夏に多発の水難事故、後を絶たない二次被害…最善の救助や事前準備とは? 専門家に聞いた

夏休みに入り、アウトドアや屋外の遊びが楽しめるシーズンが始まる一方で、今年も多くの水難事故が報告されている。子どもが溺れ、助けに水中に飛び込んだ保護者や大人、年上の人が犠牲になる「二次被害」のケースが後を絶たない。命の安全を守りながら、水遊びを楽しむにはどうしたらいいのか。川や湖等での水難事故の調査分析や啓発活動等を行う「公益財団法人 河川財団」に、予防策や心構えを聞いた。

ライフジャケット着用で命の安全を守りながら水遊びを楽しみたい(写真はイメージです)【写真:写真AC】
ライフジャケット着用で命の安全を守りながら水遊びを楽しみたい(写真はイメージです)【写真:写真AC】

二次災害で特徴的な点は子どもが含まれるグループでの事故が多発 「河川財団」が調査分析

 夏休みに入り、アウトドアや屋外の遊びが楽しめるシーズンが始まる一方で、今年も多くの水難事故が報告されている。子どもが溺れ、助けに水中に飛び込んだ保護者や大人、年上の人が犠牲になる「二次被害」のケースが後を絶たない。命の安全を守りながら、水遊びを楽しむにはどうしたらいいのか。川や湖等での水難事故の調査分析や啓発活動等を行う「公益財団法人 河川財団」に、予防策や心構えを聞いた。(取材・文=吉原知也)

 同財団が今年6月に発表した調査リポート「No more水難事故2022」によると、まず警察庁の2021年の統計データでは、水難発生件数は1395件で、死者・行方不明者は744人。河川・湖沼池に限ると、死者・行方不明者は306人で41.1%となり、そのうち子ども(中学生以下)は24人だ。警察庁統計を取りまとめると、03~21年の19年分で、場所別の中学生以下の「子ども」の死者・行方不明者数は全体で1051人。そのうち約6割が河川と湖沼池で亡くなっている。海で亡くなった人数の2倍以上になるという。

 同財団の報道情報等をもとにした独自調査の分析では、03~21年の間の河川等での水難事故では例年、約半数が7、8月に集中。同財団の「子どもの水辺サポートセンター」主任研究員を務める菅原一成氏は「日本全国のどこにでも川が存在していて、とても身近な自然のフィールドでもあります。しかし人間は水中では息ができず、川には流れがあるというリスクがあります。川は身近である分、そういったリスクに遭いやすくなると考えています」と解説する。ここで、中学生以下の子どもだけでの川遊びにおける事故で、いくつか傾向が見受けられるという。幼児と小学生は、ボールやサンダルなど何かを拾おうとして川に落ちたりしてしまうケース。中学生は増水した川に取り残されたり、泳いで渡ろうとしたり、飛び込み遊びをする際に溺れる事例が目立つとのことだ。

 同行者に大人がいれば大丈夫ということではない。グループで川遊びをしていて発生した事故は、全体の約6割。同行者の構成別の事故を見ると、2069件のうち、最も多いのは「大人のグループ」で、786件で約38%を占めているが、「家族連れ」は429件、「大人に引率された子どものグループ」は69件、「大人に引率された高校生のグループ」は10件だ。

 水難救助行動の観点からまとめたデータでは、3311件の事故全体のうち、事故直後に同行者やその場に居合わせた人などによって救助行動(手や棒を差し伸べる、川に入るなど)がとられたケースは38.3%。そのうち14.4%で、同行者が事故に遭う二次被害が発生。その多くが「死亡・行方不明」になったという。二次災害で特徴的な点は、家族連れが約40%を筆頭に、子どもが含まれるグループでの事故が多く発生していることだ。二次災害の水難者は、保護者や引率の大人、一緒にいた年上の子どもであることが多く見られるという。

 こうした現状を受けて、同調査では「飛び込んで助けるのは最も危険な救助法」と指摘。救助法について危険度を6つのレベルに分類し、危険度が低い順に、(1)「声をかける」、(2)「浮くものを投げる」、(3)「スローロープや長いものを使う」、(4)「浅瀬をチームで渡る(膝下以下の水位)」、(5)「ボートを使う」、(6)「泳いでいく」として紹介している。

 菅原氏は「できるだけ、1~3の陸上で完結する救助を優先してほしいです。声をかけることはパニックに陥っている水難者を落ち着かせることができ、浅瀬や流れが緩やかな場所に誘導・指示を送ることができます。浮くものを投げるには、少量の水を入れたペットボトルやクーラーボックスなどが対象物になりますが、投げようとするものを取りに行っている隙に水難者を見失う可能性があります。スローバッグは長さ20メートルほどの浮く素材のロープがコンパクトにまとまっているツールです。腰に巻き付けるタイプのバッグを事前に身に付けておけば即座に活用できますが、手に絡まったり、使い方を間違えると、自分が川に引きずり込まれる危険性もあることを頭に入れておいてください」との解説を加える。

漂流姿勢及びスローロープでレスキューをする場面を再現した様子【写真:河川財団提供】
漂流姿勢及びスローロープでレスキューをする場面を再現した様子【写真:河川財団提供】

最大のポイントは「ライフジャケット」 河川にはリスク潜在化

 もし、自分や親戚の子どもが流された時、とっさの判断で、使命感や責任感で「水の中に飛び込む」選択をすることもあり得る。菅原氏は「6つのレベルは優先度を示したもので、事故状況には救助者・要救助者の装備(ライフジャケット着用の有無等)、流れの速さや水位、地形、要救助者との距離や状態など、さまざまなケースがあり、一概にはダメとは言えないです」と話す。

 ここで、安全確保の最大のポイントに挙げるのが、ライフジャケットだ。「人間は基本的には浮かばない。そして川には浮くことを困難にさせる流れがある。そこで、外的に浮力を補ってくれるライフジャケットを正しく着用していれば、常に頭が水面より上部に浮かぶので、呼吸を確保することができます。息をすることができれば、基本的には命は助かります。ホームセンターでも購入でき、年齢別のサイズもそろっていて、値段も2000円~5000円ぐらいです。最近はお子さんにライフジャケットを着用させているケースがよく見られるようになりましたが、保護者や大人もライフジャケットを着用することを勧めています」と強調する。

 ライフジャケット着用を前提として、流された時の注意点があるそうだ。水中の流木や川底の障害物など、体が何かに引っかかると、水平方向に強力な「動水圧」を受け、水中内で身動きが取れなくなるなどの致命的な状況になる。それは、急な流れとされる流速2メートル(毎秒)の場合、瞬間的には約160キロ分の力だといい、人間の力ではそれに対抗するのは困難になる。そのため、足がつきそうな浅い場所でも流れのある場所では、「立とうとせず、足先を浮かせることによって何かに引っかかるというリスクを少なくすることができます。そうした漂流姿勢を保ちながら、緩やかな場所まで流れていくことが大事です」。また、元にいた場所に無理に戻ろうとすると、流れに逆らって泳ぐことになりリスクが増すことも覚えておく必要があるとのことだ。

 また、子どもと一緒に川に入る場合は、大人が上流にいると、子どもが流された時に救助が間に合わなくなる。慌てて飛び込んでしまい二次被害リスクも高まる。そのため、あらかじめ流れが穏やかな場所を確認した上で、大人が下流側にいるなどして子どもを救助する体制(バックアップ)をとるなど、安全性を高めることも求められるという。

 河川には、地上からは安全そうに見えても、特殊な地形や複雑な流れなど思わぬリスクが潜在していることを常に意識することが重要だ。また、上流で雨が降ればやがてその水は下流へと到達し増水する。当日その場所が晴れていても上流の天気や前日までの雨の量なども川の状態に影響する。こうした川の特性を踏まえたうえで、菅原氏は「装備、活動の心得、情報の3点を、事前に準備・把握すること。河川は自然、レジャー、交流の場など、学びや魅力にあふれています。人生の活動の幅を広げることができるので、大人も子どもライフジャケットをしっかり着用したうえで、河川の魅力を楽しんでいただければ」と話している。

 ○…河川財団は、03年から21年までの水難事故の発生地点をまとめた「水難事故マップ」を公開している。事故の多い主な河川として、琵琶湖、長良川、多摩川、相模川、木曽川、荒川を挙げており、多発地点なども紹介している。同財団の菅原一成氏は「大都市圏、地方の中核都市からアクセスがしやすく、水遊びやレジャー、BBQなどで人気の場所は利用者が多いだけに、事故の件数も増えるものと考えられます。訪れる前に、水難事故マップや過去の事故事例などを事前に調べておくことも大事です。ただ、マップに載っていないからと言って安全とは言い切れません。河川や水辺には必ずリスクがあることを忘れないでください。ライフジャケットなどの対策をしっかり行うことが必要です」としている。

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