知りたくなかった偉人の裏の顔 「やばい日本史」シリーズ監修した東大教授の狙いとは

戦国最強の武将・武田信玄は「イケメンに弱かった」。新選組を率いて江戸幕府のために尽力した土方歳三は「芸者からもらった恋文を冊子にまとめ、モテ自慢をしていた」など、偉人たちの表と裏の顔をまとめた書籍「東大教授がおしえる やばい日本史」シリーズが幅広い層から人気だ。監修を務めた東京大学の本郷和人教授は「大きな仕事をした人は優れた一面と、『えっ?』と驚くような凡人の姿がある。表と裏を知ることで歴史を身近に感じて欲しい」と語る。

監修した「やばい日本史」シリーズが人気を集めている東京大学の本郷和人教授【写真:ENCOUNT編集部】
監修した「やばい日本史」シリーズが人気を集めている東京大学の本郷和人教授【写真:ENCOUNT編集部】

裏の顔を知ることで、歴史を身近に感じて欲しい

 戦国最強の武将・武田信玄は「イケメンに弱かった」。新選組を率いて江戸幕府のために尽力した土方歳三は「芸者からもらった恋文を冊子にまとめ、モテ自慢をしていた」など、偉人たちの表と裏の顔をまとめた書籍「東大教授がおしえる やばい日本史」シリーズが幅広い層から人気だ。監修を務めた東京大学の本郷和人教授は「大きな仕事をした人は優れた一面と、『えっ?』と驚くような凡人の姿がある。表と裏を知ることで歴史を身近に感じて欲しい」と語る。(取材・文:西村綾乃)

「やばい日本史」は、2018年7月に発売されて以降、「親子で楽しめる」と話題に。21年7月には外交をテーマにした続編「さらに! やばい日本史」を刊行。シリーズの販売累計は69万部を突破している。偉人の表と裏の顔を一冊にまとめようと思ったのはなぜなのだろう。

「僕はひどい喘息持ちで2度ほど死にかけたことがありました。病弱だった僕にとって、偉人伝の中に出てきた野口英世はヒーロー。『野口英世のような医者になりたい』と憧れていました。色々な書籍を通じて野口のことを知る中で、『母親との関係が深いこと』、『嘘つきな所』、『お金にだらしない所』などの面があることを知り、『僕に似ている』と感じました。ノーベル賞を獲ってもおかしくないくらいの人間なのに、ダメな部分があって。そこに親近感を持ちました。大きな功績を残した表の顔と同じくらい、意外な裏の顔を知って欲しいと思いました」

「すごい」ばかりじゃ歴史は楽しくない。「やばい日本史」には、本郷氏が憧れた野口のほか、卑弥呼、太宰治など幅広い37人の偉人がずらり。伊達政宗や織田信長、武田信玄は「男性の恋人を持っていた」というエピソードも盛り込まれている。

「戦国時代は、男色の関係を持つことが“かっこ良い”とされていました。また、そういう関係を持っておけば、自分を“裏切らない”という期待もあって、武将の多くは女性とも男性とも付き合うことがあったのです。また、女性を近づけてはいけないお寺では、かわいい男の子が人気でした。寺ごとに“推し”がいたと言われています」

 言い寄ってきた男性にムチャぶりをして凍死させた小野小町、実はものすごい船酔い体質だった勝海舟など、驚愕の「やばい」部分を笑って受け入れてしまうのは、和田ラヂヲ氏のイラスト、横山了一氏が描く味のあるマンガの力もある。

「偉人のすごいエピソードはもちろん、真逆の部分も含めて、僕にはとても真似ができないことばかり。エネルギーが溢れているから大成したのだと思うし、エネルギーが有り余っているから、逆に振り切った時に、人間臭い部分が見えるのかなと思います。

 2冊の書籍を通じ、74人の偉人を取り上げて来た。第3弾の予定はあるのだろうか。

「そうですね。例えば近現代の話で、文学界の恋愛に絞るなどすれば、まだ紹介できていないエピソードがたくさんあります。何人も奥さんを取り替えた谷崎潤一郎。夫人とのケンカが絶えなかった夏目漱石など……。もちろん、もっとすごい話もありますよ。」

 長期休みに入る度に“売れる”同シリーズ。3年ぶりに行動制限がない今夏は、同書を「自由研究のテーマ選びに活用して」と期待する。

「『面白いな』と興味を持った人物がいたら、その人を掘り下げてみるのもいいですね。東京近郊に住んでいる方だったら、たとえば谷中霊園(東京都台東区)に訪ねてみるのもおススメです。徳川慶喜、渋沢栄一などが眠っているお墓があります。歴史そのものを掘り下げるとしたら、近所の図書館に足を運んで、『郷土の歴史』を読んでみるのも良いですね。あるいは、おじいちゃんや、おばあちゃんに昔の話を聞いてみるとか。自分の身の回りのことについて学ぶことは、自分のルーツを知ること。そこから世界に目を向けてみると、それまで気付かなかったものが見えてくるかもしれません」

 努力を重ね偉人となった人たちを、心の底からリスペクトしているという本郷氏。

「現代は『蛍の光窓の雪』のような努力は『カッコ悪い』。二宮金次郎のように『薪を背負って読書をする』姿は、『歩きスマホみたいで、車にひかれる』と考えられてしまうかもしれないけれど、いつの時代も努力をしている人はカッコいいと思っています。最近僕がカッコいいなと感じたのは、しょこたん(中川翔子氏)です。写真集を出したと聞いたのですが、写真集を出すまでには、食欲など色々な欲望をセーブしなくてはいけなかったと思うから。すごい努力家だなと、リスペクトしています」

■本郷和人(ほんごう・かずと)1960年10月12日、東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。NHK大河ドラマ「平清盛」など、ドラマ、アニメ、マンガの時代考証にも携わっている。主な著書に「新・中世王権論」、「戦いの日本史」など。日本テレビで放送中の情報番組「日本一受けたい授業」など多数のメディアに出演。

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