落選の乙武洋匡氏「すがすがしい」笑顔の理由 無所属を貫いた信念、気になる“今後”
乙武洋匡氏にとって人生で初めての選挙は「やれることはやり切って、やるべきことは全部やった。すがすがしい気持ちで、悔いはありません」。落選確実となっても、顔を曇らせることなく、笑顔を見せた。
安倍元首相の銃撃・殺害事件を受けて非暴力の行進を行った
乙武洋匡氏にとって人生で初めての選挙は「やれることはやり切って、やるべきことは全部やった。すがすがしい気持ちで、悔いはありません」。落選確実となっても、顔を曇らせることなく、笑顔を見せた。
10日に投開票が行われた第26回参院選。東京選挙区(改選数6)に無所属で立候補した作家の乙武氏は、都内の会議室で、集まった約40人の支援者らと開票状況を見守った。
18日間の選挙戦を「毎日が楽しかった」と振り返るのは、ボランティアの存在があってこそ。最終的に10代、20代から70代まで、約1600人が登録。政策検討、クリエーティブ面、SNS運営など、参加者それぞれが役割分担し、乙武氏をサポートした。寄付金は3000万円以上集まったという。“手作り”の選挙活動。「演説をやるごとにボランティアの皆さんがどんどん増えていった。かけがえのない仲間。感謝しかないです」と思いを込めた。
乙武氏の気遣い、“らしさ”が垣間見られる場面があった。午後8時に開票が始まり、10分を過ぎたころ。会場中がテレビの開票速報を固唾(かたず)を飲んで見守っていた。やや緊張感が張り詰めていたが、乙武氏は「みんなおしゃべりをしていていいんだよ」と声かけ。そのひと言が、その場を和ませた。
2016年夏の参院選にも自民党公認で出馬準備を進めていたが、週刊誌に不倫問題を報じられ、一度は出馬を断念。6年越しの悲願成就に向けて今年5月、「この日本を、社会を、より多くの選択肢がある、多様性のある社会にしていきたい」と決意を語って出馬表明した。若者の集まる渋谷センター街に事務所を開き、積極的な演説に加えてSNSも駆使し、自身の思いと政策を訴え続けた。
公示前には「2ちゃんねる」開設者で実業家の西村博之(ひろゆき)氏、公示後には実業家の堀江貴文氏から、応援演説のサポートをもらった。それでも、全国最多の34人が乱立した激戦区の東京で、無所属出馬は苦戦を強いられた。悲願は果たせなかった。
敗因の分析で主な理由に挙げたのが、「政党の壁」だ。「国政選挙では無所属がここまで不利だとは。やってみて痛感させられた」。今回も複数の政党から声をかけられたが、それでも、あらゆる立場の支援者に応援してもらいたいと無所属を貫いた。後悔はないことを強調した。
選挙中に衝撃が走った。8日に発生した安倍晋三元首相の銃撃・殺害事件。当初の街頭演説の予定を取り止め、暴力行為に対する抗議を決意。9日には「乙武大行進」として東京・渋谷の選挙事務所から国会議事堂まで、車いすを降りて義足を付けず、約12時間かけて歩き、非暴力を訴えた。「暴力に対して、徹底的に強く抗議する。私にしかできない表現で示すことが重要ではないかなと思いました」。この時だけは、険しい表情で語った。
今後の選挙への意欲について、記者から何度も聞かれた。「(可能性は)今はゼロです。パーセンテージでは難しいですが、考える入り口に立っていないという意味です」と明言を避けた。
落選ではあったが、結果的に約31万票を獲得した。「僕らの生きづらさ、解消してもらいたい社会課題は争点にすら挙げてもらえないんだな、と。無所属として会心の戦いが出来て、悔いはないけど、悔しい。でも、物事を改善させていくのは、まずは現実を受け止めること。そしてここからどう上積みをしていくか。ここをスタート地点としてここから積み上げないと」と強調した。「皆さんの思いは、私の力不足で届けることができなかったです。そこに悔しさはあります。当選した方々には、乙武に託してくださった皆さんの思いをどうか受け止めていただきたいです」と付け加えた。
「とりあえずゆっくり寝たい」と質疑応答の場を締めくくった。多様性のある社会の実現のため、歩みを進め続けるつもりだ。