「鎌倉殿の13人」時政役で人気・坂東彌十郎ってどんな人? 66歳の苦労人が歩んだ道のり

大柄で愛嬌のある表情が印象的な俳優・坂東彌十郎(66)。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、「主人公・北条義時(小栗旬)の父・時政を演じている人」と言えば分かるだろうか。

坂東彌十郎【写真:ENCOUNT編集部】
坂東彌十郎【写真:ENCOUNT編集部】

大スターの息子として生まれながら「後ろ盾」を失った若手時代

 大柄で愛嬌のある表情が印象的な俳優・坂東彌十郎(66)。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、「主人公・北条義時(小栗旬)の父・時政を演じている人」と言えば分かるだろうか。(文=コティマム)

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 彌十郎が「鎌倉殿の13人」で演じる時政は、息子の宗時が源頼朝をかくまったことから平家と対立し、頼朝に従う覚悟を決める。頼朝が「鎌倉殿」になると、鎌倉殿と坂東武者双方をつなぎながらも、「北条家がどうすれば鎌倉で生き残れるのか」を考える。頼朝亡き後に「初代鎌倉幕府執権」にまで上り詰める時政だが、劇中では後妻・りく(宮沢りえ)にデレデレで逆らえず、頼朝に怒られるとすぐにさじを投げるなど、頼りない面もコミカルに描かれている。

 そんな時政を演じる彌十郎の本職は、歌舞伎役者。銀幕の大スターだった初代坂東好太郎の三男で、歌舞伎役者の十三代目守田勘彌を祖父に持つ。実は大河ドラマ初出演。馬に乗る役も初めてで、撮影にあたり乗馬のレッスンも受けたという。映像経験が少ないながらも、最近は“義時パパ”としてバラエティー番組にも引っ張りだこだ。ブログやツイッターでも積極的に情報を発信中。頼りなくも愛くるしい時政の姿にSNS上では、「北条パパ、かわいい」「お茶目」といった声も挙がっている。

 彌十郎は183センチの長身で、恰幅の良いその姿は舞台上でも映える。市井の老人から実直な老中、ちょっと意地悪な遊郭の亭主、恐妻家の中納言など、幅広く演じる立役(男役)だ。また2000年に十八代目中村勘三郎が立ち上げた、江戸時代の芝居小屋を再現した「平成中村座」の初期メンバーでもあり、中村屋にもかかせない存在。勘三郎亡き後も、息子の勘九郎・七之助兄弟率いる「平成中村座」に常連で出演している。

 筆者も歌舞伎を見るが、彌十郎の人間味と深みのある演技は、人生経験豊富な“長老”的な役にぴったり。それだけではなく、「弁天娘女男白浪」で演じた五人盗賊の頭・日本駄右衛門、「引窓」で演じた相撲取り・濡髪長五郎など、体躯をいかした演技は貫録と迫力がある。また「歌舞伎NEXT 阿弖流為(アテルイ)」では、裏の顔を持つ悪人・藤原稀継を好演。誠実、コミカル、老獪(ろうかい)、シリアスと幅広い役をきっちり演じられる彌十郎は、安心感と安定感のある存在だ。そして舞台に登場すると、不思議と場がほっこりした気分になる。会見などの取材の場では、謙虚な姿勢で静かに目を細めてほほ笑み、丁寧に受け答えする姿が好印象だ。

 歌舞伎役者として約50年のキャリアを持つ彌十郎だが、実は苦労人。父・好太郎は大スターではあるが、歌舞伎役者から映画俳優に転じた身。そのため彌十郎は伯父の八代目坂東三津五郎一門に入り、歌舞伎の道を志した。しかし八代目が急死。その後、祖父の養子だった十四代目守田勘彌から学ぶことになったものの、なんと十四代目も2か月後に亡くなってしまった。歌舞伎の世界で「後ろ盾」を失うということは、「役が回ってこない」ということ。実家に戻った彌十郎は父のもとで商業演劇に出演するようになる。

2人の「英雄」に育てられ「海外自主公演」の夢を達成

 後ろ盾をなくした彌十郎を育てたのが、「スーパー歌舞伎」を創始した澤瀉屋の二代目市川猿翁(当時は三代目市川猿之助)だ。「スーパー歌舞伎」は、古典を残しながらも最新の音響や照明など歌舞伎とは異なる演出で行われる“現代風歌舞伎”。漫画「ONE PIECE」を原作とした「スーパー歌舞伎II ワンピース」でご存知の方も多いのではないだろうか。もともと宙乗りや派手な立ち回りなどエンターテインメント要素の強い演出が得意だった猿翁が、新たに創り出した歌舞伎だ。

 型にはまらない独自の歌舞伎を創り出した猿翁は、家柄にかかわらず才能のある若手は積極的に受け入れた。海外公演にも意欲的でヨーロッパでも歌舞伎公演を行い、彌十郎も随行。さらにオペラやミュージカルも取り入れ、日本でオペラ公演も行っている。こうした経験から、彌十郎は「海外で自主公演したい」という夢を持つように。40代で澤瀉屋を離れることを決めた。

 猿翁のもとを離れた彌十郎に声をかけてくれたのが、十八代目中村勘三郎だ。勘三郎もまた、古典を大切にしながらも「コクーン歌舞伎」や「平成中村座」など、歌舞伎の枠を広げた人。彌十郎は2000年の「平成中村座」立ち上げ当初から参加しており、ニューヨーク公演など再び海外での公演にも恵まれた。

 猿翁、勘三郎の2人に育てられた彌十郎は、還暦を迎えた16年についに海外自主公演の夢をかなえる。息子で女形の坂東新悟と共に立ち上げた親子会「やごの会」で、フランス、スペイン、スイスを巡業する「やごの会欧州歌舞伎公演」を敢行し、大好評を得たのだ。猿翁のもとを離れ20年近くたって実現した海外自主公演。猿翁も「やっとだね」と喜んでくれたという。後ろ盾を失いながらも、さまざまな経験を経て実力をつけていった彌十郎。「阿弖流為」時のインタビューでは、「自分にとっての英雄」として猿翁と勘三郎の名前を挙げている。

 さらに翌17年。歌舞伎座8月の「納涼歌舞伎」第二部で、彌十郎の父・好太郎と兄・坂東吉彌の追善興行が行われた。追善興行は故人になった俳優をしのぶ公演のこと。身内の「追善興行が行われる」ということは、彌十郎の実力、活躍ぶりが認められたということだ。

 今年の歌舞伎座「七月大歌舞伎」で1年3か月ぶりに歌舞伎にも復帰し、現在は「八月納涼歌舞伎」に出演中。10月には再び「平成中村座」に登場する。「鎌倉殿の13人」は、頼朝が亡くなりついに新章に突入。頼りなくも憎めない“義時パパ”が初代執権に上り詰めていくさまを、彌十郎がどのように演じているのか、目が離せない。

□坂東彌十郎(ばんどう・やじゅうろう)1956年5月10日生まれ。66歳。東京都出身。歌舞伎役者(屋号は大和屋)。銀幕の大スター初代・坂東好太郎の三男として生まれ、73年5月に歌舞伎座「奴道成寺」の観念坊で「坂東彌十郎」を名のり初舞台を踏む。歌舞伎界きっての長身。偉丈夫で押し出しをいかした力強い芸風ながら、コミカルからシリアスな役まで幅広く演じる。2014年に息子・坂東新悟と自主公演「やごの会」を立ち上げる。22年、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に北条時政役で出演中。板橋区在住で板橋区観光大使も務める。

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