愛妻の急逝でどん底へ 突然の不幸を乗り越えデスマッチに復活した竹田誠志の生きざま

「神様はいない」と悲劇に見舞われた“デスマッチ戦士”竹田誠志が復活ロードを歩みだした。

 復活の雄叫びをあげる竹田誠志【写真:柴田惣一】
 復活の雄叫びをあげる竹田誠志【写真:柴田惣一】

柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.103】

「神様はいない」と悲劇に見舞われた“デスマッチ戦士”竹田誠志が復活ロードを歩みだした。

 1月に愛妻・由佳さんが突然、天国に逝ってしまうという地獄を味わった竹田。残されたまな娘はまだまだ幼い。「この世の終わり」と、どん底にたたき落されたというのも無理もない。

 半年間、娘のために頑張るのが精いっぱい。気持ちの整理などできなかった。それどころか、苦しみは永遠に続くのかも知れない。

 それでも、復帰の場を用意し、辛抱強く待っていてくれた仲間たちがいた。憧れであり、師であり、同志である葛西純を始めとするデスマッチを愛する男たちがいた。

 フリーダムズ6・23東京・新木場大会のリングに向かった。不安だらけだった竹田をファンが温かく、かつ熱狂的に迎えてくれた。「神はいないと思っていたけど、プロレスラーという天職をくれた。俺にはプロレスしかない」と思えた。地獄から抜け出すきっかけは、やはりプロレスだった。

 葛西純プロデュース興行(7・10東京・後楽園ホール大会)が復帰戦となった。パートナーは葛西と正岡大介。対峙するのはヴィオレント・ジャック、ドリュー・パーカー、佐久田俊行の3人。リング上にはデスマッチの猛者がそろっていた。

 竹田同様、デスマッチに文字通り人生をかけて臨んでいる男たちばかり。命を削りあうリングは、やはり竹田が生きる戦場だった。蛍光灯、ガラスボード……竹田は躍動した。凶器の破片が肉に食い込み、突き刺さった。滴り落ちる血が、様々な思いも洗い流してくれるようだ。

 もちろん、奥さまへの愛は変わらない。天国からプロレスの神様と一緒に、竹田の勇姿を見守っていてくれるはずだ。2歳になったまな娘は本部席でパパの闘う姿を泣きもせず見つめてくれた。

 赤い涙を流した竹田がマイクを握った。「竹田誠志がデスマッチに帰ってきたぞ。レスラーとしてリング上で言うことじゃないけど、今日だけは言いたい。代表・佐々木貴、葛西純。このリングに戻してくれてありがとうございました」とまずは感謝の言葉。彼らがいなければ、プロレスラー・竹田誠志は終わっていたかも知れない。

「俺のそばで、いつも無邪気な笑顔を見せてくれた娘。これがパパの本当の姿なんだ。血を流して、頭がおかしくて。こんなパパだけど、お前を世界で一番に育ててやる。俺の背中についてこい」と呼びかけた。娘さんはまだ理解できないだろう。でも、竹田が世界一のパパであることは伝わったはず。

 奇しくもこの日が誕生日だという天国の奥様にも「オイ、嫁さん。アンタがいて思いっきりデスマッチができた。こらからも見守っていてくれ」と呼び掛けた。「はい」と言う由佳さんの声が聞こえてきた気がする。

 まだコロナ禍の前、大会後の飲み会に竹田を誘っていたが、試合で背中に重傷を負ってしまった。最後まで闘い抜いたものの、残念だが今夜の酒席は欠席と皆が思っていた。ところが、病院に向かうための車を待たせて、お店に顔を出してくれた。電話で断ってくれればいいのに、わざわざ来てくれたことに参加者は感激しきりだった。

「いや、すいません。背中に穴が開いちゃって」と頭をかく竹田。「背中に穴!?」と一同驚愕。「今日はすいません。またお願いします」と、激痛をおくびにも出さずにあいさつしてくれる姿に、恐縮しデスマッチ戦士のすごさを再認識したものだ。また「竹田誠志って『誠の志』と書くのでしょう。新選組みたいでかっこいい名前ですね」と言った人がいた。竹田は「いやいや、そんな大したものじゃないですよ」と謙遜したが「スジは通したいですね」と、どこかうれしそうだった。

 デスマッチのリングを離れれば、好漢そのものの竹田に、神様は何とも残酷な試練を与えた。でも、娘さんのためにも、闘い続けてくれるはず。プロレスの神様がついている。もちろん、仲間もファンも応援している。頑張れ! クレイジーキッド!

次のページへ (2/2) 【写真】竹田誠志が見つめるのは天国の愛妻か
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