山手線の駅員激高、本来必要だったこととは? 「怒りで後悔しない」手法を専門家が伝授

JR山手線で駅員と非常停止ボタンを押した乗客による口論を撮影した動画がSNS上で拡散し、大きな物議を醸した。乗客の行動や激高した駅員について賛否の議論に。こうしたトラブルの際に、冷静になって話すにはどうしたらいいのか。怒りの感情と上手に付き合うための心理教育「アンガーマネジメント」に詳しい、「一般社団法人日本アンガーマネジメント協会」の戸田久実理事に聞いた。

JR山手線の駅員激高が話題、怒りに振り回されない方法とは(写真はイメージ)【写真:写真AC】
JR山手線の駅員激高が話題、怒りに振り回されない方法とは(写真はイメージ)【写真:写真AC】

怒りの感情と上手に付き合うための心理教育「アンガーマネジメント」 講師歴29年の戸田久実理事に聞いた

 JR山手線で駅員と非常停止ボタンを押した乗客による口論を撮影した動画がSNS上で拡散し、大きな物議を醸した。乗客の行動や激高した駅員について賛否の議論に。こうしたトラブルの際に、冷静になって話すにはどうしたらいいのか。怒りの感情と上手に付き合うための心理教育「アンガーマネジメント」に詳しい、「一般社団法人日本アンガーマネジメント協会」の戸田久実理事に聞いた。(取材・文=吉原知也)

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 騒動は今月4日に発生。JR東日本東京支社によると、動画は4日午後8時ごろ、JR山手線の渋谷駅構内で撮影され、線路内に財布を落として非常停止ボタンを押した撮影者の乗客と、JR東の駅員のやり取りが収められた。

 動画では「なんで取ってくれないんですか」「お願いしてるじゃないですか」などと言う乗客に対し、駅員が「何なんだその態度は!」「お願いしてる態度か! 山手線止めてんだぞ!」などと怒鳴る。問答の末に駅員が「とりあえず交番いくからな」「今日帰れねえからな。事情聴取長えから」と話すところで途切れている。5日になって動画がネット上で拡散され、物議を呼んだ。

 乗客は電車を降りる際にホームと車両の間から財布を線路内に落とし、それを拾おうとホームから身を乗り出したり線路内に降りようとしているところを、危険を感じた駅員が制止。安全なタイミングで拾うには時間を要すると説明したものの、その最中に非常停止ボタンを押されたためトラブルになったとされている。

 JR東が「言葉遣いは適切ではありませんでした」と認めた駅員の話し方。戸田氏は「安全確保、平常運行の役割があることは分かりますが、言い方・伝え方の工夫と配慮が必要だったと思います。恐らくこの駅員の方は使命感が強かったのだと思います。イラッとする気持ちを持ったとしても、暴言を吐いてしまっては、本来伝えたかったことが相手に伝わりません。それに、こうして動画が広まることで世間に誤解されてしまう可能性もあります。ニュースになるような事態は本意ではなかったことと思います」と話す。

 そもそもアンガーマネジメントの根底にある考え方はどのようなものなのか。「『怒るな』とか『イラッとしても我慢しろ』ということではなく、怒る必要のある時は怒っていいんです。ただ、怒り方が大事で、適切に上手に怒ることが求められます。アンガーマネジメントは怒りで後悔しないことを目指します。どういうことかと言うと、『あんな怒り方をしなければよかった』『あの時に怒っておけばよかった』と後悔しないことです」と説明する。

「怒っていると、相手をやり込める口調になってしまうことがあるので要注意」

 今回のケースで言うと、本来、駅員として乗客に伝えたかったことに立ち返ることが必要という。「今回は、危ないから待ってほしいということです。それに、電車を止めると何千・何万の乗客に影響が出てしまう恐れがあること、非常停止ボタンを押すのは命の危険や事故の可能性がある時と言われているので、ボタンを押す場合の説明だと思います」。さらに、乗客の心理についても分析し、「動画を見る限りでは、乗客側の受け答えにもこれはいけないなという部分はありますが、恐らく乗客側からすれば、『相手(駅員)が必要以上に不当に怒ってきた。自分が財布を落として困っていることを分かっていない』と感じたのではないかと推測されます。今回のように財布を線路に落として焦ったり動転している相手には、怒鳴ったり、長い説明を言い聞かせても頭には入りません。こうした場合は相手が困っていることへの共感、いまは危ないから後で必ず対応する旨、いま電車を止めると大勢に影響が出る可能性について、短いセンテンスで繰り返し話しかけることが大事になります」と話す。

 また、相手が悪いと証明するためのような怒り方になっている点にも言及。「怒りに振り回されないことが重要です。怒っていると、相手に対して『お前が悪いんだ』とやり込める口調になってしまうことがあるので要注意です。相手に勝つという意識になりがちですが、あくまで大事なのは相手に分かってもらうことです。一般的に、自分がこうあるべきだと思っていることが思い通りにいかない時に、怒りの感情は発生します。『こうあるべきなのに、相手がしない。だから相手が悪い』と考えるのではなく、相手に、『~してほしい』とリクエストを伝えること。こういったように発想を転換することがいいでしょう」とのことだ。

 そして、戸田氏は最後に具体的なアンガーマネジメントの方法をアドバイス。「イラッとしたり、ムカついた時は、理性が働くまでの6秒間をやり過ごすことが大事です。これは決して、6秒たてば怒りが消えるということではありません。理性を働かせれば、本来伝えたいことを再確認することができますし、怒鳴るような行為は避けることができます。6秒やり過ごすためにどうするのか。その時の怒りの点数を思い浮かべることも1つの対処法です。『この怒りは0から10だと何点になるかな』と考えれば、意識は怒りから離れます。それに、深呼吸をして気持ちを落ち着けることも有効です。トラブル時だけでなく、仕事の人間関係、プライベートでも家族・パートナーとのやりとりの中できっと役立つと思います」としている。

□戸田久実(とだ・くみ)、「一般社団法人日本アンガーマネジメント協会」理事、アンガーマネジメントコンサルタント。大学卒業後、株式会社服部セイコー(現セイコーホールディングス株式会社)で営業、音楽系企業で社長秘書として勤務。講師歴は29年で、現在は研修講師として民間企業や官公庁を対象に、多岐にわたる研修や講演を実施している。

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