【週末は女子プロレス#58】中2で憧れたデスマッチ プロミネンスの19歳・鈴季すずが超売れっ子状態になったワケ

世羅りさをリーダーとし、今年4月に旗揚げしたデスマッチ&ハードコア女子プロレスユニット「プロミネンス」。そのナンバーツー的存在なのが、19歳の鈴季すずだ。昨年末でアイスリボンを退団し、現在はプロミネンスの看板を背負いながらフリーとして活動、さまざまな団体に参戦しており、17日には「人生最大の大一番」とするダブルヘッダーが待っている。

鈴季すず【写真:ENCOUNT編集部】
鈴季すず【写真:ENCOUNT編集部】

デビューからわずか1年7か月での団体最高峰王座戴冠

 世羅りさをリーダーとし、今年4月に旗揚げしたデスマッチ&ハードコア女子プロレスユニット「プロミネンス」。そのナンバーツー的存在なのが、19歳の鈴季すずだ。昨年末でアイスリボンを退団し、現在はプロミネンスの看板を背負いながらフリーとして活動、さまざまな団体に参戦しており、17日には「人生最大の大一番」とするダブルヘッダーが待っている。

 昼のwave後楽園ホールで野崎渚とCATCH THE WAVE決勝を争うと同時に、野崎の保持するレジーナ王座に初挑戦。夜の新木場1st RINGではプロミネンスのホームリングで、「鈴季すずデスマッチ10番勝負」第2戦、ドリュー・パーカーと対戦する。こちらは男子レスラーで、しかも何をしでかすか分からない外国人。さらにその後には、怨敵ジュリアとのハードコアタッグマッチやスターダムのシングルリーグ戦5★STAR GP参戦まで決まっているからすさまじい。

 ほんの数年前までプロレスのことさえ知らなかった鈴季。彼女はいったいどのようにして、プロレスの世界、しかもデスマッチの領域に足を踏み入れたのだろうか。

「中学2年生の夏休みのある日、たまたま夜ふかししてテレビを見てたら、小橋建太さんの『フォーチュン・ドリーム』をBSか何かで放送していたんです。そこで宮本裕向さんの試合を見てプロレスに興味を持って、調べていったらデスマッチにたどり着きました」

 プロレスといえばアントニオ猪木、長州力の名前を知るくらいで、地元・宮崎県では目にする機会もほとんどなかった。それでもプロレスについて調べていくうちに、宮崎に大日本プロレスがやってくることを知った。これをきっかけに何度か見に行くようになり、大日本のデスマッチを知った。宮本も、大日本で活躍するデスマッチファイターのひとりだった。

「人間ってこんなに強いんだ、こんなに頑丈なんだと思いましたね。しかも、絶対に痛いはずなのにイキイキと楽しそうに闘ってるんですよ。それで不思議な気持ちになっちゃって、蛍光灯でたたかれたらどんな感じなんだろうとか、有刺鉄線って痛いのかなとか、そういう好奇心が沸いてきちゃって、自分でもやりたくなっちゃいました(笑)。そこから女子でもやってる人いるのかなと思って『女子プロレスラー デスマッチ』で検索してみたんですね。そこで出てきたのが、『世羅りさ』」

 世羅の所属するアイスリボンに履歴書を送り、上京した鈴木は同団体の練習生となった。だが、世羅に憧れプロレスラーを目指しているとは面と向かって言えなかった。団体の誰にもそのことについては話していない。当時は、地方から出てきた一介の練習生にすぎない存在だったのだ。

 しかし、世羅が団体トップの藤本つかさとの電流爆破デスマッチを熱望していたとき、いてもたってもいられずリングに上がってしまった。2018年10・28両国KFCホールでのメイン終了後、鈴季は世羅に向かって、その思いを告白した。

「世羅さんがきっかけでアイスリボンに入り、私もデスマッチがやりたいんだというのをそこで初めて言いました(苦笑)。それはもうビックリしてましたね。ホントにあのときは考える前に体が動いたって感じで」

 当の世羅はもちろん、全員が驚いた。なにしろデビュー前の練習生がメイン後のリングに上がりマイクを手にアピールしたのだ。しかも「プロレスでハッピー」をモットーとする団体でデスマッチ志望とは……。

 鈴季の言うように、これは「怒られる案件」である。

 本来ならその年の8・26横浜文化体育館でのデビューが決まっていた。が、デビューを知らされた日の帰り道に自転車で転倒、左鎖骨を骨折してしまった。安静期間中の暴走だっただけに、振り返ってみればのちのハードコア路線を暗示するようなエピソードではある。

 その年の大みそか、鈴季はデビューにこぎ着けた。同級生の朝陽をジャーマンスープレックスホールドで破り、いきなり初勝利。以来、ジャーマンはこだわりを持って使っている。近年、美しいブリッジでジャーマン系の技を得意とする女子レスラーが増えており鈴季もその1人だが、彼女の場合、ブリッジの美しさとともにキレも新人離れ。キレの良さはジャーマンに限らず、ほかの技や動き、たたずまいにまで垣間見える。そこに彼女の非凡さが伺えるからこそ、若干17歳、デビューからわずか1年7か月での団体最高峰王座(ICE×∞王座)戴冠も納得できるのだ。

王者になった心境【写真:ENCOUNT編集部】
王者になった心境【写真:ENCOUNT編集部】

鈴季の心の中でジュリアへの憎悪が消えることはなかった

 王者になったことで、鈴季には発言権が増したという。告白したとはいえ新人時代にはなかなか通らなかったデスマッチ志望も「ハードコア7番勝負」で実現させた。が、鈴季には非日常のデスマッチを日常にしたいとの野望があった。悶々とした日々を送るうちに世羅に退団の意思があることを伝えられ、最初は「引退するのではないか」と危惧したものの、プロレスの方向性が同じだと知りついていくことに決めた。そこで生まれたのが、世羅、藤田あかね、夏実もち、柊くるみとのプロミネンスだ。

「世羅は自分が憧れた人だしデスマッチに愛がある。この人とデスマッチユニットを組んでやったら絶対おもしろいとの確信があったので、迷うことなく(一緒に)やりますって言いました」

 とはいえ、レスラー人生で初の退団、フリー転向である。ユニットの仲間たちも同様。準備期間ととらえるプレ旗揚げ戦を経てから正式に旗揚げ戦をおこなった理由はそこにある。そして、現在はさまざまな団体に参戦。「乱入癖があっていろんな団体にケンカ売ったら、なんだかんだと買ってくれて(笑)」と鈴季。超売れっ子状態と言っていいだろう。

「試合したことない、いろんな選手と闘える。ホントにいまがプロレスラー人生で1番なんじゃないかなというくらい充実してますね。1か月たつのが早くて早くて仕方ないくらい(笑)。旗揚げしてまだ半年くらいですけど、いろんな経験をさせてもらってる気がします」

 10日にはセンダイガールズ後楽園でDASH・チサコとハードコア戦をおこなった。この闘いで、同じハードコアでもまったく異なる文化に触れたような感覚を持ったという。

「試合の間(ま)とか攻撃のスピードとかが、いままでやってきたものとは違って、初めて見たもののように感じました。ハードコアひとつをとっても幅広いなと思いましたね。選手によっていろんなスタイル、いろんなやり方があるんだなって」

 waveではシングルリーグ戦「CATCH THE WAVE」のフューチャーブロックを1位通過。決勝リーグでも敗者復活戦で生き残った選手に追い越されることなく、堂々の決勝進出を決めた。しかも、7・17の決勝戦でぶつかる野崎の希望からレジーナ王座まで懸けられることに。鈴季にとって他団体の最高峰王座に挑むのはこれが初めてであり、野崎とは正真正銘の初対戦。また、史上最年少“波女”誕生の期待もかかる。「濃いリーグ戦を闘い抜いた」との思いも重なり、野崎との決勝戦&タイトル戦を「未知の世界に足を突っ込む気がしてワクワクが止まらないです!」と楽しみにしているのだ。

 waveでの試合後、鈴季は新木場に直行しD・パーカーとデスマッチ。ビオレント・ジャック戦でスタートした10番勝負には、すでに完走後の青写真も描いている。それは、旗揚げ第2戦(5・29新木場)で引き分けた世羅とのデスマッチによる再戦だ。

「まだ言ってないんですけど、プロミネンス1周年で再戦したい。そのつもりで10番勝負を始めました。もっと修行して世羅にリベンジする。それが当面の目標ですね」

 プロミネンスが打倒・世羅なら、フリーになって乗り込んだスターダムでは打倒・ジュリアが大きなテーマだ。寮で一緒に生活をし、プロレスについて常に語り合ってきたジュリアが突然アイスリボンから消えた。どうして一切の相談もなく去ってしまったのか。あの日から、鈴季の心の中でジュリアへの憎悪が消えることはなかった。

「フリーになったら絶対に襲撃してやると思ってたんですよ。今年1月にいいタイミングで襲撃はしてやったんだけど、なかなか一騎打ちが組まれない。『いい舞台を用意するから』と言っても5★STAR GPの公式戦でしょ。しかも10月1日(大田区総合体育館)って待たせすぎ。リーグ戦っていうのも気に入らない。星取りとかしがらみのない状態でやりたいのが本心だけど……」

「待たせすぎ」との声に応えるように、スターダムのジュリアは「そっちの土俵でやってもいい」とハードコア戦を提示。ジュリアのパートナーには桜井まいが名乗りを挙げ、7723名古屋でのジュリア&桜井まい組vs世羅りさ&鈴季すず組が決定したのだが、このカードについても鈴季はおかんむりだ。

「NEW BLOOD2(5・13)で私に負けたヤツ(桜井)が何言ってんの? ハードコアをなめんなよって」

 とはいえ、ジュリア目当てで乗り込んだスターダムに興味を抱き始めたのもまた事実。

「ジュリア以外とも闘って、おもしれえヤツいるじゃんって最近思うようになってきましたね。5★STAR GP(7・30&31大田区で開幕)でまだやったことのない選手とたくさん闘えるので、ここは単純に楽しみにしてますね」

 鈴季すずが今年後半、女子プロレスの台風の目になることは間違いないだろう。ハードコア&デスマッチでも、また通常の試合でも鈴季の試合、動向から目が離せない!

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