芥川賞・高瀬隼子氏は事務職の34歳 小説を書く原動力は“ムカつき”

第167回芥川賞、直木賞(日本文学振興会主催)が20日発表され、芥川賞を受賞した高瀬隼子氏(34)が都内のホテルで記者会見に出席した。受賞作は「おいしいごはんが食べられますように」。

記者会見に出席した高瀬隼子氏【写真:ENCOUNT編集部】
記者会見に出席した高瀬隼子氏【写真:ENCOUNT編集部】

芥川賞の候補者が全て女性であるのは初めてだった

 第167回芥川賞、直木賞(日本文学振興会主催)が20日発表され、芥川賞を受賞した高瀬隼子氏(34)が都内のホテルで記者会見に出席した。受賞作は「おいしいごはんが食べられますように」。

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 今回は候補者5人全員が女性。1935年に創設された芥川賞の候補者が全て女性であるのは初めてだった。本作の選考では、職場などの小さな集団の人間関係を立体的に描いたことなどが評価された。

 高瀬氏は愛媛県新居浜市生まれ。立命館大文学部卒。2019年、「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビューした。

 受賞の感想について、「ここに来るまで全然実感が沸かず、担当編集者とタクシーで来たのですが、うそかもしれないと言いながら来ました。びっくりし続けています」と語った。受賞の一報を受けて夫に電話で連絡をしたといい、「喜んでいました。『受賞したよ』と伝えたところ、『よかったね』と涙ぐんだ声で喜んでくれました」という。

 社会人として事務職として働きながら執筆活動をしている。「私自身、勤め始めて10年と少しがたちました。自分が働き始めた10年前といま現在と比べると、いい方に変わってきていると思います。その中で小説が果たせる役割なのかは分からないですが、こんなつらいこと、恐ろしいことが続いたりすることを、小説の中ですくい取っていけたら、それを読んで受け取った方が救われるまでいかなくても、何か考えていただけたらと思います。(社会人として)他者と働くという社会人経験は生きていると思います。職場だと年代もバラバラの人たちと毎日顔を合わせる中でやっていく、その経験が生かせていると思います」と語った。

 小説を書く原動力は“ムカつき”から発想がスタートするといい、「ムカつくよね、でもこんな理由がある、こんな考え方もあるんだと、読者の方それぞれで受け取っていただけたらと思います」と話した。今回の作品について、「小説は書いているうちにこんな話かなと書いていくのですが、前の作品がお風呂に入れなくなる夫の話を書いて、入れないことに真っ向から否定しない妻の立場から書きました。その時に弱者への寄り添いの点がいいと言ってくださる方が多くいた印象でした。私はもしかしたら逆も書いてみたいのかなと思って、社会の中で、乗り越えたり持ちこたえたり、我慢してどうにかしてしまう側の人たちの内面にあるムカつきみたいなところが自分の中で気になっていて、それを書きたいなと思いながら書き続けたら、この話になりました」と明かした。

 子どもの頃から思い描いていた小説家の夢。今後について、「この世界で生き残っていきたいという気持ちが強くあります。この後、これで終わりではなく、ここから頑張れという意味で受賞をさせていただいていると思うので、書き続けていきたいと思います」と今後の抱負を語った。

 正賞は時計、副賞は賞金100万円。贈呈式は8月下旬に都内で行われる。

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