら、その代わり、それを糧にして、俺はもっと世の中で何か名前を残せる“けんか人”になって生きていくからと思っていて、歳を重ねても、もうじき40代だからそろそろ何かド派手なけんかの場所探さなあかんなあと思って、38ぐらいになったときに、今の嫁さんと付き合って8年目ぐらいやったんですよ。

 嫁さんが年上で40を超えたんですよ。僕と一緒にいる間に、40を超えてしまった嫁さんに、さすがにもう「次のいい男、見つけにいっとくれ」と言えへんかった。こんだけ8年も一緒におってくれて、なんだかんだをやりっぱなしで何も良い目をさせていないのに、これはあかんなあと思い、38のときに結婚しようかってなりました。

 それまでまともに仕事したことがなかったんですよ。たまに建築現場の日雇いみたいなのをしていたくらいです。親が長屋を持っていたから、そこに住まわせてもらって家賃も払わへんし、電気、ガス、水道も携帯も全部親に払ってもらっていた。37、38ぐらいまでそうでした。パラサイトよりもっと悪い。それに当てはまる日本語がないくらい、依存していました。

 お金も何もないし、借金も友達連中に借り回って、300万ぐらいあった。ジムの家賃も1年ぐらい滞納していました。そのとき、物件を管理していた不動産会社の営業さんに、「家賃ってどのようになってるんですか?」と聞いたら、「いやアンディさん、これは私も会社にも妻にも言えないことなんですけど、金利が付くところで、内緒で借りて埋めてます」と言われたんです。ずっと立て替えて、埋めておったんですよ。なんでか言うたら、自分の管理物件で家賃滞納者が出たら自分のスコアに傷つくから。

「そうですか。ちょっとずつ返していきますね」と言って、毎月1万円ずつ振り込んで、数年かけて返済しました。

 嫁さんがいよいよ結婚しようやみたいな話をしていても、ずっと雰囲気を断っていたんですけど、いよいよ結婚せなあかんとなって「さあ頑張ろう、何か仕事をしよう」と思ったとき、ジムを立て直すことにしました。でも、「これだけやってきたジムやから、これでやらなしゃあない。これで頑張ろう」と思って、何かできることあるかなと自分の手を見たときに、手に職もないし、けんかしかなかった。そのときはもうガク然としました。いろんな人に、どうしたらジムで人を増やせるか、飯を食っていけるかを聞いて、できそうなことを真似しながら、やっていくうちにちょっとずつ会員が増えてきて、今はなんとかそれでご飯を食べられています。

 うちのジムの子たちの親には言います。「うちはど突くで。外ほおり出し、泣いて叫んでても相手せえへん」「格闘技、キックボクシングが強くなるとこちゃうで。礼儀作法とマナーを教えるとこやから」。関西の格闘技のジムの指導者は礼儀とかその辺に関して希薄なところもあるんですよ。まだまだちょっとアウトローなもんやと捉えてるか分からないすけど、僕はやっぱり自分の子供を預けるんやったらっていう考え方で経営しているから、空手や柔道の道場に負けへんぐらい礼儀作法にうるさくしています。それでよかったら入会してもらう。

ジムでは愛のある指導で多くの子どもたちを育てている【写真:本人提供】
ジムでは愛のある指導で多くの子どもたちを育てている【写真:本人提供】

不登校の学生に救いの手「無理してしがみつかんでいい」

 今うちに松崎亮磨という選手がいます。中3の頃にいじめられて不登校になって学校行かへん。お父さんが僕の1個上の先輩で「息子を預かってくれ」と言われて。入門したときはほんまにふにゃふにゃの全然ダメな子で、回し蹴りでど突き回しました。僕はまあまあ腕っぷし強いんですよ。それで2年ぐらいしたら、ど突いても、蹴ってもひかへんようになって、体がめちゃ強くなったんですよ。さらに2年後の通算4年後にはキックボクシングで日本チャンピオンになっていましたね。今の時代に合っていないかもしれんけど、多少の痛みを伴った愛のムチ的なことは必要なときもある。人間関係の根本ができていないとダメですけど。

 不登校の子は最近多いです。自閉症の子も増えています。うちに来て変わって学校に行くようになったということもよくあります。人としゃべることができるようになったっていうのと、僕もそうやったんやけど、人とコミュニケーション取られへん人の一番何が原因かと言ったら、人と相対したときに、ひと言目が発せられないんですよ。慣れてない、緊張する、何かに失敗した、怖い。まずは「おはようございます」「はじめまして」「こんにちは」とかのあいさつをしっかり教えてあげる。ひと言目が出たら、ふた言目が出るようになります。

 あとは学校に行かれへんかっても「うちのジムだけ、まずは毎日来れるように頑張り」とか別の世界で生きるということも教えてあげられればと思っています。学生のころ、何が一番しんどいって、嫌でもそこに行かなあかんから。その教室に行って、その席に座る。これってめっちゃしんどいことやと思う。大人は選択できるじゃないですか。僕は子どもが不登校になって親に言うのは「転校させ」ですよ。

 無理してそこでしがみつかんでいい。心の傷は治らない。転校するというのが物理的に無理でも、それやったらここに来させてあげて、必ず何かの自信を持たせるようにしています。そもそもが打たれ強くなっていないのに、ネットでの誹謗(ひぼう)中傷とかすごいじゃないですか。質の悪いコミュニティーに入れたら弱肉強食がえぐいから、習いごとでも質のいいコミュニティーに入れてあげて、まずは人同士のつながり合い、やり取りをもうちょっとたくさん経験させてあげてほしいなと思うんですね。

 これから先は今までとは全く違う生き方をしようと思ってます。「40までに死ぬ」というのが自分の目標であり、世の中に華々しく語り継がれるような派手なけんかで終わりたいと思ってたけど、今は80歳になって嫁さんと一緒に旅行に行くのが夢ですね。

□アンディ南野(あんでぃ・みなみの)1979年2月10日、大阪・大東市出身。若い頃からけんかに明け暮れる。28歳のとき、格闘技デビュー。地下格闘技「喧王」で2度優勝。2019年の選挙では腕っぷしを買われて故安倍晋三元首相の警護を務めた。毎週木曜金曜には天満警察署と大阪市の要請で、北新地のパトロールを行い、違反者を摘発している。8月28日「PEACE」(大阪・176BOX)で、元迷惑系YouTuber・へずまりゅうと激突する。格闘技ジム「T.B.NATION」代表。172センチ、80キロ。

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