数千万円の高級車も…約2500台を売った“旧車マスター”横田修、独自の価値提案する「素人目線」 

旧車約2500台を販売店員時代に売った経験を持ち、現在は独立して店舗を運営するユニークな“車屋”がいる。横田修さん(48)だ。車だけでなく、中古の家具やCDなど「古くていいもの」を世に紹介する仕事に携わった経歴の持ち主だ。「人生がもっと楽しくなる、面白い車を提案したい」をモットーにする“旧車マスター”の仕事観とは。

「国語学」を旧車販売に生かしている「スウィンギンモータース」の横田修さん【写真:ENCOUNT編集部】
「国語学」を旧車販売に生かしている「スウィンギンモータース」の横田修さん【写真:ENCOUNT編集部】

フェラーリ・ディーノ販売も 成城大で「国語学」を学んだ経験生かす

 旧車約2500台を販売店員時代に売った経験を持ち、現在は独立して店舗を運営するユニークな“車屋”がいる。横田修さん(48)だ。車だけでなく、中古の家具やCDなど「古くていいもの」を世に紹介する仕事に携わった経歴の持ち主だ。「人生がもっと楽しくなる、面白い車を提案したい」をモットーにする“旧車マスター”の仕事観とは。(取材・文=吉原知也)

 幼少期から、車と音楽が好きで、大学時代に中古CD屋でバイトをして、そのまま吉祥寺の店の店長になりました。日本で一番CDが売れたとされる1998年、あの頃はJポップだけでなく、アングラバンドのCDも売れに売れて、土日は行列ができて。そんな時代もありました。そのあとは古着を売って、古い家具の販売業もやりました。

 車業界に入ったのは、偶然も絡んでいます。家具の販売をしていた当時、腰を痛めて手術しました。そこでパン屋になろうと思い立って、パン店の面接を予約したんです。予約をした日、駅でふとタウンワークを手に取って開いてみたら、前々から知っていていいなと思っていた旧車販売店の求人広告を見つけたんです。何か運命的なものを感じて、パン店の面接をキャンセルして、販売店の社員募集に応募しました。29歳の時でした。

 そこから、その販売店で約17年間働きました。途中で半年間だけ輸入車販売に移りましたが「何か違うな」と戻ってきました。販売店では、自分がメインで車を仕入れて値付けをして広告PRの文言を考え、販売してきました。営業担当者とチームで取り組み、国内外の旧車約2500台を売りました。年間で約150台の計算。辞める前日にも3台のやりとりをしていました。高いものだと数千万円、トヨタ2000GTやフェラーリ・ディーノでした。

 海外のお客さんも多くて、アメリカ、イギリス、オーストラリアを中心に、東南アジアはインドネシア、マレーシア。南アフリカの旧車ファンも相手にしました。中東からの日本の旧車愛好家の買い付けを担当したこともあります。旧車がお好きな女優の蒼井優さんが雑誌の企画で店を訪れた時に案内役を務めたこともありました。

 古いものの魅力を伝える。もともとおしゃべりが好きなので、対人の仕事が向いていると思っています。お客さんも旧車が好きで来てくれるので、自分自身も楽しいんですよ。

 実は大学で習った「国語学」が車を売ることに生きているんです。成城大の文芸学部国文学科で学んだのですが、物語や作品の文学を読み込むのとは違って、日本語自体を研究しました。子どもの頃から辞書を読むのが好きで、方言にも興味がありました。大学では例えば、文法の体言止め、倒置法や修飾語などの使い方を研究しました。

 僕は車の紹介文や広告ポップで、読点「、」をあえて使わないんです。句点「。」だけで文章を区切って、伝えたい要素を簡潔にまとめます。そうすると、分かりやすくキャッチーになります。使う単語も吟味して、文章の推敲を重ねます。販売店時代に一度、別の担当者が売った車について、そのお客さんが僕に「売ったあとの車ですが、この車はどんな車であるのかということを書いてくれませんか?」とリクエストをもらったことがあって。僕の紹介文を評価してもらえたんだと実感して、すごくうれしかったです。

「王道のブランドだけでなく、個性的な旧車、知られざる名車を楽しんでほしい」がコンセプト

 その旧車販売店からは2020年4月に独立しました。いまは東京・五反田で「スウィンギンモータース」という店をやっています。独立の理由としては、娘が小学校に入学するタイミングがありました。もう1つが、日本の旧車が高騰している中で、「欲しいと思っている人の手に届くように」という思いが強まったこと。それに、自分はどこの国のどの年代の車でもそれぞれにいいところがあると、何にでも好きな部分を見いだしています。「王道のブランドだけでなく、個性的な旧車、知られざる名車を楽しんでほしい」をコンセプトに、これまでの経験、横のつながりを生かして、面白い車を紹介できればと思ったんです。

 自分らしさを1つ挙げるなら、僕自身は、車の整備や修理のプロじゃない。同じ素人目線で話ができるんです。知識や技術に関係なく、好きな気持ちを共有しながら、コミュニケーションを重ねる。このスタイルで車を売っています。だから、お客さんには「お客さん自身の楽しみ方で車と付き合ってください」と伝えています。それに、お客さんには、例えばエンジンオイルはこのタイミングで交換してくださいといった義務的な話はしないんです。何かを禁止したり、強制したりしません。お客さんのペースとやり方で、車との楽しい生活を送ってほしいと思っています。もちろん、長年付き合いのある各ジャンルに強い提携整備工場があるので、何かあればしっかりとアフターケアをさせてもらっていますよ。

 コロナ禍で旧車ブームにもなっていて、おかげさまで何とかやっていくことができています。映画やドラマ、媒体の撮影の際に、旧車を手配する仲介案内にも力を入れています。車を売る時に、お客さんと家具や趣味の話題も話します。僕自身、旧車やレア車を取り上げるYouTube発信や音楽バンドもしています。いろいろな活動を通じて、これからも、「人生楽しみませんか?」ということを提案していきたいです。

□横田修(よこた・おさむ)、神奈川県相模原市出身。成城大文芸学部国文学科卒業。旧車販売店「スウィンギンモータース」を運営。音楽活動もしており、ラスティック系バンド「金襴緞ス」のメンバーで、アコーディオンを担当。YouTubeチャンネル「スウィンギンモータース / SwingingMotors」に自ら出演し、旧車の魅力を発信している。愛車はマツダの「オートザムスクラム」とホンダの「エレメント」。

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