【週末は女子プロレス#61】スターダム朱里が目指す史上初の偉業 最大のライバル林下詩美へ向ける闘争心の源
スターダム恒例のシングルリーグ戦「5★STAR GP(ファイブスターグランプリ)」が7月30日&31日の大田区総合体育館2連戦で開幕した。今年で11回目を迎えるスターダム最強決定戦は、ブシロード体制への移行から年々スケールアップ。今年は、昨年の20名を上回る26選手がエントリーされ、10・1武蔵野の森総合スポーツプラザにおける最終戦まで全国各地で熱い闘いが繰り広げられる。
3年連続出場の「5★STAR GP」で連覇目指す
スターダム恒例のシングルリーグ戦「5★STAR GP(ファイブスターグランプリ)」が7月30日&31日の大田区総合体育館2連戦で開幕した。今年で11回目を迎えるスターダム最強決定戦は、ブシロード体制への移行から年々スケールアップ。今年は、昨年の20名を上回る26選手がエントリーされ、10・1武蔵野の森総合スポーツプラザにおける最終戦まで全国各地で熱い闘いが繰り広げられる。
昨年の5★STARで優勝を飾ったのは、エンターテインメント系のプロレスから総合格闘技の経験を経てスターダムにやってきた朱里だった。朱里はリーグ戦初制覇をきっかけに、年末の両国国技館で林下詩美を破り、念願の赤いベルト、ワールド・オブ・スターダム王座を初戴冠。現在まで7度の防衛に成功しており、今年のリーグ戦には現・赤の王者&5★STAR前年度覇者として臨んでいる。いまだかつてリーグ戦を連覇、複数回優勝した選手はおらず、赤いベルトの王者が制覇したこともない。現在の朱里は、いまだ誰も成し遂げたことのない偉業に挑もうとしているのである。
3年連続3度目の出場となる朱里だが、その立場は毎年異なっている。2020年の初出場時はフリーとしてのスターダム参戦で、他団体と並行しての出場だった。同年1月、ジュリアが作ったドンナ・デル・モンドのメンバーとして現れると、舞華とのトリオでアーティスト・オブ・スターダム王座を一発奪取。豊富な経験値からも優勝候補の一角として5★STARに出場した。実際、順調に白星を伸ばしていったものの、ちょうどこのころ、母が体調を崩し入院、9・6仙台での公式戦前日に亡くなってしまったのである。
結局、この年のリーグ戦は1点差で決勝進出を逃し、同ブロック代表の詩美がキャリア2年で初優勝をかっさらった。最愛の母に優勝した姿、ベルト姿を見せたかった朱里は同年10・3横浜での赤いベルト挑戦を契機にスターダム入団を表明。岩谷麻優に敗れベルト奪取ならなかったことにより、この団体でトップに立つには所属になり、とことんまでスターダムの中で闘うことが必要と考えたのである。
所属選手として迎えた2度目の5★STAR。この期間は赤いベルトの王者・詩美との激闘がクローズアップされていた時期でもあった。前年の公式戦における初シングルは20分の時間切れ引き分け。21年5月のシンデレラ・トーナメント2回戦でも対戦し、事実上の決勝戦とも言われた試合で、朱里がオーバー・ザ・トップロープでの勝利を挙げた。が、朱里も優勝までは届かず、両者には苦いトーナメントに終わってしまう。この悔しさをぶつけたのがトーナメント決勝の行われた6・12大田区での赤いベルト戦で、30分フルに闘い抜いてのドロー。その後、異例の延長戦に突入するも、両者ノックアウトで引き分けた。9・4高田馬場での5★STAR公式戦も20分の時間切れ引き分けで、年末の12・29両国国技館で挑戦者の朱里が36分33秒の激闘の末に勝利し、タイトルが移動した。この年、約100分闘い抜いての詩美との決着で、朱里は天国の母に王座奪取を報告したのである。
王者として迎える今年の5★STAR。朱里は大きなプレッシャーを感じて開幕戦を迎えた。7・30大田区での入場式には、出場選手がユニットごとに登場。それぞれのユニットが浴衣など趣向を凝らしてステージに並んだ様子は、ただただ圧巻の一言に尽きた。これはリーグ戦や団体のスケールアップを象徴する場面で、最後にコールされたのが前年度覇者の朱里だった。
「浴衣を着てきたり、ホントに華やかだなと思ったし、あの入場式で、今年も熱い熱い夏が始まったなと感じましたね。最後に名前を呼ばれてあの場に立ったときには、2連覇を目指すぞと、より気合いが入りましたね」
巨大なステージ上から場内を見渡した朱里。気合いが入っていたのは自分だけではない。バックステージでの雰囲気からも、選手全体から「みんなの気合いがすごかった」と感じ取れた。注目度がアップしているからこそ、たとえ入場式ひとつをとってもプロとしての心構えで工夫する。そんな考え方が全体に行き渡っていると感じられたのだ。
朱里は開幕2連戦でAZM、詩美との公式戦をおこなった。ハイスピード王者AZMは彼女の苦手とするタイプ。実際、過去2度の公式戦では敗れており、いずれもその後のタイトルマッチ(SWA世界王座戦)でやり返しているものの、3度目がないとは決して言いきれない。過去の失敗を繰り返さないよう、朱里はAZMの丸め込み技、あずみ寿司を徹底研究。細心の注意を払ったうえで、関節技の白虎でギブアップ勝利をもぎ取ったのである。
「AZMから勝利できて、ぶっちゃけホッとしました。試合の映像を見返してみたら、表情からもホッとしたのがわかりましたね」
ライバル詩美に「私もこのまま終わらせるわけにはいかない」
翌日は、昨年のベルト奪取以来となる詩美との再戦だ。王者と挑戦者の立場を変え、また、今回はともにユニットリーダーとしての対戦でもある。朱里が赤いベルト奪取の流れからゴッズアイを結成すれば、詩美はクイーンズクエスト同門対決でリーダーに就任。リーダーとしての責任も、今後の対決にはついてまわる。
ここまで何度もフルタイムで闘ってきた両者だけに15分での決着は難しいかと思われた。が、フルタイムドローまであと4秒というところで詩美が大技ハイジャックボムを決めて3カウントをゲットした。詩美にはリーグ戦2戦目の初勝利で、朱里には全勝優勝の可能性が早くも消えた。
「あと数秒だったのに、肩を上げられなかった自分に腹が立ったというか、なにやってんだよという気持ちでしたね。あそこで肩を上げたとしても結局は引き分けになってたんでしょうけど、負けてメチャクチャ落ち込みました。終わったあと、ずっと泣いてましたね」
とはいえ、リーグ戦はまだ始まったばかり。朱里、詩美とも1勝1敗だ。問題は、あと10戦をどう乗り切るか。リングでの過酷な闘いはもちろん、社会情勢的にも徹底した体調管理が求められる。
「最大のライバルである詩美は、赤いベルトを取り返しにくるだろうし、私もこのまま終わらせるわけにはいかないので、近いうちにまたシングルでやりたいです。この負けをしっかりと受け止めて、次の闘いに生かそうと思います」
王者だけに、当然厳しくマークされる。また、王者だからこそ王者らしい闘いをしなければならない。しかも、リーグ戦真っ只中の8・21ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)はビッグマッチ仕様で、朱里には赤いベルト防衛戦が控えている。しかも挑戦者は、初代王者でスターダム・レジェンドの高橋奈七永だ。
「試練ですよね。ぶっちゃけ身体の面とかでもきつい部分はあるんですけど、追い込まれれば追い込まれるほど自分は力を発揮するタイプなので、いい意味で自分がまた進化できるのかなとは思いますね。それを乗り越えたら新しい自分が発見できるし、また一皮むけると思ってるので、そこはコンディションをちゃんと整えて、しっかりやる気持ちでいます」
朱里は奈七永戦を勢いに換えてリーグ戦を走り抜くつもりでいる。シリーズ中に“前王者”になるリスクを抱えているものの、乗り切れば連覇も見えてくると考えているようだ。
果たして、この2か月間を完走し、栄冠にたどり着くのはいったい誰か? 現・赤の王者&前年度覇者の朱里でさえ、簡単に優勝できるとは考えていない。マークされる分、むしろ難しい立場にいるとも言えるだろう。「絶対ってないと思ってるんですよ。勝てると思われる相手でも気を引き締めて、勝利をつかみにいきます」と朱里。5★STARロードの先に見える、10・1武蔵野の森の光景とは……?