永瀬正敏の伝説的な連ドラが“復活” 超豪華ゲスト陣に1話2週間をかけた異例の撮影
2002年7月期に読売テレビ・日本テレビ系で放送された永瀬正敏主演の「私立探偵 濱マイク」が20年ぶりにオリジナル版として “復活”配信され、話題になっている。行定勲、青山真治、アレックス・コックスら映画、舞台、CMを代表する12人の監督がフィルムで撮影した伝説的な連続ドラマ。永瀬が秘話とマイクへの思いを語った。
「私立探偵 濱マイク」20年ぶりオリジナル版として配信
2002年7月期に読売テレビ・日本テレビ系で放送された永瀬正敏主演の「私立探偵 濱マイク」が20年ぶりにオリジナル版として “復活”配信され、話題になっている。行定勲、青山真治、アレックス・コックスら映画、舞台、CMを代表する12人の監督がフィルムで撮影した伝説的な連続ドラマ。永瀬が秘話とマイクへの思いを語った。(取材・文=平辻哲也)
「私立探偵 濱マイク」は横浜黄金町の映画館・横浜日劇の屋上に事務所を構える私立探偵の活躍を描く。ファッションに敏感、いつも金欠、女の子大好き、妹や仲間を大切にする自由人。しかし、事件の解決率は高くない私立探偵。それがマイクだ。
異例づくしのドラマだった。林海象監督による映画三部作を原作に、永瀬以外のキャストや設定を一新し、毎回のゲスト陣も豪華。菅野美穂、香川照之、泉谷しげる、樋口可南子、窪塚洋介、浅野忠信、原田芳雄、岸田今日子、大塚寧々、鈴木京香が名を連ねた。当時でも珍しかったフィルムで、1話2週間かけて撮影。時間等を度外視でこだわり抜いた作品には、熱狂的なファンも多い。
2013年に横浜みなと映画祭で「濱マイク大回顧展」として開催され、映画版&ドラマ版が完全上映され、17年にはCS日テレでオリジナル版が放送されたことも話題になった。DVD版もあるが、映画風のディレクターズカット版で、EGO-WRAPPIN’が歌った主題歌「くちばしにチェリー」はカットされていた。今回の配信版は、そのオープニングも入ったファン待望の復活版だ。
永瀬は、クランクアップの日を今も鮮明に覚えている。
「倉庫での撮影だったんですが、今まで参加してくれたスタッフがぞろぞろ集まってくれたんです。その景色を見て、最終カットも撮り終えてないのに、『こんなにみんなが愛してくれたんだな』と感極まってしまった。撮影が終わって、打ち上げした帰りには(ライブハウスの経営者ノブ役でドラマーの)中村達也くんからガラケーにメッセージが来たんです。『生き続けてくれ、マイク。10年後も、20年後も』と。これにも感極まってしまったんですが、みんなが愛してくれた作品が、新作ではないけれども、生き続けているんだと思うと、作品冥利、役者冥利に尽きますね。幸せです」。
永瀬は数少ない映画俳優というべき存在。だが、宮崎県都城で育った少年時代はテレビに親しんで育った。「傷だらけの天使」や「探偵物語」などかつてはフィルムで撮影した探偵ものがデジタル化で撮れなくなったとのうわさを耳にし、大好きだった「ムー一族」「寺内貫太郎一家」などのライブ感覚の仕掛け満載のドラマの面白さを「濱マイク」に詰め込んだ。
横浜日劇の屋上という設定の事務所は、横浜スタジアム近くの複合ビルの屋上に組んだほか、横浜黄金町近辺でロケ。「事務所のデザインは(世界的な第一人者の)美術監督の種田陽平さん。事務所の形が決まったことで、いろいろなことが決まっていきましたね。セットを使わずにロケをやったのは、横浜の匂いを封じ込めたかったから」。放送終了後も、喫茶店、食堂などロケ地めぐりをする人も多く、マイクは今も黄金町の人々に愛されている。
英フォトグラファー、グレン・ルックフォードが撮影したクールなオープニングタイトルから、こだわりが満載だが、現場は今では考えられないようなハードさだった。
特別な作品であり、特別なキャラクター “プロデューサー”的な役割も
「睡眠は平均3時間くらい。30分というときもありましたね。当初は、全12話の台本がそろった段階で撮影を始める予定でしたが、それぞれ監督や脚本家さんのこだわりでシナリオが大幅に遅れてしまったんです。横浜のホテルに寝泊まりして、ロビーで次回の打ち合わせしながら撮影。濱マイクを一番知っているのは僕だったので、みなさんが聞きにくるので、その調整をしないといけなかったから」と振り返る。
永瀬がこのドラマでやっていたのは「プロデューサー」的な役割だったが、クレジットにはない。
「僕はやりたいことを言うだけ(笑)。スクラムを組んで、実現してくれる人がしっかりできたので、この作品もできたと思います。それは、洋服を貸してくれたりとか、表に出ない人を含めてなんです。みんなの協力がなければ、中途半端に終わってしまう可能性もあったと思います。今、見てくださる方には、このこだわりを気軽に、新鮮に面白がってもらえるといいですね」
来年で俳優生活40周年を迎えるが、「濱マイク」は特別な作品であり、特別なキャラクター。マイクは分身的な存在と言ったら、言い過ぎだろうか。「あるかもしれないですね。できれば、マイクみたいな生活をしたいですよ。探偵なのに、事件は一つも解決しないんです(笑)。いい風に言えば、依頼者の何かは救っているんでしょうけども、逆に救われてばかり。いつも金に苦労していますが、なくても楽しく生きているのはいいですね」。
当時、実現できなかった企画もあるのだという。
「当時は概念もなかったと思うんですが、スピンオフをやりたかったんです。マイクはワンシーンだけで、レギュラー出演者が主役で、助監督さんが監督デビューする。DVDだけで展開して、ビデオ・レンタルチェーンに並ぶというもの。今なら、できただろうけど、撮影がいっぱいいっぱいで、それどころではなかったし。中村達也君とは、出ているミュージシャンを集めて、ロックフェスをやりたいね、とも。茶飲み話で盛り上がるだけなんですけども……」と笑い。
濱マイクには、妹・茜役の中島美嘉、レギュラー出演者の中村達也を始め、EGO-WRAPPIN’、UA、武田真治、ピエール瀧、LA-PPISCH、ナンバーガール、hitomi、小泉今日子とそうそうたるミュージシャンが出演。これもぜひ実現してほしい。
「濱マイク」復活の可能性はないのか。
「すごく言われるんですよね。第一線でやられているクリエイターや俳優が『出たかった』『パート2はないのか』と。でも、走れないしなぁ(笑)。この年でおねえちゃんを追っかけているのは難しいんじゃないかぁ……。ただ、こういう世界観を別の形でやりたいなとは思っているんです。今は若手の素晴らしい監督や俳優陣もいますから」。マイクを超える作品を期待したい。
□永瀬正敏(ながせ・まさとし)1966年7月15日、宮崎県出身。相米慎二監督「ションベン・ライダー」(83)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89)、山田洋次監督「息子」(91/日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞他)など国内外の100本以上の作品に出演し、数々の賞を受賞。台湾映画「KANO~1931海の向こうの甲子園~」では、金馬映画祭で中華圏以外の俳優で主演男優賞に初めてノミネートされた。河瀨直美監督「あん」(2015)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16)、河瀨直美監督「光」(17)ではカンヌ国際映画祭に3年連続で公式選出された初の日本人俳優となった。
スタイリスト・渡辺康裕
ヘアメイク・勇見勝彦